「死ぬ直前が一番金持ち」なんてバカらしすぎる…森永卓郎の結論「新NISAでも、タワマンでもない最高の投資先」
2025年4月15日(火)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu
※本稿は、森永卓郎『日本人「総奴隷化」計画 1985ー2029 アナタの財布を狙う「国家の野望」』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
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■帰宅は週末のみ、育児は妻に任せきり
私は1980年代半ばから日本における格差の問題を論じてきましたが、今ほど格差の開いた時代はないと思っています。その行き着く先が一部の富裕層と、ブルシット・ジョブに明け暮れる奴隷になった国民の二極化です。
私自身もこの問題に直面しました。新型コロナウイルスが大流行した2020年の春、これまで順調だった仕事が軒並みキャンセルになって収入が大幅に減ってしまったのです。
それまで私の生活は、2拠点生活でした。平日は都心のマンションで寝泊まりをして、週末に自宅のある埼玉県の所沢に帰っていました。週末は講演の依頼も多く、家を空けることが多かったのです。仕事自体は充実していましたが、育児はもっぱら妻任せ。近所の住人の顔もわからずじまいでした。
ところが、生活が一変。自宅に引きこもりの生活が始まります。そんな矢先、新型コロナの影響で「東京近辺から来ないように」と県間移動の自粛が求められる緊急事態宣言になり、2018年から続けてきた群馬県昭和村にある「道の駅あぐりーむ昭和」が運営する10坪ほどの畑での週末だけの「農業体験」を中断することになったのです。
■コロナ禍の「一人社会実験」
私にとって、農業体験は単なる土いじりではありませんでした。コロナによる収入減で老後生活をシミュレーションするための「一人社会実験」の場でもありました。
当初、農業に関してはズブの素人だった私は、ほとんどの農作業を道の駅のスタッフ任せでした。農地の整備から種や苗の準備……農作業の指導をイチから手ほどきを受けたのです。
実際、農作業をやってみると思いのほか重労働なことに気づかされます。雑草を抜く作業はとても大変で、立ったまま3時間も作業時間を要します。さながら長時間スクワットをしているような負荷があり、足腰が鍛えられます。運動不足の私にとっては一石二鳥で、小さな畑でも家族3人が十分なほどの野菜が収穫できるほどでした。
■かけがえのない農業仲間に助けられ…
しかし、私が住んでいた埼玉県の所沢は、私の言葉で言えば「トカイナカ」。都心から2時間ほどの郊外の住宅地ながら農地が豊富な自然が豊かな地域です。周囲を見渡せば、耕作放棄地も点在していました。そこで妻が近所の使われていない農地を探し出して、持ち主に頼み込んで借りられることになりました。
ところが、土地を借りたのはよいものの農業に関しては、まったくの素人同然のまま。土を耕すにも悪戦苦闘する有様でした。
そこで見かねた近所の人が耕うん機を貸してくれました。これまで2週間もかかっていた作業がわずか30分で終わってしまう。手探りしながら覚える農作業は一事が万事苦労の連続でしたが、近所に住む仲間の助けを借りながら、ようやくひと通り覚えた頃、土地を貸してくれていた農家のおじいさんが病気で亡くなってしまいます。
トカイナカでも農地の相続は大きな問題です。私は畑からの年内の退去を余儀なくされました。
途方に暮れている私に周囲の農業仲間から「もうすぐあそこの土地が空きそうだからそっちを借りませんか?」と声をかけてもらいます。おかげで現在は1アール(約30坪)ほどの土地を借りることができて、20種類以上の野菜が収穫できるようになっています。
■「資本主義の論理」から外れた人間関係を手に入れた
マイクロ農業を始めることで、私の生活は一変しました。雑草は一日で伸びますから、毎朝3時間ほどの農作業がルーティンとなり、完全に朝型人間になりました。私自身の一番の変化といえば、近所とのコミュニケーションが一気に増えたこと。2拠点生活から「トカイナカ」でのマイクロ農業で、畑をいじっているだけで、通りかかった近所の人が声をかけてくれるようになりました。
同じような趣味を持つ畑仲間の存在も欠かせません。彼らとの交流を通じて、収穫した野菜をおすそ分けしてもらったり、種や苗まで惜しみなく分けてくれたりします。さらには農作物の育て方についてもアドバイスをしてくれます。
私がガンになって入院し、いない時でも近所の畑仲間が畑の手入れをしていてくれました。もちろんボランティアです。「資本主義の論理」とは、まったく無縁の人間関係です。
■「奴隷化」から逃れるヒント
おかげで収穫した作物で、自分たち家族の食事をまかなう「自産自消」ができるようになったのも、畑仲間の助けがあったからこそ。しかも、ここに住む畑仲間は私と同じ庶民ばかりです。会社のような上下関係もなければ、金銭のやりとりもない。土地の賃借料すらありません。
よく取材で「畑を借りるといくらかかりますか?」と聞かれますが、せいぜい収穫した野菜をおすそ分けする程度です。もはや収入減を気にしなくても家族3人なら十分に生活できることがわかりました。
ここに奴隷化から逃れるヒントがあるのではないか?
