食前に「たった一杯」飲むだけで肝臓の脂肪を落とせる…専門医の中では常識「食物繊維、発酵食品」あと一つは?

2025年4月25日(金)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lielos

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健康的な肝臓を保つためにはどうすればいいのか。肝臓外科医の尾形哲さんは「肝臓の健康=腸の健康にあると言える。これまで見てきた患者の中でも肝臓に脂肪を蓄積している人は、便秘を誘発していることが多い。多くの人が知らない、便秘と肝臓の関係を説明しよう」という――。

※本稿は、尾形哲『肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。


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■「脂肪肝」の人は便秘が多い


肝臓専門医として多くの方の肝臓を見ていると、「脂肪肝」の人に便秘が多いことに気づきます。脂肪肝とは肝細胞に5%以上の脂肪がつく状態で、日本人の成人の3分の1が脂肪肝と推計されています。


ほとんど飲酒をしない人でも糖質の摂取過剰があると脂肪肝になります。放置すれば、将来肝硬変や肝臓がんになる可能性もある怖い病気ですが、その前に食事を見直すことで引き返すことができる病気でもあります。


脂肪肝の人は、便秘を自覚していることが多いです。しかし、毎日排便があると本人は話していても、腹部X線検査やCT検査で確認すると便が腸に詰まっている場合もあります。排便の回数だけでは見極められない便秘もあるのです。


実は、便秘と肝臓には深い関係があって、脂肪肝を脱却するには便秘の解消が不可欠です。その理由を、順を追って説明しましょう。


■食べ物が排出されるまでの流れ


まず、食べ物が便として排泄されるまでの流れを確認しておきます。


食べ物は咀嚼によって細かく砕かれ、唾液と混ざりながら飲み込まれます。その後、食道を通って胃に送られ、胃液によって消化が進みます。次に小腸へ移動し、ここで栄養素が吸収されます。吸収されなかった残りは大腸へ送られ、水分が吸収されて便となり、肛門から排出されます。


次に、小腸で吸収された栄養素のルートを説明します。


小腸で吸収された栄養素は、小腸の壁にある毛細血管に取り込まれ、門脈という太い血管に集まります。門脈は小腸をはじめ、大腸や、胃、すい臓、脾臓などから肝臓へ入っていく静脈のことです。肝臓への血液供給の約3分の2を担い、肝臓の機能を支えています。肝臓ではこれらの血液中の有害物質の解毒や老廃物の処理も行います。


内臓の配置は肝臓が腸より上にありますが、実際は門脈を通して腸から吸収されたものが肝臓に届けられています。つまり、肝臓の上流に腸があるのです。


■便秘で肝臓が疲弊する


ここからが本題で、便秘によって肝臓にどんな悪影響があるのでしょう。


便がしっかり排泄されずに腸内にとどまっていると、腸では必要以上に栄養を吸収し続けます。便が出ないと体が重いのは、単に排出されない便の分だけ体重が重くなるという話ではなく、過剰に栄養を吸収して“太りやすくなる”のです。太りやすい体質のままでは、脂肪肝の改善に時間を要します。



尾形哲『肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(KADOKAWA)

それだけではありません。便が出ないと腸内にメタンやアンモニア、発がん物質などの毒性物質が増え、それが腸管のバリアを超えて血中に溶け込みます。その毒にまみれた血液が、全身を巡る可能性が出てきます。


これは非常に怖い事態ですが、実際にはそうならないように、肝臓が毒を無毒化するセーフティーネット役を担っています。というと聞こえがよいですが、結局のところ、肝臓は解毒作業のために働き続けなければならず、疲弊するのです。


脂肪肝は、そもそも肝細胞が脂肪という侵入者に不法占拠されている状態。そこに解毒作業が増え続ければ、肝臓がお手上げになるのは時間の問題。


実際、肝硬変の人は腸内の悪玉菌が多いことが知られています。だから、肝臓を元気にするには、腸を良好に保たなければいけないのです。


■肝臓にも優しい“腸活”のコツ


腸を健康に保つ“腸活”については、ご存じの方も多いでしょう。腸活のポイントは3つ。便のカサを増やすこと。腸内環境をよくすること。腸のぜん動運動を促すことです。これらをかなえる腸活法を紹介しましょう。


(1)食物繊維を意識する
野菜、果物、海藻、きのこ、全粒穀物などに多く含まれる食物繊維は、腸の動きを活発にし、有用菌のエサにもなります。


(2)発酵食品を摂る
ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなどの発酵食品には、有用菌が豊富。腸内環境を整えるのに効果的です。


