トランプのおかげで史上最高値をどんどん更新「有事の金」に今からでも投資すべきなのか…73歳現役FPの回答

2025年4月24日(木)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pla2na

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トランプ米大統領の関税政策の影響で株価は乱高下。対して「有事のゴールド」が最高値を更新している。今からでも買うべきなのか。73歳現役FPの浦上登さんは「今後の市場の不透明さを考えると、値動きリスクのヘッジ手段として投資額の10~20%を金にすることを検討すべき。金の価格は今は高いが、毎月少しずつ積み立て投資する方法もある」という――。
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■なぜ世界の投資家は「金」にも投資をするのか


アメリカのトランプ大統領が世界全体を相手に関税をかけると言い出し、株価が暴落した「トランプショック」。4月9日には報復関税を課さない国には相互関税は90日猶予するという声明を出したので、一転して株価は急騰したが、中国には125%の関税をかける(4月11日には145%に訂正)と宣言したこともあり、今後どんな形で事態が収拾されるのかは見えていない。


アメリカのAEI(The American Enterprise Institute)というシンクタンクは、トランプ政権の計算が間違っていて、彼らが提示した相互関税は本来の数字の倍になっていると指摘した。これが本当なら、始めから間違った認識によって世界を混乱に陥れたことになる。


基軸通貨を持ち、世界のGDPの4分の1を占める国といえども、腕力で歴史の針を巻き戻すことはできない。これで世界を恐慌に巻き込んだらトランプ大統領は永遠に悪名を歴史に残すことになるだろう。


ここで、方針を修正したとしても、バブル崩壊の兆しが見えていた米国の株式市場がどうなるかは予測不可能だ。


図表1を見ていただきたい。アメリカのS&P500の価格推移を直近の4つの株価後退、すなわち、リーマンショック、コロナショック、ウクライナ戦争、トランプショックで比較したものだ。


直近の高値からの下落率で比較すると次の通り。


リーマンショック △57%
コロナショック △44%
ウクライナ戦争  △25%
トランプショック △19%
(2025-4-12現在)


この比較でいうと、今のところ従来の3つの株価後退と比べれば、ショックは一番軽いが、今後株価は調整局面に入る可能性が高そうである。


■値動きのリスク分散としての金投資


まず、トランプショックについて説明したが、この記事の主題は、値動きのリスク分散の手段としての金投資だ。


図表2と図表3を見ていただきたい。図表2は「S&P500と金の比較チャート(2006~25年)」だ。


ここではまず2008年のリーマンショックの際に株価の下落に反して金価格が緩やかに上昇しているのがわかる。


次に特徴的なのは、2020年から21年にかけて、S&P500がコロナショックで暴落したときに、金が逆行して上昇していることだ。コロナ暴落が始まったとたん、金が買われだし、少し遅れて金が急上昇しているのがわかっていただけると思う。


右端の2025年3月から4月のチャートだが、ここでもトランプショックの開始と合わせて金が急上昇している。


■現在最高値、株価が急落したときほど金は急激に上昇する


続いて、図表3に移ってみよう。


図表2ではトランプショックにおける金の上昇がわかりにくかったが、図表3でみるとよくわかる。金はトランプショックの始まる前の2025年1月から上昇を開始し、4月のトランプショックによる暴落に逆行してさらに上昇している。


金は「有事の金」といわれ、戦争や株価暴落などの市場の急変時に上昇する傾向があるといわれてきた。2020年3月のコロナショックにおける株価暴落と今回のトランプショックはその典型例だ。


リーマンショックは世界金融の構造的問題、コロナショックはパンデミック、ウクライナ戦争がロシアによる侵略戦争、トランプショックは関税戦争といえるがこのうち急激な株価下落が起こった3回についていうと金価格は上昇している。


ウクライナ戦争の場合は景気後退を意識した緩やかな株価下落であったため金価格の急上昇は起こっていない。株価が急落したときほど、金は急激に上昇するのがわかるだろう。


■投資金額の10~20%を金に回すと、心理的な負担が減る


コロナショックや今回のようなトランプショックが起きると、株価は大幅に値下がりする。「長期的にみれば、上昇軌道に戻る。売却しなければ損は確定しない」といっても、暴落時における株価の下落は株式投資における大きな精神的負担である。人によっては暴落時に狼狽売りをして大損をしてしまうことがある。


2024年8月5日に日経平均が史上第2位の下落幅(4451円安)を記録したとき、わずか1日で回復したにもかかわらず、日経平均やオルカン、S&P500などのインデックス・ファンドを投げ売りした人がいたそうだ。


今回のトランプショックでも同じような人がいるのではないか?


