「バカなの?」「育て方、下手ですよね」社員同士の“グチDM”が会社にバレて…裁判所が下した“意外過ぎる判決”

2025年4月23日(水)7時20分 文春オンライン

〈 「皆さん反社に見えます」「入社の理由? ついでに受けただけです」歓迎会で泥酔→内定取消…採用担当者も呆れた“酒乱商社マン”の「暴れぶり」 〉から続く


 リモートワークで一気に普及した「ビジネスチャット」。そこでの愚痴が、思わぬ事態に発展することもあるため、使い方に注意が必要だ。実際にあった悲しい事例を『 まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白 』(日本経済新聞「揺れた天秤」取材班著、日経BP)から一部抜粋し、お届けする(全3回の2回目/ 前回を読む / 続きを読む )。


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ビジネスチャットの内容は意外に「筒抜け」かもしれない(画像はイメージです) ©west/イメージマート


 在宅勤務という新たな働き方は、互いの姿が見えない故にトラブルの火種もはらむ。社用チャットに職場の愚痴を書き込んでいたことを会社に知られた女性。テレワークの禁止とオフィス勤務を命じられ、応じられないとして退職した。出社命令は無効だと提訴した女性に対し、会社側は在宅での勤務報告に虚偽があったと訴え返し、双方の主張は真っ向から対立した。


社長にバレた「愚痴の内容」とは


 会社を辞めたほうがよいかと思います─。2021年3月。午後3時半ごろ、いつものように自宅で仕事をしていた女性のもとに勤め先のIT(情報技術)会社の社長から1通のメールが届いた。添付されていた1枚の画像。開いてみると、自身と同僚がチャットツール「スラック」で交わしたメッセージの画面だった。


 周囲の目の届かない環境が不満をエスカレートさせたのだろうか。「有休消化という概念はこの会社にはないんですかね」「育て方、下手ですよね」「馬鹿なの」。従業員規模300人ほどの社内で当時、女性の周りだけでも5人以上の社員が相次いで離職していた。高まっていた職場や社長への愚痴が当事者しか見られないダイレクトメッセージで飛び交った。


なぜ愚痴がバレてしまったのか


 だが、やりとりをしていた同僚も退職することになり、会社にパソコンを返却。社長が中身を確認し、予期せぬ形で本人の目に触れた。「辞めるつもりはない」という女性に、社長は「これでどうやって信頼関係を築けばいいのか」とにべもない。その日の夜、「管理監督」を理由にテレワークを禁じ、オフィスでの勤務を命じる通知文が届いた。


 女性はデザイナーとして営業資料などの作成を担っていた。フルリモート勤務で、20年5月に転職してからオフィスに出向いたのはわずか2回。夫婦共働きで子どもを保育園に送迎していた上、当時は妊娠中だった。埼玉県の自宅から東京都内の職場まで電車で片道1時間半かかる。女性は命令を拒んだ。


 2週間後、会社側は無断欠勤が続いたとして女性を退職扱いとした。その後、自ら退職を申し出た女性は、出社命令は無効だったとして退職までの賃金支払いなどを求めて提訴。会社側は逆にこれまでの在宅期間を遡り、勤務時間の報告に虚偽があったとして給料の一部返還を求める反訴を起こした。


 コロナ禍を受けて一気に広がったテレワーク。女性のように通勤が困難な事情を抱える人でも働くことができ、通勤のストレスがないなどの恩恵が大きい一方で、課題も浮かび上がる。


裁判所が下した判断は?


 転職相談サービスのライボ(東京・渋谷)が運営する「Job総研」が23年1月、テレワークでマネジメントを経験した約300人に難点を尋ねたところ、37.6%が「コミュニケーション」、20.1%が「業務進捗の管理」と答えた。一方で、従業員は874人のうち65%が「テレワーク中にサボったことがある」と回答している。


 訴訟で会社側はパソコンの操作記録などをもとに約103万円分の給料が払いすぎだったと主張した。女性は「操作記録がないのはデザイン業務の仕方からすれば当たり前だ」と反論した。アイデアを考える際にパソコンを使わずラフスケッチを描くケースも多かったという。ただ、具体的な成果が上がるまでのプロセスが見えにくい中で、会社側が女性の働きぶりに疑念を持ったのも無理からぬことかもしれない。


 東京地裁は22年11月、女性側の訴えを支持する結論を導く。会社側がそれまで女性の勤務形態に異論を述べなかったことなどを踏まえ「出社命令は業務上の必要性はなかった」と判断。会社側に約45万円の支払いを命じた。虚偽報告という主張は「デザイナーはパソコン作業をしないこともある」と退けた。


 敗訴した会社側と、訴えの全額は認められなかった女性側の双方が控訴した。約4カ月後、会社側が女性に解決金を支払い、互いに誹謗中傷しないことなどを条件とする和解が東京高裁で成立。裁判は終結した。


 訴訟はリモートでの業務管理の難しさとともに、社用チャットへの安易な書き込みの危うさも映し出す。いさかいの発端となったやり取りについて、女性は「地位や責任からすれば、社会生活上、甘受すべき範囲内」と述べたが、地裁判決は「(社長を)やゆする内容が含まれ、不快に感じた点は理解できる」と言及した。


 仕事の仕方が変わっても、画面の向こうにいるのが生身の人間であることに変わりはない。 在宅勤務で顔を合わせなくなった相手と、久々に対面した場が法廷という事態を避けるためにも、改めて肝に銘じておきたいものだ。

〈 〈不動産業界の衝撃リアル〉「こういう方法もあると思うんだよね」…売り上げに悩む部下を「犯罪」に仕向けさせた上司の“巧妙手口” 〉へ続く


(日本経済新聞「揺れた天秤」取材班/Webオリジナル(外部転載))

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