だから人生を全力で走り切れた…「どケチ」森永卓郎氏が自由診療の抗がん剤2000万円で延命治療した本当の理由

2025年3月27日(木)11時15分 プレジデント社

東京証券取引所で行われた『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』の記者会見に出席した経済アナリストの森永卓郎氏(=2009年11月30日) - 写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ

余命宣告を受けた患者の多くは旅行や食事をして残りの人生を楽しもうとするという。だが、今年1月に他界した経済アナリストの森永卓郎さんは違った。そうしなかったのには3つの理由があった。「短距離ランナーとして死ぬまで前のめりで走り切ること」を胸に誓った故人の知られざる思いとは——。

※本稿は、森永卓郎『森永卓郎流 生き抜く技術 31のラストメッセージ』(祥伝社)祥伝社)の一部を再編集したものです。


写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ
東京証券取引所で行われた『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』の記者会見に出席した経済アナリストの森永卓郎氏(=2009年11月30日) - 写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ

■「前のめり」で生き抜こう


ガンで余命4カ月の宣告を受けたとき、医師が不思議そうに聞いてきた。


「たいていの患者は、余命宣告を受けると、それまで行けなかった旅行に出かけたり、高級レストランで食事をしたりと、残りの人生を楽しもうとする。それをなぜ、あなたはやろうとしないのですか」


私は、旅行や高級レストランに出かけたいと微塵も思わなかったし、実際に出かけてもいない。それは、残された人生で実行すべき、はるかに重要な課題を抱えていたからだ。課題は3つあった。


ひとつは書きかけだった書籍を仕上げること。ふたつ目はラジオの生放送を続けること。そして3つ目は、獨協大学で新しくゼミ(※)に迎える2年生をしっかりと育てることだ。


(※)2004年に獨協大学からの特任教授就任のオファーを受け、2006年からは正教員(教授)として教鞭をとった。特に、“鋼(はがね)の心臓”を作るためプレゼンテーション力を徹底的に強化したことで、ゼミ生の就活成果が飛躍的に上がった。


最初に取りかかったのは、9割方完成していた書籍の仕上げだ。入院中のベッドのなかで口述したものを、IT技術者をしている次男がテキスト化してくれて、書籍は完成した。


書いてはいけない』というタイトルの書籍は、その後ベストセラーになり、重版を繰り返して30万部を超えている。


その本のあとも、書き残さなければならないことが次々に浮かんできた。そのため、1年間で出版した書籍は、共著も含めると20冊を超えた。いまは少しペースが落ちたが、相変わらずハイペースの執筆は続いている。


もうひとつのラジオは、リスナーさんからの膨大なメールに背中を押された。


彼らは、「あなたの声が生活の一部となっているのだから、勝手に休まないでほしい」と言ってきたのだ。私はラジオのレギュラーを6本やっているのだが、その声に押されて、体の状況にかかわらず一度も休まずに放送を続けている。


■生き残らなければならないと考えた最大の理由


そして、3つ目のゼミ生に関しては、私が生き残らなければならないと考えた最大の理由にもなった。


私の大学では、1年生の秋に、ゼミに参加する学生の選考を実施している。ガン宣告を受けたときは、すでに選考を終えていたが、ゼミの授業は2年生になった2024年4月から始まるので、私はゼミ新入生たちに、自分の考えを何ひとつ伝えられていなかった。


それは、あまりに無責任だと考え、少なくとも彼らに「モリタクイズム」を叩き込むために必要な6カ月間は生き残っていたいと考えたのだ。


本音を言えば、私は延命にさほどこだわってはいない。やりたいことをやりたいようにやってきたから、さほど思い残すことはないのだ。


ただ、ゼミ生の育成となると事情が違う。やり残したことをやるためには延命が必要なる。だから、いまは大金を投じて自由診療の治療を併用している。そのため月ごとの持ち出しは、軽く100万円を超えている。


先日、個人通帳を確認したら、この1年間で預金残高が2000万円も減っていた。ただ、幸か不幸か、これまで節約で貯めた預金と、株式や投資信託で儲けたお金が3000万円以上あったので、あと何年間かは、いまの治療を続けることができる。


命をカネで買っているような状況なのだが、お金を残して死んでも何の意味もないので、そのことは気にしていない。気にしていることは、ただひとつ、残された時間をどのように過ごすことが最も大切か、ということだ。


■いまの私はわき目もふらずに走る短距離ランナー


ゼミ生の育成は、ある程度メドが立った。あと2年間頑張れれば、私のゼミ教育は完成する。ラジオも、やれるところまでやる。


残された課題は、アーティストとして何を残せるのかということだけだ。いまのところ、イソップを超える作品数の寓話を書き上げること。歌手として1回でも多くステージに立ち、あわよくばCDデビューを果たすこと。そして、ミニカーブランドのマジョレットや、グリコのおもちゃの図鑑を完成させることがメインテーマだ。


これらの目標を達成するため、私は全速力で走っている。


その意味で、いまの私は短距離ランナーだ。長距離ランナーは、ペース配分とか、給水とか、ほかの選手との駆け引きなど、さまざまなことを考える。だから、迷いも生まれる。


■最期は沖縄のビーチに腰かけて海風に吹かれながら……


一方、短距離ランナーは号砲が鳴って走り始めたら、わき目もふらずに走ることしか考えない。それが、私が目指している人生の手仕舞(てじまい)の仕方なのだ。



森永卓郎『森永卓郎流 生き抜く技術 31のラストメッセージ』(祥伝社)

役者は舞台の上で、落語家は高座で、歌手はステージで死ぬのが最も幸せな最期だといわれる。私の場合は、沖縄のビーチに腰かけて海風に吹かれながら、突然天から降ってきた最後の寓話をメモして死んでいくというのが理想的かもしれない。


実際、貯まったマイレージの消化目的とともに、死に際の“ロケハン”をするためもあって、ここのところ毎月、沖縄に通っている。ただ、沖縄の人に、「そんなことを言うものではない」と叱られてしまった。もう少し長生きしてほしい気持ちもあると同時に、そんなことをされたら、沖縄のイメージが悪くなってしまうと言うのだ。


私も、その通りだと思う。


【モリタク教授のここがポイント】
●旅行や高級レストランに出かけるより大事なことはいくらでもある
●延命に興味はないが、若い学生だけはしっかり育てたい
●長距離ランナーは考えることが多いから迷いも生まれる
●短距離ランナーとして人生を全力で走り切るのが理想

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森永 卓郎(もりなが・たくろう)
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』『なぜ日本経済は後手に回るのか』などがある。
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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)

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