株価の急落に人はそう簡単に耐えられるものではない。そんな時に、投資資産のうち、10%でも20%でも、相場の流れに逆らって上昇してくれるものがあると、何よりも精神的に楽で、冷静な判断ができるようになる。


その意味では、株式、投資信託と併せて、投資資金の10%でも20%でも金投資に回すことは大きな意味がある。


■金価格の値動き、23年間で価値は11倍にも膨らんだ


図表5を見ていただきたい。これは2002年から2025年4月までの金の値動きを米ドル建てで示したものである。2002年から一貫して上昇していることがわかる。特に2023年以降の上昇率はかなり大きい。


これを表にしたのが、図表4である。


2002年1月2日から2025年4月10日までの上昇率を比較すると、S&P500が4.56倍であるのに対し、金は何と11.51倍である。


値動きのヘッジだけでなく、キャピタルゲイン狙いの投資商品としてもS&P500をはるかにしのぐ優秀な商品だということがわかる。


■実物資産としての裏付け、リスクヘッジという「メリット」


投資手段としての金の特徴を見てみよう。


1)実物資産なので「金そのもの」に価値の裏付けがある

金の埋蔵量には限りがあるため希少性が高く、かつ、腐食せず不変性がある。


それが歴史的に金への信頼をゆるぎないものとしてきた。それゆえ、戦争、天災等の非常事態が発生したとき、資産を金に換えて守ってきたので、「有事の金」と呼ばれてきた。


金自体が信用の源なので、価値がゼロになることはない。1971年のニクソン・ショックまでは、金とドルが交換可能という形で、世界の基軸通貨のドルを支えてきた。一方、株式や通貨は企業や国のような発行体の存在が前提で、発行体の信用で価値が保たれるが、発行体がつぶれれば価値はゼロになる。


2)実物資産にもかかわらず、流動性が高い

取引インフラが整備され、流動性が高いので、いつでも換金できるのがその特徴だ。


同じ実物資産でも、不動産(土地や建物)、プラチナ、ダイヤモンドなどの貴金属、美術品・骨董品などの資産と比べると大きな特徴といえる。


3)インフレや通貨下落に対するヘッジ効果がある

金は発行体の信用に頼る必要がないため、長期的なインフレや通貨の価値下落から資産を守る手段として使うことが可能だ。


経済危機や地政学リスクへの対抗手段として、世界経済が不安定になると金価格が上昇しやすい傾向がある。株式や不動産が下落しても、金が支え役となってポートフォリオの損失を緩和することがあるので、先ほど述べた値動きのリスクのヘッジ手段として使うことができる。


写真=iStock.com/alfexe
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■配当や金利がない、管理コストがかかるという「デメリット」


4)配当や金利を生まない。すなわちインカムゲインがない

金は株式や通貨と違い、配当や金利を生まない。すなわち、インカムゲインをもたらさないため、時の経過とともに自動的に価値が増えることはない。金融資産としては、金価格上昇によるキャピタルゲインしか期待できないという性格を持っている。


5)保管・管理コストがかかる

金地金や金貨を自宅などで保管する場合、盗難リスクや管理コスト、それにかかる手間が発生する。専用の保管サービスを利用する場合にはサービス業者への手数料がかかる。


6)取引は米ドルで行われるため実質ドル建て資産である

金は米ドルで取引されているので、米ドル建ての資産と考えるべきだ。1グラム当たり何円という円建ての価格もあるが、それはあくまでも、ドル建ての金価格を円ドル為替レートで換算したものにすぎない。


■史上最高値を更新する状態で、金を買うべきなのか?


