名刺交換で「ちょうだいいたします」は大間違い…ビジネスシーンで頻繁に見かける「恥ずかしい日本語4」

2024年2月8日(木)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

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ビジネスシーンで間違えやすい日本語は何か。中国文献学者の山口謠司さんは「名刺交換で『ちょうだいいたします』は大間違いだ。漢字で『頂戴』と書くが、これは両手を自分の頭上に上げ、非常に高い身分の人から賞などを授与されることを表す。とくに相手がお年を召した方などであれば、慇懃無礼だと怒られる場合もありますので、気を付けたほうが賢明だ」という——。(第2回/全7回)

※本稿は、山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/mapo
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■「今日は休みます」では自分主体になってしまう


体調不良や急用で仕事を休みたいとき
× 休まさせていただきます

○ 休ませていただきます

「このシャツを着るね!」と言ったら、「自分から進んで着る」ことになります。


「着させていただきます」と言えば、「着る」という自分の行為をへりくだっていることになります。


さて、「今日は休みます」と言ったら、病気や用事などで「自分から、会社や学校などを休む」ということになります。


一方で、「休ませてください」と言えば、「休むこと」を許可してもらうことになります。これを丁寧に言うと、「休ませていただきます」になります。


ここで注意するべきは、「休まさせていただきます」という言い方はないことです。「さ」が余分なのは、「やらさせていただきます」「読まさせていただきます」が誤りであるのと同じです。


なぜ、「さ」が余分なのかというと、五段活用の動詞は「未然形+せる」という活用のルールがあるからです。


さらに、「させ」は強い意志で相手の許可を求めているような印象を与えてしまいます。「休まさせていただきます」は、相手が許可するしないにかかわらず、自分の意志を貫こうとする印象になってしまうのです。


「させ」か「せ」かと悩んだときには、「させ」という言葉を使わないようにすると無難です。


■ビジネスシーンで頻繁に起こる誤った日本語


名刺交換のシーンでほとんどの人が誤用している
× ちょうだいいたします

○ ちょうだいします

ビジネスシーンで、必ず行なう名刺交換。


そのとき、「ちょうだいいたします」と言う人がとても増えてきました。名刺をもらう相手に丁寧な言葉を使わなければいけないという意識が、「ちょうだい」と「いたします」という二つの言葉を合わせてしまった結果なのですが、日本語としては間違いです。


名刺交換のときは「ちょうだいします」と言うのがもっとも適当です。


「ちょうだい」は漢字で「頂戴」と書きますが、これは両手を自分の頭上に上げ、非常に高い身分の人から賞などを授与されることを表します。


「ちょうだい」だけで謙譲を表しているのに、これに「いたします」という自分や自分の側を下位に置いて、相手を重々しく敬うための言葉を使うと、丁寧すぎて、かえって慇懃無礼(いんぎんぶれい)な言い回しになってしまうのです。いわゆる、二重敬語と呼ばれるものです。


「拝見します」を「拝見いたします」というのも、同じく二重敬語です。


「ちょうだいいたします」「拝見いたします」という言い方が段々と定着してきていますが、とくに相手がお年を召した方などであれば、慇懃無礼だと怒られる場合もありますので、気を付けたほうが賢明です。


■名前を教えることは、相手に自分の魂を渡すこと


初対面の相手の名前を知りたいとき
× お名前をちょうだいできますか

○ お名前をお聞かせ願えますか

相手の名前を教えてもらいたいときに、「お名前をちょうだいできますか」と言う人がいます。


「下のお名前をちょうだいできますか」などと言われると、「いやぁ、困ったなぁ」と思ったりもします。「ちょうだいできますか」という質問が、「名前を教えてください」という意味であることは十分わかるのですが、「ちょうだい」とはもともと物や賞などを相手から恭(うやうや)しく受けることを意味します。


写真=iStock.com/kokouu
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自分の名前を相手に教えることはできますが、恭しく「ください」と言われても、あげるわけにはいかないものです。


さて、平安時代の紫式部や清少納言など、昔の女性の本名は現在でも分かっていません。それは、決して人に本当の名前を教えなかったからです。


当時、名前を教えることは、相手に自分の魂を渡すことだとされていました。名前を教えるということは、それほど恐ろしいことだったのです。


また「下のお名前」というのも不適切です。名前はひとつだけで、上も下もありません。そんな場合には、「お名前を、フルネームで教えていただけますか」あるいは「姓と名をそれぞれお聞かせ願えますか」「フルネームをお伺いしてもよろしいでしょうか」と言うようにしましょう。


■「拝見」とは大事なものとして受け取るということ


資料などの確認が済んだことを、先方に伝えるとき
× 拝見させていただきました

○ 拝見しました

書類や原稿がメールで回って来ない日はありません。すぐに見るかどうかは別として、とりあえずすぐに、「見ますね、待っててくださいね」という意味の返事を出さないといけません。


「拝見させていただきますので、今しばらくお待ちくださいませ」という返事を書く人も少なくないのではないでしょうか。



山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)

一見、すごく丁寧な言葉に感じるのですが、これは間違いです。


「拝」という漢字は、諸説ありますが、「手」という意味を持つ文字を二つ書いたもので、両手を合わせて「受け取る」ことを表します。


両手で受け取るのは、大事なものを受け取るときです。「拝見」とは、このように大事なものとして受け取り、中の文章を「見る」ということですので、すでに自分の行動をへりくだって言う謙譲語です。


さらに、「させていただく」も「させてもらう」の謙譲語なので、「拝見させていただく」という言葉遣いは、二重敬語となってしまい、日本語としては誤った使い方になってしまうのです。


すでに記しましたが、二重敬語は、慇懃無礼な表現として、相手に受け取られる可能性があります。敬語は、上手に使い分ける必要があるのです。


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山口 謠司(やまぐち・ようじ)
中国文献学者
1963年、長崎県生まれ。大東文化大学文学部教授。博士(中国学)。大東文化大学大学院、フランス国立社会科学高等研究院大学院に学ぶ。英国ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て現職。専門は書誌学、音韻学、文献学。『日本語を作った男 上田万年とその時代』(集英社インターナショナル)で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書に『世界一役に立つ 図解 論語の本』『品がいい人は、言葉の選び方がうまい』『読めば心が熱くなる! 中国古典100話』『日本人が忘れてしまった日本語の謎』(以上、三笠書房《知的生きかた文庫》)、『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)、『心とカラダを整える おとなのための1分音読』(自由国民社)、『文豪の凄い語彙力』(新潮文庫)、『語感力事典』(笠間書院)、『文豪の悪態』(朝日新聞出版)、『頭のいい子に育つ0歳からの親子で音読』(さくら舎)、『明治の説得王・末松謙澄』(集英社インターナショナル)など多数。
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(中国文献学者 山口 謠司)

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