こうして「フジ会見の動物園化」は避けられた…「三度目の会見」でクレーマー記者を黙らせたフジテレビの奇策
2025年4月4日(金)8時15分 プレジデント社
多くの記者が詰めかける中、登壇したのは清水社長ただ1人だった - 撮影=石塚雅人
撮影=石塚雅人
多くの記者が詰めかける中、登壇したのは清水社長ただ1人だった - 撮影=石塚雅人
■フジが「一枚上手だった」3度目の記者会見
中居正広さんをめぐる性的トラブルを受けて、フジテレビの第三者委員会が報告書を発表した。報告書には関係者へのヒアリングを通してまとめられた詳細な経緯や、社内対応について書かれており、提出されたその日に、第三者委員会とフジによる会見も行われた。
フジが前回行った「やり直し会見」は、10時間半にわたる長丁場となり、深夜2時台まで続いた会見の様子は、ほぼノーカットで地上波放送された。一方、今回は22時台までの5時間半、かつ途中からはネット配信のみの中継となった。
筆者はネットメディアの記者・編集者として、これまで企業の不祥事会見をつぶさに見てきた。2025年1月のフジ会見も全編リアルタイムで見て、「エンタメ化する記者会見」の弊害について、プレジデントオンラインで論じている(「まるで正義のヒーロー気取り…『フジ会見』をおもちゃにしたクレーマー記者がこれから払う“大きすぎる代償”」2025年2月5日)。
前回会見は、一部記者による質問が「カオス」を引き起こしていた。しかし今回は、一部不規則発言はあったものの、さほどの混乱には至らなかった。そうなった背景には「フジ経営陣と、彼らを追及する取材陣」の対立構図が崩れたことがあるのではないか。この点において、「フジ側が一枚上手だった」と考えている。
■調査報告書はとても丁寧にまとめられた
フジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングス(FMH)は1月、一連の問題をめぐって、利害関係のない弁護士から構成される第三者委員会を設置すると発表した。その報告期限は3月末と定められ、第三者委員会からの調査報告書も、その最終日である3月31日に、両社の取締役会へと提出された。
調査結果は即日公表され、同日夕方から夜にかけて、記者会見が行われた。17時からの第三者委員会によるものと、19時すぎからのフジ側による会見の二段構えで、報告書について説明された。
報告書では、2023年6月2日に中居さんが女性へ行った事案について、WHO(世界保健機関)の「性暴力」の定義を引きつつ、「女性Aが中居氏によって性暴力による被害を受けた」と認定している。報告書の詳細な内容については割愛するが、守秘義務が解除されていない状況下において、短期間でヒアリングを中心にまとめられた調査報告としては、極めて丁寧かつ詳細だと感じられた。
■300ページにわたる報告書の会見は「即日」
そして、報告書の提出を受けて行われたのが、フジとして3回目となる会見だ。1度目の会見は記者クラブを中心に、極めてクローズドな場で行われた。2度目の会見は、先述のようにカオスと化したため、「三度目の正直」になるかと注目が集まった。
撮影=石塚雅人
清水賢治フジテレビ社長 - 撮影=石塚雅人
あくまで筆者の感想でしかないが、今回はまずまず、うまく行ったのではないかと思う。その理由としては、大きく「報告書のボリュームが膨大だったこと」「触れられない事項が減ったこと」「登壇者が少なかったこと」「おおむね通常編成で放送したこと」の4点がある。それぞれ見ていこう。
まずは、「報告書のボリュームが膨大だったこと」だ。報告書は誰でも見られる「公表版」(273ページと別冊43ページ)と、その「要約版」(51ページ)、そして役員へ提出された「実名版」に分けられる。
記者にとっては、会見までのわずかな時間で、300ページ以上の公表版を読み込むことは至難の業だ。となれば、その質問はおのずと要約版に準拠したものとなり、実名版・公表版で書かれている内容をなぞっているものも増えるだろう。つまり回答側にとっては、想定問答を用意しやすくなる。
■登壇者を5人→1人に絞ったフジの思惑
