ネットに公開されたデータから地価が"化ける"街を見抜ける…プロが名前を挙げる「東京23区の穴場エリア」

2025年4月25日(金)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Panya Mingthaisong

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地価を見極めるためにはどうすればいいか。エコノミストの崔真淑さんは「土地リテラシーを身に付けると、賃貸から購入まで不動産をめぐるさまざまなシーンで有利になる。3つのポイントを掛け合わせると、『ホントの地価』が見えてくる」という――。

■この土地、ホントはおいくらか


「え、この土地、そんなにするの?」


不動産の話題でよく聞かれるセリフです。特に都市部における地価の上昇は、もはや驚きの連続と言っても過言ではありません。当連載で前回述べたように、2025年の公示地価は全国平均で前年比2.7%上昇。東京都23区に至っては、なんと9%超えとなりました(*1)。


ですが、問題はここから。


「自分が住んでいる場所ってホントはどうなの?」
「この街、将来的に“アリ”なの?」
「人気のエリアをお買い得で手に入れるにはどうすればいいの?」


そんな実用的な問いには、なかなか答えが見つかりません。そう、地価とは“調べた人にしか見えてこない”モノなのです。


そこで今回は、私が実際に使っている「地価を見極める虎の巻」をご紹介します。キーワードは3つ――「REIT」「公的指標」「生活感覚」。この3つを掛け算すると、“ホントの地価”が浮かび上がってきます。これを知っているだけで、賃貸から購入まで不動産のさまざまな交渉シーンが有利になる、いわば「土地リテラシー」なのです。


■プロの本音が透けて見える「REIT」


まず、REIT(不動産投資信託)を見てみましょう。REITとは、複数の不動産をパッケージ化し、証券取引所で売買できるようにした金融商品です。じつはこれ、不動産価格の“プロの目利き”が詰まった貴重な情報源でもあるのです。


たとえば、「日本ビルファンド投資法人」や「ジャパンリアルエステイト投資法人」など、東京のオフィスビルを主な資産とするREITの価格動向を見れば、都心の商業地の需給バランスや将来の地価予想がある程度わかります。


また、「住宅型REIT」では、郊外の住宅地がどのように注目されているかが透けて見えてきます。実際、コロナ禍以降に人気が再燃している“駅から遠いけど広くて安い”エリアの脚光などもREITを通じて見えてきます。いわばREITとは、「プロがいま、どのエリアを“買い”と見ているか」を反映したマーケットの声なのです。


写真=iStock.com/Panya Mingthaisong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Panya Mingthaisong

*1 土地価格相場が分かる土地代データ「東京23区の土地価格相場・公示地価・基準地価マップ・都内23区ランキング、2025年


■誰でもアクセスできる不動産取引情報


もちろん、公示地価などの公的データも大切です。地価を知るには、以下の3つの公的データを使い分けることが有効です。ひとつは「公示地価」。前回詳述したように国交省が毎年発表する標準的な地価で、「比較」をするのにとても便利です。


次に「実勢価格」。国交省のホームぺージから「不動産情報ライブラリ」の検索で得られる、実際に売買された価格情報です(*2)。ここから全都道府県ならびに各地域の土地の価格に、誰もがアクセスできます。


そして「地価LOOKレポート」(*3)。国土交通省が四半期ごとに発表している地価動向報告で、正式には「主要都市の高度利用地地価動向報告」と言います。全国の主要都市にある約100地点を対象に、3カ月ごとの地価動向を「上昇」「横ばい」「下落」の3段階で示す短期レポートで、都市圏の再開発やオフィス需要などといった“地価の空気感”を把握するのに役立ちます。


これらのデータを重ねて読むことで、「表の地価」「リアルな地価」「未来の地価」の3層を同時に見通すことができるのです。


■コンビニの棚に高価格帯の商品があるか


ですが、それでも最後の決め手になるのは、実際にその土地を“歩いてみる”ことではないでしょうか。街を歩けば、数字では見えない「兆し」が見えてくるからです。


「平日昼間に人通りが多いか?」
「コンビニの棚にどんな商品が並んでいるか(高価格帯の商品があるか)?」
「新築マンションの販売チラシが多いか?」
「子どもを連れた家族が多いか?」
「夜間の街の明るさは、どれくらいか?」


