超一等地・銀座の"デフレ勝ち組"ビルに「くら寿司」が入居…ユニクロ、OKストア、ダイソーに続く"最強のネタ"

2024年5月11日(土)10時15分 プレジデント社

画像=KYODO NEWS PRWIREより

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■低価格がウリの回転寿司チェーン「くら寿司」銀座デビューの勝算は


2024年4月25日、東京・銀座に「くら寿司」がオープンした。くら寿司の中でも、インバウンド需要向けの「グローバル旗艦店」という位置付けが与えられている店(他に難波店、浅草ROX店、原宿店など5店)で、外国人観光客に向けたメニュー構成や店舗構成が特徴だ。


画像=KYODO NEWS PRWIREより

銀座といえば、一流ブランドや高級店が軒を連ねる一等地。目抜き通りには、ルイ・ヴィトンやティファニーなどのハイブランドのブティックが軒を連ねている。一方「くら寿司」は低価格をウリにする回転寿司チェーンの代表格だ。銀座への出店となると、店の方向性と齟齬が生じそうでもある。


しかし、近年、銀座には、いわゆる「安売り」を特徴とする店の出店が相次いでいる。くら寿司が入居する商業ビル「マロニエゲート銀座2」には、地下にディスカウントスーパーのOK、地上にはユニクロやダイソーといった「デフレ時代の勝者」的な存在の店舗が数多く入居している。ある意味では地方のショッピングモールにも似たテナント構成だ。思えば、2012年、銀座にユニクロが誕生したとき、「銀座の終焉」といった声で、それを悲観する人々も多かった。まだ10年少し前に過ぎないが、時代は変わったと思わざるを得ない。


撮影=谷頭和希
マロニエゲート銀座2のフロア案内板 - 撮影=谷頭和希

では、そんな「くら寿司」は銀座出店にどのような「勝ち筋」を見ているのか。


今回は、銀座という街の歴史を振り返りながら、「銀座くら寿司」の「勝ち筋」について考えていきたい。


■銀座出店に必要なのは「特別感」だ


まず、端的に言って、銀座という街で、こうした商業施設が勝つための方法は「特別感」をいかに演出するのか、ということにかかっていると言って良い。


そもそも銀座は、昔から日本人に「特別」な存在として認識されてきた街。1870年代後半に明治維新の象徴的な存在として、煉瓦作りの建物が多数建設されたことから「銀座煉瓦街」の名でも知られるようになる。


特に1923年の関東大震災以後、東京の盛り場的な存在として、大きくその地位を向上させ、大正時代には、「モガ」「モボ」(モダンガール・モダンボーイ)が集まる、流行の最先端のモダンな街として知られるようになる。このあたりから、日本において常に海外の最先端のものが集まる街としても知られるようになっていく。


特に大手チェーンの一号店が、銀座に出店する例も多い。


例えば、マクドナルドだ。日本マクドナルドの創業者である藤田田は、本国アメリカのマクドナルドの反対を押し切り、日本マクドナルドの一号店を銀座に出店した。この経緯には、藤田が「日本で流行が生まれるのは銀座から」という強い意志があったようだが、その目論見通り、銀座の通りでハンバーガーを食べ歩きする人々がメディアを通して全国に知れ渡り、その後のマクドナルドの活況につながっていった。


また、時代は下るが、スターバックスの実質的な1号店も1995年、銀座に誕生している。また、アップルストアの1号店もこの街に誕生。


これらは、自社の製品のブランディングを行うために、銀座に出店したといってよいだろう。銀座という街のイメージと製品イメージが結びつき、十分なブランディング効果があると考えているわけである。


■チェーン店も銀座の特別感の影響を受けてきた


このように、いくつかの企業が自社のブランド確立のために銀座に出店を進めてきたのは、我々日本人が長らくこの街に「特別感」を抱いてきたからに他ならない。


実際、2021年にメトロアドエージェンシーが行った調査でも、80%以上の人が銀座を「高級な街」だとイメージしている。どこかいつもとは違う街として「銀座」を意識しているわけだ。そして、その銀座という街が醸成してきた「特別感」こそが、現在、銀座に訪れる訪日観光客が体験したい街の雰囲気になっているともいえる。


NTTコムリサーチの調査によれば、訪日アジア観光客の45%が銀座に対して「高級感のある」イメージを抱いているという。


その点を、これまで銀座に出店してきたチェーンストアも意識をしているようだ。たとえば「ユニクロ」の場合は、銀座にオープンした旗艦店について、他の店舗との違いを意識した構造をしている。中にはギャラリーを併設していたり、カフェもあったりして、他の店舗とは異なる「特別感」を演出している。それゆえに、銀座の「ユニクロ」は訪日観光客にとっても一つの名所のようになっているのだろう。


撮影=谷頭和希
「くら寿司」が入ったマロニエゲート銀座2 - 撮影=谷頭和希

銀座にチェーン店がやってきて、銀座がダメになった、のではなく、むしろ、銀座の特別感をチェーン店もまとうような作りになっているのだ。


■「銀座くら寿司」の特別感は?


