瞬間記憶能力のある天才「ギフテッドでない方が幸せだった」 特有の生きづらさとは?
2022年10月4日(火)11時27分 キャリコネニュース

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生まれつき特定分野で高い才能を持つ「ギフテッド」。最近メディアで取り上げられることも多い存在だが、人知れない苦労をしているケースもあるようだ。プロ家庭教師の妻鹿潤さんによると、ギフテッドの子どもたちが不登校に悩んでいるケースもあるという。どうしてそうなるのかを、解説してもらった。
ギフテッドと不登校・発達障害は深く関係
皆さんは「ギフテッド」をご存知でしょうか?生まれつき高い知能や能力を持った人のことで、映画の題材にされることもあります。「生まれつき才能があるなんてうらやましい!」と思う方もいらっしゃるでしょうが、ギフテッド特有の悩みもあり、中には生きづらさを抱えている人もいます。
私は不登校や発達障害を専門としたプロ家庭教師として活動していますが、実はギフテッドと不登校・発達障害は深く関係しています。この記事では、実際にギフテッドの方から受けた相談内容などを元に、特殊な才能を持った人が直面している問題を紹介していきます。
でこぼこ個性とギフテッド
ギフテッドには、「英才型」と「2E型」の2つのタイプがあると言われています。ギフテッドとはIQ130以上の人のことを指しますが、このうち色々な能力のバランスが良いのが英才型、ある能力に突出していて、他の能力では平均よりも劣る部分もあるのが2E型とされます。
勉強だけでなくコミュニケーション能力や創造性、倫理観にも優れている英才型のギフテッドの場合、学校でも困難は生じにくい傾向にあります。
一方、2E型は「twice exceptional(二重に例外)」という意味です。たとえば記憶力はとても高いのだけど、手先の器用さという点では困難があるというケースが該当します。能力にデコボコがあるという点では発達障害と似ていて、2E型のギフテッドは「ギフテッドかつ発達障害」という状態も多いです。
2E型のギフテッドでありがちなのが、実は突出している才能があるのに、本人も周りも気付いていないというケースです。
横並びで授業をする学校教育などの場面ではどうしても「みんなと同じようにできない」ことに意識が行ってしまう。それで「発達障害で社会に馴染めない…」などと、本人も落ち込んでしまうのです。
こうした子どもたちが、自分の特性に気づいて才能を開花させ、自信を取り戻す様子を見ていると、「個性を伸ばす」という視点がいかに重要かわかります。
出る杭は打たれる日本の学校
ギフテッドの生徒たちにとって快適な環境は、標準的な生徒とは異なることがあります。
例えば、一般的な授業ペースだと「簡単すぎて退屈だ」となったり、友達どうしの会話が物足りなくて「もっと知的な話がしたい」となったりするのです。
そこで、授業中に独学していて「勝手なことをして」と先生に怒られたり、クラスに馴染めなくて浮いてしまったりするうち、どんどんとストレスを溜めこんでしまうケースがあります。ギフテッドの子どもたちも、頑張って周囲にペースを合わせようとするのですが、結局無理が生じて、学校に行けなくなることもあるようです。
「瞬間記憶能力」があって、常に新しい知識を入れ続けていないと苦しいという特異体質だったというギフテッドの方と、話をしたことがあります。その方は勉強や知的な会話が、子どもの頃から大好きだったそうです。
日本の一般的な公立小・中に進学したのですが、周りのクラスメイトの関心といえば、ドラマや周りの大人に対する単純な愚痴などばかり。本人が求めている知的な会話ができるはずもなく、仕方なく興味のない話題にも付き合っていたところ、あるタイミングでストレスが爆発。不登校になり、その後テレビや日常の会話で日本の学校や同級生に関する話題を耳にすると吐いてしまうというPTSDの状態にまでなったそうです。
ギフテッドであることと強いストレスにさらされた状態が強く結びついてしまい、本来持っていた瞬間記憶能力や旺盛な知的好奇心もトラウマになり能力が封印されてしまいました。その結果、以前のように能力を引き出すことができない状態になってしまいました。
苦悩の数年間の後、カナダに移住。いまは、精神的に回復しつつあるのですが、今でも日本に関係するものを見る・聞くとPTSDの症状が起こるそうです。「ギフテッドでない方が幸せだった」と、天才ゆえの苦悩を語っていました。
才能を潰さないためには?
ギフテッドの子どもたちが苦しまなくて済むためには、特有の悩みをケアするためのカウンセリングや、才能をさらに伸ばすための教育的なフォロー、保護者のための相談窓口なども必要となってきます。アメリカや台湾など、そうしたサポート体制を整えているところもあるようです。
一方で、日本のギフテッド支援は、諸外国と比べてかなり遅れていました。しかし、ようやく2021年6月から「特定分野に特異な才能のある児童生徒(ギフテッド)」への支援について検討が始まりました。メディアで取り上げられる機会も徐々に増えており、今後は日本においてもギフテッドに対する理解や支援は広まっていくと考えられます。
とはいえ、臨床心理士や精神科医であっても、ギフテッドについて専門的な知見のある人はまだまだ少ない状況です。私の元へ来られる相談者も、「心療内科に通っているが、本当に自分のことを分かってくれている感じがしない」「様々な機関に相談したが、適切なアドバイスをもらえなかった」とお話しされることがほとんどです。
私の元に相談に来られた方から「こんなにわかってもらえたのは初めてです」と言われるたびに、日本ではギフテッドへの理解がまだまだであることを感じています。プロ家庭教師の仕事をする中で、私もある程度ギフテッドに対する理解が深まりましたが、社会全体においては、まだまだ理解不足であると実感しています。
ギフテッドの方が才能を発揮することは、本人だけでなく社会にとっても非常に有益です。周りの目や同調圧力に潰されることなく、伸び伸びと才能が発揮できる社会が実現することを願っています。
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