大谷翔平選手のパワーの源は「10時間睡眠」にある…「睡眠は質より量です」発言に医師がその通りと考える理由
2025年4月21日(月)9時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo
※本稿は、梅岡比俊『医者が教える最高のやせ方 科学的に正しいお腹いっぱい食べられるダイエット法』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
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■睡眠不足はどんどん太る
2021年、OECD(経済協力開発機構)が行った国別平均睡眠時間の調査結果が発表され、33カ国中、日本は最下位でした。また2023年に行われた世界睡眠調査でも、日本人の平均睡眠時間は約6時間30分で、先進国のなかで最下位でした。
さらに、世界累計2000万ダウンロードを達成したスマホ用睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」のユーザーを対象とした国別平均睡眠時間の調査でも、日本は6時間38分で最下位という結果になりました。調査によって睡眠時間に差はありますが、総じて日本は世界でもっとも睡眠時間が短い「睡眠不足大国」ということになります。
こうした睡眠不足による経済損失は、なんと18兆円にのぼるという試算もあります。睡眠研究の世界的権威で、前述の「ポケモンスリープ」の監修者でもある筑波大学国際総合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史教授は、日本人は眠りに無頓着で「睡眠を重視していない」と、あるインタビュー記事のなかで述べています。さらに柳沢教授は、日本人の睡眠不足が子供の頃からからすでに始まっていて、小学校高学年や中高生では、睡眠の不足がより深刻である可能性を各メディアで指摘しています。
私も医者として多くの患者さんを診てきましたが、その大半の方が明らかに睡眠不足でした。日本には「寝る間も惜しんで仕事をすることが美徳」とされる文化がいまだ根づいていて、「睡眠よりも仕事を優先するのが当たり前」という意識が強い人が多いことを痛感します。このような意識を変えていかないと、ダイエットの成功や真の意味での健康を手にすることは難しいと思います。
■睡眠不足は認知症リスクも高める
なぜなら、睡眠不足を続けていると確実に太るからです。また、パフォーマンスや集中力、記憶力の低下など、たくさんの弊害をもたらすこともよく知られています。
アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβタンパクの脳内での蓄積も促進し、認知症の発症リスクを2倍程度高めるとする研究もあります。睡眠不足が肥満を呼び込むというつながりは、あまり知られていないことかもしれませんが、理由を知れば当たり前のことだと理解できるでしょう。
食欲をコントロールする2種類のホルモンがあります。グレリンとレプチンです。
睡眠が不足すると、食欲を増進させるホルモンである「グレリン」の分泌量が増加し、同時に食欲を抑制するホルモンである「レプチン」の分泌量が低下します。つまり睡眠不足の状態では、2つのホルモンの分泌量の変化により、食欲を抑制する力が減少し、食事量が増えます。その結果、太ってしまうというわけです。
また、体内に「グレリン」が増えると、こってりしたラーメンやポテトチップス、ケーキやクッキーなどの高脂肪の食べ物を欲するようになります。2004年にアメリカのスタンフォード大学が行った研究調査があります。この研究では、睡眠時間と食欲との間に一定の相関関係があることが示されました。
8時間睡眠の人と5時間睡眠の人を比べると、5時間睡眠で睡眠不足状態にある人では、食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌量が8時間睡眠の人よりも約15%多く、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌量も約15%低かったとのことです。
■ダイエットに睡眠不足は大敵
こうしたホルモンの分泌量の変化が起こるのは、睡眠時間が短くなると起きている時間が長くなるので、「グレリン」を増やして「レプチン」を減らし、私たちに食べ物を食べさせて、増えた活動時間に必要なエネルギーを確保しようとする身体の働きがあるためではないか、と考えられています。
さらに、2005年にはアメリカのコロンビア大学が、32〜59歳の男女約8000人を対象に研究調査を行いました。
平均睡眠時間が7〜9時間の人と、4時間以下の睡眠不足の人を比較したのですが、睡眠不足の人の肥満率は、十分に眠っている人に比べて平均でなんと73%も高かったのです。ちなみに、同じ調査では5時間睡眠の人の肥満率も、7〜9時間睡眠の人に比べて約50%高いことがわかっています。
睡眠不足になると、昼間眠くなって日中の活動意欲が低下します。その結果、動作が緩慢になったり、ルーティンのトレーニングをサボったりと、どうしても活動量が減り、消費カロリーも減りがちです。しかし「グレリン」のせいで食欲は増しているので、「たくさん食べて、動かない」状態になりやすく、肥満に向けた負のスパイラルに陥りかねません。
ダイエットには睡眠不足は大敵。食事面での「お米を食べるダイエット」の効果を帳消しにしないためにも、読者のみなさんには、上質な睡眠をとることにも気を配ってほしいと思います。
〈ここがポイント〉
日本人は、平均すると世界最悪レベルの睡眠不足。睡眠が不足すると、食欲に関係するホルモンのバランスが崩れ、太りやすくなることをしっかり認識しよう。
■まずは質より量
睡眠に関する悩みを持つ患者さんたちに、私がまずお伝えするのは、「睡眠の質よりも、量を確保してください」ということです。