と、私は考えるようになりました。コロナ以降のスケジュールはスタジオ出演のラジオのために週に2、3日、短時間だけ東京に出かけるほかは、ずっと埼玉の家にいます。
結果的に「一人社会実験」は大成功でした。冬場こそ農作物は作れませんが、少なくとも食費は半分以下にすることは十分可能です。もちろんマイクロ農業だけで生計を維持していくのは不可能です。しかし、いざという時でも困らないだけの最低限の食べ物を自給自足できて、これほど心強いことはありません。
■月13万円の年金だけで十分暮らしていける
定年後、農業を始めた人たちが口をそろえて言うのは「平凡な生活の中で感じる幸せ」です。農業には企業で働いていた時ほどの刺激がなく、毎日平凡な作業の繰り返しです。でも日々大きくなる作物の成長はうれしいし、手塩にかけて育てたモギタテの完熟トマトを口にした時のおいしさは何物にも代えがたい。そんな平凡な生活の中に感じる幸せが農業にはたくさんあります。
「身土不二」という言葉があります。人は自分が住んでいる土地でとれる旬なものを食べることが、体の健康にも自然にとってもいいということです。いわゆる「地産地消」です。「マイクロ農業」はこれをさらに一歩進めた「自産自消」なのです。
食料の「自産自消」に飽き足らず、私は太陽光パネルを設置した自家発電で、家中の電気をまかなうことにしました。すると、自宅はおろか払っている電気代よりも売電により受け取る金額の方が多くなっています。
私の一人社会実験の結果、1カ月当たりの生活費は家族3人で月額10万円は全然かかりませんでした。これは大きな発見でした。月額10万円で家族が暮らせるなら、夫婦の年金が月額13万円になったとしても十分に生活は可能です。政府が煽った「2000万円問題」も即座に解決します。新NISAをきっかけに投資に手を出して全財産を溶かすなんて愚かなリスクも回避できます。
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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■日本人は死ぬ前が一番金持ち
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、世代別で日本人の貯蓄額が一番高いのが70代で、平均貯蓄額は3000万円以上が18.9%にも上ります。つまり死ぬ直前こそが一番貯蓄が多いそうです。これほど将来が不安だからという心理を的確に表した数字は他にないでしょう。多くの高齢者が死ぬまで生涯貯め続ける強迫観念に襲われています。
2020年に出版され今もロングセラーの書籍に『Die With Zero』(ダイヤモンド社)があります。要は「ゼロで死ね」という意味です。
現実的には難しくても、老後は好き勝手に生きたいというのは誰もが思う本音です。
でもそんなことをしなくてもライフスタイルを変えるだけで年金だけでも十分暮らしていけます。これからも、社会保障制度の維持のために、政府は年金の支給額をますます減らしていくでしょう。
■新NISAもタワマンも必要ない
残念ながら都心のマンションどころか首都圏のマンションでも平均価格が1億円に迫っています。1億円に到達するのも時間の問題でしょう。
ただ少し視点を変えて田舎に拠点を移せば、家と畑と山が数百万円で買えてしまいます。ならば、結末はバブルが弾けて大金を溶かしてしまう新NISAに投資するより、「トカイナカ」に拠点を構えたほうが、投資として考えてもはるかに効率的なのはいうまでもありません。
森永卓郎『日本人「総奴隷化」計画 1985ー2029 アナタの財布を狙う「国家の野望」』(徳間書店)
現代の情報社会は、とてつもなく「つまらない」社会です。創意工夫の余地がないし、会社では皆、駒のような役割しか与えられません。今流行りの仕事といえば、ネット関連ばかり。それも道具のように働き続ける仕事です。そういう仕事ばかりになって、仕事が面白くなくなってきている。でも、農業ビジネスは金儲けの手段としてやらなければ、そんなしがらみとは無縁です。
若者世代なら、都会と田舎の間にある所沢市や入間市のような「トカイナカ」ではなく、完全な田舎暮らしにチャレンジしてもいいのではないでしょうか。自治体が移住者のために助成金を支給してくれるところもある。一定期間住むことを条件に無償で住宅を提供してくれるところもあります。
移住をして生活費を下げることで起業するビジネスパーソンも少なくない。彼らは「自給自足」に飽き足らず、起業が軌道に乗るまで地元の企業で働いて生活費を稼いでいます。
日本人総奴隷化計画への最適解は「トカイナカ」生活と太陽光パネルによる自家発電。それにより、私たちは、一度きりの老後生活を豊かに暮らすことができるのです。
奴隷生活から解放され、金のために人生をブルシット・ジョブで無駄に送ることから解放されるのです。これが世に知らしめたかった「一人社会実験」に対する答えです。
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森永 卓郎(もりなが・たくろう)
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』『なぜ日本経済は後手に回るのか』などがある。
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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)