《懲役は…》「あんなに燃えるとは思いませんでした」自分を振った女性の働く店にガソリンをまいて殺害…誰もが死刑を望んだ『ストーカー男(35)の末路』(2012年の事件)

2025年5月10日(土)18時0分 文春オンライン

〈 「店燃やしたる!」ホレた女性にフラレて逆ギレ→店にガソリンをまいて…人気スナックのママを焼き殺した男(35)の“身勝手すぎる犯行動機”(2012年の事件) 〉から続く


「妹は殺され、母は大ケガをさせられた。妹は誰にでも好かれる優しい性格だった。『殺すつもりがなかった』とは絶対に言わせない。死刑にしてほしい」


 犯人と関わりのある関係者からは「死刑」を望む声も…。2012年のストーカーと化した客が、店のママを焼死させた「スナック放火事件」。事件後に捕まった犯人はどうなったのか? なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/ 最初から読む )



写真はイメージ ©getty


◆◆◆


スナックを放火、ママが焼死


 事件当日、鈴村は灯油とガソリンを混ぜ合わせた混合液体を20リットル用意し、スナックへ向かった。確実に逃げ場を失わせるため、まず店の周囲の外壁に混合液体をまいた。


 そのとき、店内には愛美さんと母親、常連客の男女2人がいた。そこへいきなり鈴村が入ってきて、ふたの開いたポリタンクをカウンターの上で横に倒した。トクトクと流れる混合液体にライターで火をつけるまでわずか7秒だった。


『ボーン!』


 物凄い爆発音がして、店内に火柱が上がった。鈴村も吹っ飛ばされ、顔面に大火傷を負った。


「キャーッ!」


 店内は阿鼻叫喚となり、ドアの近くにいた母親と鈴村だけが外へ脱出した。愛美さんと客の2人は奥のトイレに逃げるしかなくなり、まもなく店内を一酸化炭素の黒煙が覆い尽くした。


「火事だァー!」


 周囲もすぐに異変に気付き、複数の人間が119番通報。まもなく消防車が駆け付けたが、トイレの窓には格子が付けられており、そこから救出されたのは女性客1人だけだった。


 愛美さんと男性客は店内に取り残され、鎮火してから助け出されたが、いずれも意識不明の重体。男性客は一命を取り留めたものの、愛美さんは搬送先の病院で死亡が確認された。


「あんなに燃えるとは思いませんでした」


 一方、鈴村は現場から車で逃げ出し、愛美さんと二股で付き合っていた女性に連絡を取り、別れた妻子のいる地元まで車を走らせた。


「何があったんよ。すごい火傷やないの……」


「もうええんや。みんな燃やしたったんや……」


 鈴村は警察に捕まることを覚悟していたが、「最後に子どもの顔が見たい」と願っていた。だが、鏡に映った自分の姿を見て、「こんな火傷した顔ではとても会いに行けない」と悟り、自ら警察に電話した。


「スナックに火をつけた鈴村です。これから地元の警察署に出頭します」


 鈴村は逮捕と同時に入院することになり、全治1カ月の重傷と診断された。事件については一切言い逃れもできず、鈴村は現住建造物等放火と殺人、殺人未遂の罪で起訴された。


 鈴村は初公判の罪状認否で泣きながら次のように述べた。


「うう……、私が火をつけたために店が燃えたのも間違いありません。その行為により、愛美さんが亡くなったことも間違いありません。3人の方がケガをされたことも間違いありません。でも、あそこまで爆発するものとは思っておりませんでした。あんなに燃えるとは……、愛美さんが亡くなるとは……、うう……、本当に申し訳ありませんでした。殺すつもりはありませんでした。愛美さんには恨みも殺意もない。自分は『殺すぞ』が口癖で、本当に殺すつもりはなかった。ちょっと脅すつもりで、カウンターに混合液体をまいたが、あんなに燃え広がるなんて予想もしていませんでした」


 だが、愛美さんの兄の怒りはすさまじかった。


「鈴村は愛美に対して、『お前を殺す』とか『息子を殺す』とかいうメールをしょっちゅう送ってきたが、よう殺すかいなと言って励ましていた。母と自分の彼女がお金を返しに行ったとき、母がかなりきついことを言ったと聞いている。それで母に相当恨みを持っていたのだろう。あのとき、何で自分に言ってくれなかったのか。自分が行っていたら、状況が変わっていたかもしれない。こんなことになって悔しくてならない。


 妹は殺され、母は大ケガをさせられた。妹は誰にでも好かれる優しい性格だった。『脅すつもりで、殺すつもりはなかった』なんて、絶対ウソだ。殺すつもりがなかったとは絶対に言わせない。死刑にしてほしい」


「8歳で両親がいないのは僕ぐらいかなァ」


 そして母親は、孫であり、愛美さんが遺した小2の息子(事件当時は小1)について語った。


「事件後はマスコミを避けて知り合いの家にいたのですが、孫がテレビを見て『安井愛美って書いてあるで。ちゃーちゃん死んじゃったんや』と気付き、それからずっと落ち込んでいます。


 お通夜には行けなかったんですが、葬式には出て、『僕は息子なんだから、ちゃーちゃんの最後は僕が見る』と言って、ずっと遺影に頭を下げていた。墓の前でも『おじいちゃん、おばあちゃん、今日からちゃーちゃんがそっちに行きます』と報告していました。毎朝毎晩手を合わし、お供えすることを欠かさない。『おばあちゃんだけでも元気でよかった。僕が大きくなるまで長生きしてよ』と言っている。本当にしっかりしている。学校も休まず通っている。


 でも、『8歳で両親がいないのは僕ぐらいかなァ』とも言っていて、保健の先生と話したときは、思い出してボロボロ泣いていた。まわりのことを考えて元気を装っているのだと思う。愛美が亡くなってから笑い声もなくなった。愛美は鈴村と付き合う前はよく孫を連れて公園や海などに行っていた。事件の3日前に鈴村と別れて、『これで気兼ねなく息子を雪山に連れて行くことができる』と喜んでいた。できることなら鈴村には死んでほしい。愛美は逃げ場のないトイレで亡くなった。孫も『大きくなったら僕が犯人を殺してやりたい』と言っている。鈴村には死刑を求めます」


犯人のその後は…


 鈴村はこの事件の前にも別の女性に対するストーカー規制法違反で有罪判決を受け、執行猶予中だった。この手の人間は刑罰を科せられても懲りることはないのだろう。


 裁判所は愛美さんに対する愛憎感情から犯行に及んだと断定し、「被告人はガス溶接の資格があり、ガソリンの特性を知らなかったとは思えない。危険な殺害方法で、厳しい非難で臨むべきだ」として、求刑通り無期懲役を言い渡した。


 


 鈴村は「判決は計画的な殺意を持って店に火をつけたとしているが、事実誤認だ。確定的な殺意はなかった」として、最高裁まで争っていたが、上告を棄却されて無期懲役が確定した。


(諸岡 宏樹)

文春オンライン

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