では、今回の「銀座くら寿司」にはどのような特別感があるのか。実際に訪れてみた。


「マロニエゲート銀座2」の8階に「銀座くら寿司」はある。店内の外から、既に他のくら寿司と異なるような雰囲気を醸し出している。いわゆる「江戸風」の店構えとでもいおうか。これだけでも、他のくら寿司とは異なっている。


画像=KYODO NEWS PRWIREより

店内に足を踏み入れると、そのコンセプトがはっきりとわかる。壁一面に広重の浮世絵「名所江戸百景」が描かれているのだ。実際、今回の「銀座くら寿司」のコンセプトが「広重の浮世絵」であり、江戸時代の空間を再現している店内のコンセプトを、この浮世絵が端的に表している。


また店内全体は白を基調としたカラーリングになっており、清潔感とともに、モダンな雰囲気も感じさせる。店舗デザインを担当しているのは、デザイナーの佐藤可士和氏で、「食をテーマにしたエンターテインメント施設」を目指しているとコメントしている。


機械での受付をすませ、テーブルに付く。それぞれのテーブルはカーテンのようなもので仕切られ、半個室になっている。日本の「のれん」を意識しているのかもしれないが、普通の回転寿司では、他の客も丸見えになるところが、このカーテンで仕切られていることによって、ゆったりと過ごすことができる。誰の目も気にすることなく、ゆっくりくつろげるだろうから、観光客など、ゆったり時間を過ごしたい人にぴったりだ。


■銀座限定の「屋台」…江戸風の空間演出


メニューは、基本的には他の「くら寿司」と同じだ。ただ、異なるのは、店舗限定メニューがあること。「くら小江戸」というメニューでは、テーブル上のタブレットで特上の寿司、天ぷら(赤海老、穴子、真あじ)、団子(みたらし、あんこ、白あん、抹茶あん)などを注文し、江戸時代の風景が再現されたそれぞれの屋台に受け取りに行く。


同社は「グローバル旗艦店」として、「体験」を押し出した回転寿司の楽しみ方を提唱しているが、江戸時代風の屋台の中へ食べ物を自分で取りに行くというのは、まさにそうした「体験」にフォーカスを当てた楽しみ方だといえる。


三つの屋台の前には、いかにも江戸らしい柳の木のレプリカが置かれ、その周りでは職人が実際に寿司を握ったり、天ぷらを揚げたりしている。また、このエリアはライトが暗くなっており、夜の雰囲気が演出されている。壁面には花火を模した店内デザインもあり、徹底的に「江戸」的な空間演出が行われていることがわかる。クローズしてしまったが、「大江戸温泉物語」などに近い空間演出だといえるだろう。


特上にぎり「蔵-KURA-」 1800円(画像=KYODO NEWS PRWIREより)

■テーマパーク型開発で特別感の空間演出を


くら寿司は、これまでもグローバル旗艦店において、インバウンドに向けた空間演出を積極的に取り入れてきた。ただ、今回の銀座店は、これまでのグローバル旗艦店の演出よりもさらに先に進んでいるといえるかもしれない。


これらは、最近の商業施設のトレンドからいえば、「テーマパーク型開発」ともいえる空間の作り方だといえる。豊洲に誕生した「千客万来」のように、空間全体を、江戸時代のようにしてしまう開発のことである。


こうした空間演出は、ディズニーランドなどに見られるものだが、それが近年では、訪日観光客向けの施設に多く取り入れられ始めている。恐らく、もっとも簡単に、空間における「特別感」を演出できる方法なのであろうが、こうしたトレンドの中で「銀座くら寿司」も空間としての「特別感」を演出しようとしているのだ。


そして、そこに、この店の勝ち筋を見出しているのだといってもよい。果たして、この勝ち筋は、本当の勝利をくら寿司にもたらすのか。くら寿司が、銀座の歴史の中でどのような役を担っていくのか、これからも注視していきたい。


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谷頭 和希(たにがしら・かずき)
ライター
1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。
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(ライター 谷頭 和希)

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