「うちの子の内申点を上げろ」と5時間怒鳴り続ける…そんなモンペに教師はなぜ黙って耐えるしかないのか

2025年4月10日(木)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

生徒の保護者から、理不尽なクレームを受けた場合、教師はどのように対応しているのか。10年以上中学校教諭を務めた静岡の元教師すぎやまさんは「学校は保護者である限りどんなに怒鳴っていても追い返すことはできないし、居座られても警察を呼ぶこともできない。トラブルやクレームに関して、腰を低くしてどうにか穏便に済ませるという手段を第一にせざるを得ないのが現状だ」という——。(第1回/全3回)

※本稿は、静岡の元教師すぎやま『教師の本音 生徒には言えない先生の裏側』(SB新書)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/kuppa_rock
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■保護者からかかってきた電話


「テストの点数、上げてもらえませんか?」


保護者からそんな電話がかかってきたことがあります。いやいや(笑)、そんなことあります? 初っ端から冗談キツいよ、と思われると思いますが、残念ながら実話です。


それは定期テストが終わった後のことでした。学年主任に呼ばれて電話に出ると、相手は担任しているクラスの生徒の保護者。


「先生、うちの子、今回の数学のテスト、すごく点数悪かったんですよ」
「あぁ、まぁたしかにそうですね……」
「あの……点数、上げてもらうことってできませんか?」
「えっ?」

正直、意味がわかりませんでした。


「点数上げるって、どういうことですか?」
「こんな点数見せたら、パパ(夫)が怒るから、怖くて見せられないんですよ。怒られたら娘も可哀想だし……少しでもいいんで、何点か上げてくれませんか?」
「いや……さすがにそれは学校の信用に関わるので、そういうことはできません」
「そうですよね……わかりました」

幸いなことに、この件はこれで終わりました。まあ、モンスターペアレンツとまでは言えないような、笑い話かもしれません。


■保護者からのクレームはかなり多い


本書ではいくつかこういう私の体験談をお話ししていますが、今でも根に持っていて、恨み節を言いたいという意図ではなく、あくまでも学校の実情を伝えるためのビックリエピソードとして聞いてもらえたらなと思います。


ただし、教員には守秘義務もあるので、個人が特定できないようにするため、内容は一部脚色していることはあらかじめご了承くださいね。


さて、こういう保護者からのビックリするようなクレーム、学校現場ではかなり多いのです。もちろん学校に問題がある場合も多いでしょう。それは真摯に対応していかなくてはなりません。


でも問題なのは、そうじゃないケース、つまり保護者があまりに理不尽なクレームを入れてくること。いわゆる『モンスターペアレンツ』です。


次にご紹介するケースはもっと深刻でした。


■「内申点を上げろ」と怒鳴り続ける父親


受験のときには、それまでの成績に基づく「内申点」を参考にして、志望校を決めます。その内申点が出たときに、ある生徒の保護者が夫婦で学校にやってきたんです。担任の先生に話がある、ということでした。


そこで、お二人を学校の応接室にお通ししました。


「どうしました?」
「あのさぁ、この成績、どういうこと⁉」
「はい?」

父親の方は最初からケンカ腰。品の良さそうな母親は背筋をピンと伸ばしたまま、凍った表情でこちらを見ています。


「これじゃあさ、うちの子は○○高校に行けないじゃないか」
「そうですね、ちょっと……厳しいかもしれませんね」
「厳しいですよね、じゃないよ!」

お父さんの怒りはドンドンエスカレートしていきます。


「あんた担任なんだから、息子の成績、もうひとつかふたつ、上げてくれてもいいじゃないか!」
「担任としてうちの子の進路を応援する気はないのか!」
「息子の未来を潰す気か!」

■結局5時間怒鳴られ続けた


机をバンバン叩きながら怒りをぶつけてくる父親。埒が明かないと思った私は、「学年主任の方から説明しますんで、ちょっとお待ちいただけますか?」と言って、席を立とうとしました。


ところが父親は「いや、いい、行くな」と言うのです。


「いや、でも私がこれ以上説明しても、ちょっとおわかりいただけないと思うんで……」
「いや、いい、とにかくあんたに言いたいんだよ」

そこから、また一方的な罵倒が続きます。しばらくそれを聞かされてから、「いや、もう私が言ってもおわかりいただけないと思うので、学年主任を呼んできますので……」と言って応接室を出ようとしたんですが、「いや、行かなくていい」と、ドアを押さえられてしまいました。