(3)適度な運動
軽い体操は腸の動きを促進します。スクワットは直接腸を刺激する動きなので、便秘の予防・改善に有効です。


ありがたいことに、“腸活”をすればそのまま“肝活”にもなります。腸にとってのご褒美は、肝臓にとってのご褒美なのです。


ここで、肝臓により優しい方法にブラッシュアップする方法を伝授します。


果物は腸活食品の1つですが、“食べ方”が肝心です。果物はスムージーにして飲むと果糖の吸収スピードが早く、肝臓にダメージを与えます。皮をむいたら、果実をそのまま食べましょう。フルーツは握りこぶし大の80gまでをめどに、食後のデザートに食べると血糖値の上昇をゆるやかにして肝臓への負担が少ないです。


また、腸活食品として有名なヨーグルトはプレーンが基本。甘みを加えたいなら、少量のオリゴ糖をおすすめしています。オリゴ糖は腸内細菌のエサになるとともに、食後血糖値を上げにくいのが理由です。はちみつが絶対にNGではありませんが、成分のほとんどが果糖とブドウ糖なので、肝臓への優しさという面でオリゴ糖に軍配が上がります。


■1.5Lの水で便秘解消! 肝臓の活力をアップ


さらにもう1つ、便秘を解消し、肝臓に活力を与える“とっておきの方法”を紹介します。


それが、「1日1.5Lの水を飲む」こと。体重増加を防ぐために水分補給を制限する人がいますが、それはかえって逆効果です。便も硬くなって便秘を助長します。


私たちの体の55〜60%は水分が占めています。とくに血流が豊富な肝臓には水分が多く含まれますが、脂肪組織の水分含有率はおよそ33%と低くなっています。つまり、体脂肪が増えるほど、体全体の水分割合は下がっていくのです。


さらに、肝臓に脂肪が蓄積すると、実質部分が圧迫されて血流が減り、単位体積あたりの血流量も低下します。その結果、肝臓内の水分含有量も減少し、「脂肪肝の肝臓」は、本来の“みずみずしさ”を失っていくのです。


写真=iStock.com/magann
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忙しくて水分を摂取する時間がない、水を飲んだら太りそうという理由で水分摂取量が少ないと、体は脱水状態となって、代謝機能は低下します。その結果、エネルギーを消費しにくい“太りやすい体質”になってしまうのです。


成人は1日で平均、尿や便から1.6L、呼吸や汗から0.9Lの合計2.5Lほどの水分を失います。一方で、食事から約1.0Lの水分を摂取でき、体内で作られる水が300mlほどあるため、摂取すべき必要最低限の水分量は1.2Lになります。


そこで、食事で摂る水分とは別に1日1.5Lを基準にこまめに水を飲みましょう。具体的には、朝起きたらコップ1杯200ml、そのほかに午前中で500ml、午後に500ml、入浴前後にコップ1.5杯300mlの水分摂取をするのが理想です。


■食前に水を飲む「プレローディング」が最強の“肝活”


水の飲み方としては、食前に水を飲む「プレローディング」を習慣にしましょう。プレとは「事前」、ローディングとは「補給」を意味し、「水分を事前に補給する=食前に水を飲むこと」になります。


食事で体内の塩分濃度が上がると、体は水分不足と判断して飢餓状態の危険信号が出ます。すると、飢餓に備えて脂肪をため込もうとするシステムが働くのです。


だから、食事によって塩分濃度を上げすぎないように水を飲んでおけば、余計な脂肪の蓄積も防げます。しかも、食前に水を飲めば満腹感が早まるので、食事量を減らす効果も期待できます。


水を事前に飲むことで空腹感が低下し、次の食事までの間食を減らしやすいという報告もあります。また、水を飲むと代謝効率が一時的に上がってエネルギー消費が増加し、食べても脂肪を蓄積しにくい体質に変化するといううれしい効果もあります。


ゼロカロリーでお金もかからず、痩せやすい体質になれる「プレローディング」を、肝活ルーティンとして取り入れてください。


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尾形 哲(おがた・さとし)
肝臓外科医
長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。2025年に、東京2か所、京都、兵庫、石川の提携クリニックで脂肪肝専門外来を開設予定。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術』、『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』『専門医が教える 1分で肝臓から脂肪が落ちる食べ方決定版』(いずれもKADOKAWA)などがある。
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(肝臓外科医 尾形 哲)

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