こうした観察から、その土地にどんな層が流入しているのか、どんな未来が見えているのかがつかめます。とくに「この町、どこか活気があるな」と感じるとき、その直感はあながち間違っていません。地価というのは結局、「人の流れ」=「お金の流れ」によって決まるものだからです。


では、実際にそれらの視点で見てみると、どんな街が「買い」なのでしょうか。今回は、2つの地名を挙げたいと思います。


1つ目は、「三鷹の森ジブリ美術館」でも知られる東京都三鷹市です。井の頭公園の自然に恵まれ、都心から電車で20〜30分という好立地はREITからも注目されており、産業ファンド投資法人が保有する「IIF三鷹カードセンター」や、スターアジア不動産投資法人の「アーバンパーク三鷹」など、多くのプロがこの街に資金を投じています。


写真=iStock.com/mizoula
三鷹の森ジブリ美術館 ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

2025年の公示地価では、住宅地が47万733円/平方メートル(前年比5.8%上昇)、商業地が98万4500円/平方メートル(前年比8.1%上昇)と値を上げました。REITの動きと公的データが「この街は上がっている」と揃って言っている状態です。


*2 不動産情報ライブラリ
*3 土地・不動産・建設業:主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~国土交通省


■東京23区内の“穴場エリア”


もうひとつ注目したいのが、足立区の綾瀬です。東京メトロ千代田線とJR常磐線が乗り入れ、表参道や大手町にも直通。都心へのアクセスの良さに比べ、これまで注目されにくかった“穴場エリア”と言えるかもしれません。


2025年の公示地価では、平均地価が76万6000円/平方メートル(前年比11.38%上昇)です(*4)。駅前の再開発や大型スーパーの新規オープン、新築マンション供給など、生活利便性の向上が地価に反映しています。REITの直接投資はまだ少ないものの、足立区全体の注目が高まれば、その波は綾瀬にも届くことでしょう。知人の一家も最近綾瀬に引っ越しましたが、「人の雰囲気が温かい」「公園が広い」など、暮らしやすさに満足しているようです。


東京都足立区立綾瀬小学校(写真=Higa4/CC-Zero/Wikimedia Commons

このように、REITと地価の関係を丁寧に追うことで、「イメージに反して手堅い街」「これから化けるかもしれない街」などが見えてきます。REITのIR資料(Investor Relations=投資家向け広報)はすべてネット上で公開されており、用途別(オフィス、住宅、物流など)や地域別の運用実績も記載されています。一般投資家が見るには難しいと思われがちですが、実は意外とシンプル。次のような点に注目すればよいのです。


1)NOI Return(Net Operating Income〈=営業純利益〉利回り):REITが物件からどれだけ収益を上げているか
2)稼働率(空室率):テナントや住民がどれだけ入居しているか
3)修繕計画や投資方針:REITが今後どう資産価値を維持・向上しようとしているか

■“次に来る街”を見極める3つの視点


これらを読み解くことは、「将来この街の地価がどうなるか」を見通すヒントになります。たとえば、稼働率が落ちてきているのに大規模修繕を後回しにしているREIT物件があるとすれば、そのエリアは今後やや停滞するリスクもある。一方で、まだ地価は安いけれどREITが強気に取得を進めているエリアがあれば、それは“次に来る街”かもしれないのです。


もちろん、REITはすべてのエリアをカバーしているわけではありませんが、「市場のプロが何をどう見ているか」の視点を取り入れることで、自分なりの“地価の虎の巻”が出来上がっていきます。


これからの時代、不動産や土地の価値を見極めるには、「REIT」「公的指標」「現場の空気感」という3つの視点を使いこなすことが不可欠です。REITを見ることで“プロの目”を持ち、公的指標で数字を固め、そして現場を歩いて“直感”を確かめる。そうやって得た情報こそが、「この土地、ホントはいくらなのか?」という問いに対する、あなた自身の答えになるはずです。


前回も述べたように、「どこに住むか」は「どう生きるか」だと言えます。自分の人生にとって、その土地がどれだけの価値を持つのか――それを見極めるための“虎の巻”、ぜひ活用してみてください。


*4 土地価格相場が分かる土地代データ「綾瀬の公示地価・基準地価・土地価格相場・坪単価、東京都足立区綾瀬、2025年


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崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。
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(エコノミスト 崔 真淑 構成=池田純子)

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