「俺はあんたに文句があるんだよ!」

……もう、意味がわかりません。そのまま怒鳴り続けられ、時間感覚もなくなり始めた頃、


「これだけ言っても成績上がらないんだな?」
「上がりません」
「わかった、じゃあ帰るよ」

と言ってご両親は帰っていきました。


16時くらいに来たその保護者が帰ったのは、21時を過ぎてからでした。


ようやく職員室に戻ったら、心配した学年主任がまだ残ってくれていました。


「大丈夫だった?」と。


「いや、助けに来いよ!」と思いましたが、もうつっこむ元気すらありませんでした。


トイレも行けない、水も飲めないで、5時間ただ怒鳴り続けられる。こんな経験はなかなかできないと思います。


■学校は保護者を追い返せない


教員が保護者から理不尽に怒鳴られ続けるというのは、実はけっこうあります。


別の生徒の件で保護者ともめてしまったときも、教頭と学年主任が家まで謝りに行って、「夜中の0時まで怒鳴り続けられた……」と言っていました。


そんな長時間怒鳴って、よくノドが潰れないですよね(笑)。


保護者にそこまで一方的に怒りをぶつけられても、先生方は基本的に黙っていることしかできません。


実は学校の教員というのは、とても弱い立場なのです。


たとえば保護者が、学校ではなく学習塾に怒鳴り込んできたらどうでしょう? たぶん1時間もしないうちに「じゃあもういいです、うちの塾に来てくれなくていいから帰ってください」と言ってお引き取りいただくことでしょう。もし居座るようなら警察を呼ぶだけです。


同じ子ども相手、保護者相手の仕事でも、塾はお客を選べます。銀行や市役所もそうですよね。お客さんが怒鳴り込んできて暴れたら、すぐに通報です。


でも、学校は保護者である限りどんなに怒鳴っていても追い返すことはできませんし、居座られても警察を呼ぶこともできません。クレーム対応窓口はなく、顧問弁護士もいません。


■腰を低くして穏便に済ませるしかない


また学校ではなく、教育委員会に苦情を入れられるケースもあります。この場合、教頭や校長が委員会への説明・対応に奔走することになります。ただし、教育委員会の指導主事というのはみんな『先生』です。どこかの学校で一緒に働いていた仲間なのです。教育委員会=教師を管理している影の組織のようなイメージを持っている人もいるかもしれませんが、全然そうではないんですね(笑)。


生徒の中にも時々「教育委員会に言ってやろ〜!」と教師を煽ってくる子がいますが、「どうぞ言ってください」という話です。ただ、学校に非があろうがなかろうが、教育委員会から電話がかかってきて「クレームが入っているんですが、事実関係を確認して報告してください」と言われれば、校長も教頭もいい気はしないですよね。


だから学校では、トラブルやクレームに関して、腰を低くしてどうにか穏便に済ませるという手段を第一にせざるを得ないのが現状なんです。


写真=iStock.com/Vichakorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vichakorn

■メディアの偏った報道でモンスターペアレンツが増えている


「学校へのクレーム対応窓口を新設!」。2024年4月、モンスターペアレンツ対応に悩まされていた奈良県天理市が、専用窓口をつくった、というニュースが話題になりました。


一般の企業では、『お客様センター』や『カスタマー窓口』を設けているところは、珍しくありません。現場でいちいち対応していたら、仕事が回らなくなってしまうからです。ついに学校までも専用窓口でクレームを受け付ける時代になってきているのです。


モンスターペアレンツ、クレーマー増加の背景には、メディアの報道も関わっている、と私は思います。


たとえば、男の先生が援助交際をしていました、女の先生が風俗店に勤めていました……みたいな話は、ものすごいゴシップになります。最近も、下半身を露出して公然わいせつ罪で捕まった校長がいました。


それらの事件は、たしかに事実です。しかし、捕まったのが校長じゃなくて、どこかの家電量販店の55歳の部長だった場合、そこまで大きなニュースになるでしょうか? でも校長が……となると、教師=聖職者というイメージのせいで、センセーショナルなゴシップとして報道されるわけです。


もちろんメディアは嘘を報道しているわけではないでしょう。しかし、なにか学校がらみの事件があった場合、学校を批判する被害者やコメンテーターの意見ばかりが報じられがちです。そして学校側の説明は切り取られ、まるでただただ『言い訳』しているような見方をされることが、あまりにも多くないでしょうか?