なぜなら、患者さんの多くがすでに睡眠不足の状態にあるからです。日本人は世界でもトップクラスに睡眠が足りていません。前述の筑波大学国際総合睡眠研究機構長の柳沢教授も、「世界一寝不足の日本人は、まずは睡眠の質より量。質の話は、量が確保されてからです」という趣旨の発言を、出演されたテレビ番組やインタビュー記事のなかで繰り返しています。私も、まったく同感です。
私自身、クリニックで診療したり、講演活動をしたり、本を執筆したり、トライアスロンの大会に出たりと、日々かなり忙しく活動しているのですが、その様子を見て、「先生は、いつ寝ているんですか?」「寝る時間をどうやって確保しているんですか?」とよく聞かれます。
答えは簡単で、最優先で睡眠時間を確保してから、そのほかの予定を入れるようにしているだけです。1日あたり、最低でも7時間の睡眠時間を確保するようにしています。みなさんにも、同じようにすることをおすすめします。
■せめて今より30分〜1時間早く寝る
たとえば2023年の筑波大学体育系の武田文教授らが行った調査によれば、日本の企業従業員(1万 2476 人、21〜69歳)の各種データを横断的に分析した結果、男女ともに仕事のパフォーマンスにもっとも悪影響を与える生活習慣は、睡眠の不足であることが示されたそうです。
ちなみに、睡眠不足に次いで悪影響を与えるのは運動習慣の欠如で、さらに次いで就寝前の食事(夜食)の習慣だったそうです。主観的な負担感、つまりは「しんどい」とか「眠い」などと感じる度合いも、当然ながら短時間睡眠の人のほうが大きかったそうです。
©富永三紗子[出所=『医者が教える最高のやせ方』(すばる舎)]
同様の調査はたくさんあり、睡眠不足が私たちの日々のパフォーマンスにも悪影響を与えることはすでに明らかにされています。であれば、兎にも角にもその解消を図るのが合理的でしょう。睡眠の重要性を認識し、また、睡眠不足が肥満やパファーマンス低下に直結することをよく理解して、せめて「できる範囲で、いまより30分〜1時間早く寝る」ことを意識してください
■15〜40分の昼寝も効果的
日中に寝不足を感じるときには、15〜40分程度の昼寝をすることもおすすめです。私自身も昼寝の習慣を取り入れていますが、短時間の昼寝をすることで、その日のパフォーマンスがとても高くなることを実感しています。
メジャーリーガーの大谷翔平選手は、何をおいても睡眠時間を優先することで有名です。1日10時間は寝て、疲労回復に努めているそうです。過去、大谷選手がインタビューで「睡眠は質より量です」と答えているのを聞いたとき、私は彼の活躍が今後も続くだろうと思いました。
大谷選手の歴史的な大活躍を支えているもののひとつは、間違いなく睡眠時間だと言えます。まずは睡眠の重要性を認識し、睡眠時間を十分に確保する意識を持つようにしましょう。
〈ここがポイント〉
睡眠不足の日本人にとっては、まず「質より量」。先に睡眠時間を確保してから、予定を入れる生活スタイルに切り替えたい。
■空腹を感じる状態で眠るのがダイエットには効果的
食物の消化には、およそ2〜3時間かかります。そのため、快適な睡眠のためには、就寝の2〜3時間前までには食事を済ませることが必要です。
少し空腹を感じる状態で眠りにつくのが、特にダイエットには効果的でしょう。仕事の都合などでどうしても夕食が遅くなってしまう場合は、夕方におにぎりやバナナなどを軽めに食べておきましょう。家に帰ってきてから、野菜中心の消化のよいおかずや豆腐などを食べて、お腹を膨らませるようにします。
特に遅い時間に食べるときには、揚げ物や肉など消化に時間がかかるものは避けたほうが無難です。
■チョコレートやバナナは睡眠の質を高める
睡眠の質を高める効果がある食品を、寝る前に適量摂取するのも効果的です。
梅岡比俊『医者が教える最高のやせ方』(すばる舎)
たとえばチョコレートに含まれるカカオには、ギャバやテオブロミンといった成分が含まれていて、ストレスを軽減し心身をリラックスさせる効果があります。あるいはバナナに含まれるアデノシンという成分は、脳の活動を抑制し、眠気を誘導する効果があります。
ホットミルクもおすすめです。体を温め、自律神経をリラックスモードに導いてくれる効果がありますし、牛乳に含まれるトリプトファンによって体内でメラトニンが合成され、よりよい眠りを実現してくれます。
いずれも眠る直前に摂るのは避け、夕食後のデザートなどとして取り入れるのがいいでしょう。
〈ここがポイント〉
食事は眠る2〜3時間前までには終わらせる。チョコレートやバナナ、ホットミルクなどを少量、寝る前に摂るのも効果的。
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梅岡 比俊(うめおか・ひとし)
医師
医療法人社団梅華会 理事長。予防未病健康医師協会 代表理事。耳鼻咽喉科専門医。奈良県立医科大学医学部卒業。阪神地区に耳鼻科4院・小児科2院・心療内科1院、東京都内に消化器内科2院の計9院を展開。年間患者来院数は約17万人にのぼり、地域に密着した医療を提供している。2024年10月に新規開院した心療内科には、マインドフルネスセンターを併設。現代のニーズに合った医療を提供し、医療の幅を広げている。健康寿命の延伸を目指す全国の医師・歯科医師で構成された予防未病健康医師協会の代表理事も務め、この協会を通じ、連携による包括的な予防医学の概念を広める活動を全国で展開し、自院でもそのサービスを提供している。趣味は読書とトライアスロンで、世界の過酷なレースに参加するアスリートでもある。また、野菜ソムリエやファスティングマイスターの資格を所有し、真の意味での健康を追求し続けている。著書に『医者が教える最高のやせ方』(すばる舎)、編著書に『臨床経験豊富な100人の専門医が教える! 健康医学』(フローラル出版)があるほか、クリニック運営関連の著書も多数。
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(医師 梅岡 比俊)