金を投資のポートフォリオに組み込んでいない人は、今からでも組み込むことをお勧めする。問題はどのタイミングで組み込むかだ。相場というのは一本調子で上がることはないので、最高値を更新する現在ではなく、しばらく様子をみて、下がったときに買い付けるのがよいかもしれない。


買付の方法は、半年でも1年でも毎月少しずつドルコスト平均法で積み立てれば、高値をつかんであとで苦しむことは少なくなる。


今までの値動きからほぼ確かと言えるのは、今後さらに相場が急落すれば、金は上昇する傾向が高く、相場が緩やかな下落か、少しでも上昇すれば、金の価格は横ばいか、今の価格から少し下がる傾向になるだろうということだ。


具体的な金投資の方法にはどのようなものがあるだろうか?


金投資には金の価格にリンクしたETFや投資信託に投資する方法と金の現物そのものを買う方法がある。前者の方が買い方に柔軟性がある。


■現物を買わなくてもいい、おすすめの「金投資」3パターン


以下は数ある金投資の手段のうち推奨の価値ありと判断したものを挙げている。


1)上場投資信託(ETF)および投資信託

金の上場投資信託(ETF)とは金価格とリンクして変動するETFを組成して、株式と同様、リアルタイムで売買できるようにしたものだ。信託報酬手数料は年間0.5%程度で、S&P500のようなインデックス・ファンド(年間0.1%)と比べると高いが、1~2.5%になるアクティブ投信ほど高くはない。株式と同様、リアルタイムの価格で売買でき、かつ、スポット買付だけでなく、積み立て購入もできる。毎月定額を長期にわたって購入することも可能だ。


金の価格にリンクすることを目指すETFにはSPDR GOLD SHARES(GLD)などがある


ETFと似ているが、金を対象にした投資信託を購入する方法もある。ETFと同様スポット買付も積み立て購入も可能である。


2)純金積み立て

毎月一定額の金を購入し、積み立てを行う方法である。ドルコスト平均法で少額を長期にわたって購入することができる。経費は購入手数料として1.5~2.5%がかかり、年会費として別途1100円程度が必要になる。長期積み立てを行っても購入価格の1.5~2.5%がかかるだけで、投資信託の信託報酬手数料のように保管期間全体を通して、年1.5~2.5%がかかるわけではないので、投資コストとしては、それほど高くない。売却際、短期譲渡所得の場合には売却益のうち50万円が控除される。長期譲渡所得となると、課税所得が2分の1になるという税制優遇もついている。


3)金地金

金現物を購入する方法。販売業者の利益としてスプレッドが買値の0.3%から3%。それに加え、販売業者に保管を依頼した場合は年あたり買値の0.3~0.5%がかかる。自分で保管した場合には盗難などのリスクがある。売却時にもスプレッドがとられているはずだが価格に含まれているので、よくわからない。


少額バーを購入する場合、加工料がとられることがある。


上記の通り、金融商品としてみると機動性にかけ、経費が掛かりすぎる。また、現物を買うため、少額購入ができにくいとのデメリットがあるのであまり勧められない。また、グラム単位での購入が義務付けられるので、ドルコスト平均法による長期積み立てには適していない。売却時の税制は純金積み立てと同じである。


これら以外にも、金貨を購入する方法、金の先物取引など、いろいろな保有の仕方があるが、流動性がありかつ手数料も安いのはETFまたは投資信託ということになる。次によいのは、純金積み立てということができるだろう。


最後に、投資は十分納得してから、自らのリスクで行ってください。


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浦上 登(うらかみ・のぼる)
コンサルタント
早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱重工業に入社、海外向け発電プラントの仕事に携わる。ベネズエラ駐在、米国ロサンゼルス営業所長などを歴任後、三菱重工グループの保険代理店に移り、取締役東京支店長。2009年にはファイナンシャル・プランナーの上位資格CFPを取得。2017年にサマーアロー・コンサルティングを設立、著書に『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)がある。
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(コンサルタント 浦上 登)

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