続いてのポイントが、「触れられない事項が減ったこと」だ。前回と今回の会見で、一番異なる点は、被害女性が「フジテレビの元アナウンサー」であると明示されたことだ。これまでは「社員か否か」についてすら、公式見解を出していなかった。だからこそ「元アナウンサーであることを前提とした質問」には答えられず、一部報道陣の興奮を招く結果となっていた。
加えて今回は、報告書内で各関係者に「匿名化した呼称」が振られた。被害者は「女性A」、元編成部長は「B氏」、アナウンス室部長は「F氏」などと名付けられたことで、質問側の「誰の話をしているか分からないから、実名で呼ぶしかない」という道がふさがれた点は大きい。
会見をスムーズに進める上では、「登壇者が少なかったこと」も要因となる。第三者委員会の会見には、竹内朗委員長、五味祐子委員、山口利昭委員に加え、調査を担当した弁護士も同席した。しかし一方で、フジ会見に登壇したのは、港浩一前社長の後任となる清水賢治フジテレビ社長(FMH専務取締役、6月にFMH社長を兼務予定)の1人のみだった。
前回のフジ会見では港氏、清水氏、遠藤龍之介氏(前フジテレビ副会長)、嘉納修治氏(前フジテレビ会長)、金光修氏(FMH社長、6月に退任し会長へ就任予定)の5人であったことと比べると、そのスリム化が際立った。
撮影=石塚雅人
フジ記者会見の直前に行われた第三者委員会の会見の様子 - 撮影=石塚雅人
■地上波は途中まで、21時からは月9ドラマを放送
登壇者を絞ることで、誰が回答するかが明確になる。また視聴者に対しても、「尻拭いをさせられた新社長が1人で背負う覚悟」といった印象を与えられる。すると「取材者側のイメージダウン」につながらないよう、糾弾する側も勢いを削がれやすくなる。
その点においては、「おおむね通常編成で放送したこと」も効果を発揮したと言える。休止したのは19時からの「ネプリーグ」の2時間特番だけで、この日が最終回だった月9ドラマ「119エマージェンシーコール」からは通常放送となった。21時以降は民放の配信サービス「TVer」と、自社のニュースサイト「FNNプライムオンライン」での中継となった。
前回コラム(前掲記事)で、筆者は「会見を『新たな情報を手に入れる場』ではなく、『爪痕を残すことで存在感を示す場』と位置づける人々が増えた」として、「特定の顧客に対するパフォーマンスの場として、公であるはずの会見を用いる。それが、フジ会見がカオス化した背景にある、大きな要因ではないか」と論評した。
もしも「地上波では流れない」となれば、アピール目的の記者は、そこに参加するモチベーションを失うだろう。本人も前回ほどの陶酔感を味わえず、顧客にとっても「活躍」が見えにくくなるからだ。また、序盤から「著名な記者」が数多く当てられた点からも、コントロールの妙が見えた。
■フジの信頼回復はまだまだ道半ば
以上のような背景があって、会見のカオス化は抑えられたと考えている。もちろん、フジ側も手放しで褒められたわけではない。報告書に合わせて、フジテレビとFMHの連名で発表された「フジテレビの再生・改革に向けて」と題するコーポレートガバナンスの強化策は、お世辞にも十分とは言えない。
ここでは清水氏をトップに据えた「再生・改革プロジェクト本部」や、20〜40代の中堅・若手社員からなる「再発防止・風土改革ワーキンググループ」、そして社員との対話により諸課題を浮き彫りにして、人権意識やコンプライアンス、組織風土・企業文化、ガバナンスといった各種強化策を打ち出している。
新生プランとして書かれていることは、至極まっとうだ。しかし、読めば読むほど「なぜ今までやっていなかったのか」と、むしろ従来のずさんさが目立ってしまう。今どきの企業であれば、当然に持っているべき意識ばかりが並べられた「スタートライン」に過ぎない。さらに一歩踏み込んだ「時代を先取りする改革」を打ち出せない限り、信頼回復はもう少し先になるだろう。
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城戸 譲(きど・ゆずる)
ネットメディア研究家
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
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(ネットメディア研究家 城戸 譲)