まさかの敗着は30手目に 伊藤叡王が山崎九段の錯覚に乗じ八強発進 第73期王座戦挑戦者決定トーナメント
2025年4月25日(金)11時30分 マイナビニュース
第73期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は藤井聡太王座への挑戦権を争う挑戦者決定トーナメントが開幕。4月24日(木)には計3局が行われました。このうち東京・将棋会館で行われた伊藤匠叡王—山崎隆之九段の一戦は伊藤叡王が89手で勝利。相手のミスに乗じてリードを拡大する快勝でベスト8入りを決めています。
○早かった勝負所
今期のトーナメントは二次予選を勝ち抜いた11名とシード5名の計16名が挑戦権を争うもの。羽生善治九段や永瀬拓矢九段のようなビッグネームのほか、伊藤叡王や斎藤明日斗六段といった若手実力者の名前も目を引きます。伊藤叡王と山崎九段の2度目の対決となった本局は後手の山崎九段がさっそくワールド全開。袖飛車の作戦で定跡形からの逸脱を図りました。
調子よく指し進めていた山崎九段ですが中盤の入り口で後悔の一手が出てしまいます。先手陣に角を打ち込み駒得を目指したのは部分的には普通の攻め筋とはいえ、7筋の歩が切れている本局の形では無理筋。先手から即座に自陣角+桂跳ねの合わせ技で切り返されては攻めが頓挫しており「一本どころか三本くらいとられている」(局後の感想)と嘆くよりありません。
○錯覚に乗じて快勝
局後の検討によれば後手の変調はこの10手ほど前に始まった予定変更。先手からの両取りを恐れて角交換で妥協した格好ですが、その筋は冷静に対処すれば受かる形。指されるはずのない無理攻めに惑わされたのが山崎九段痛恨の失着でした。以降は先手の伊藤叡王が支配するところに。跳ね出した桂が無条件で後手玉そばに成り込めては悪い道理がありません。
終局時刻は19時12分、最後は自玉の詰みを認めた山崎九段が投了。ともに持ち時間を1時間ほど残す早い決着で、敵陣に飛車を打ち込んでからは一手の緩みもなく寄せ切った伊藤叡王の冷静な攻めが光る一局となりました。ベスト8に進出した伊藤叡王は2回戦で永瀬拓矢九段—佐々木勇気八段戦の勝者と対戦。なおこの日は菅井竜也八段と広瀬章人九段も2回戦進出を決めています。
水留啓(将棋情報局)