こういう報道は事実だとしても、人々の印象を形成するのには十分な影響力を持っています。


心理学で『リスク認知バイアス』という心理作用があります。


たとえば、飛行機が墜落したというニュースがあると、多くの人は飛行機=危険と思い込んでしまうという心の働きのことです。


でもよく考えてください。事故があろうがなかろうが、飛行機の危険度は変わりませんよね?


そもそも飛行機事故で死ぬ確率は0.01%以下、つまり1万回に1回以下とされます。それなのに、急に怖くなって慌ててフライト予約をキャンセルしてしまったりするのです。


教員についてのゴシップ報道は、これと同じです。


まるで先生みんなが悪いことをしているんじゃないか? 先生ってヤバい人ばかりなんじゃないか? と思い込ませる効果があると思います。


冷静に考えてみれば、実際には、普通のサラリーマンがわいせつ事件を起こす確率と、教員がわいせつ事件を起こす確率なんて、だいたい同じぐらいでしょう。でも教員の事件の方が圧倒的に大きく報道されがちで、リスクが高いように感じられてしまうのです。


■小さなことでも気軽に相談してOK


私のところにはYouTubeやTikTokの視聴者から毎日のように相談のDMが届きます。その多くは中高生からのものなのですが、中には保護者からの相談もあり、また最近ではフリースクールや通信制サポート校の活動を通して、生で保護者のみなさんの声を聞く機会も増えています。


その中で特に多いのは、「先生にどこまで相談したらいいかわからない」というものです。


たとえば明らかないじめとまではいかなくても、心配なことってありますよね。


「子どもが楽しくなさそうにしている」とか、「クラスで孤立してるんじゃないか?」とか。でも、先生も忙しいだろうし、そんなことでいちいち相談したら『モンペ』(モンスターペアレンツ)扱いされてしまうんじゃないか?


モンスターペアレンツ問題が広まる陰で、逆に気を使いすぎて、どこまで言っていいものなのかと悩んでいる保護者の方も増えているようなんです。


でも断言しますが、小さなことでも気軽に相談してOKです。むしろ、言ってくれた方がありがたいし、教員は話してもらえれば絶対に気にかけるようにします。


■先生は相談されたらうれしい


電話するほどでも……という場合には手紙や連絡帳に書いておいてくれるだけでも大丈夫です。



静岡の元教師すぎやま『教師の本音 生徒には言えない先生の裏側』(SB新書)

特に小学生の場合はそうです。たとえば、「うちの子、本当に好き嫌いが多くて、野菜がまったく食べられないんですけど……」とか、「幼稚園のときに○○ちゃんとケンカして、本当にすごいトラブルになった」とか、そういう情報は、逆に伝えておいてもらった方がありがたかったりします。


特に小学生の場合は、困っていても、なかなか自分から先生に言い出せないことがあります。でも把握しておけば、もし何も起きなかったとしても、気にかけておくことができます。教員としてもそれはありがたいことなのです。


だから「迷惑かな」などと思わずに、言ってほしい。あとから怒鳴り込まれるくらいなら、先に言っておいてくれた方がいいです(笑)。


実際に私の経験として、中学校のクラス替えの作業をしている最中に、たまたまあるお母さんに会って、「実はうちの子、小学生のときに○○ちゃんとトラブルになってるんですよ……」と聞いたことがありました。急いでクラス替えの資料を見たら、その2人は新クラスが同じになっていたんですね。


2人のトラブルについては、小学校からまったく情報が上がってきていませんでした。知っていたら絶対一緒のクラスにはしませんから。


その時は、お母さんの情報のおかげで、ギリギリのところで2人を別々のクラスにすることができ、トラブルを事前に回避することができました。


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静岡の元教師すぎやま(しずおかのもときょうしすぎやま)
YouTuber、TikToker、LGBTQ、教育評論家
静岡県掛川市出身。10年以上中学校教諭として勤務したのちに、2018年に退職。現在は先生のホンネ、学校のウラ側を解説するインフルエンサーとして活動中。現在総フォロワー数70万人超。フォロワーの多くは中高生で、若者心理やSNS文化に詳しい教育者として、自己啓発、SNSなどのテーマで、執筆・講演を行っている。2021年には「ゲイ」であることをカミングアウト。LGBTQの啓発活動として、講演会や企業向け研修会なども行っている。2024年に不登校生徒向けのオンラインのフリースクール「新時代スクール」を創設。クラウドファンディングで応援を募り、支援総額780万円超を達成。著書に『教師の本音 生徒には言えない先生の裏側』。
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(YouTuber、TikToker、LGBTQ、教育評論家 静岡の元教師すぎやま)

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