いまさら聞けない卓球の魅力 「回転」の奥深さを元日本代表が解説! 何気ないレシーブミスは実はただの“凡ミス”ではない!?
2025年5月6日(火)12時10分 ココカラネクスト

加藤さんが回転の妙味を分かりやすく解説してくれた(C)CoCoKARAnext
近年「観るスポーツ」としても注目度が高まっている卓球。世界一を決める世界選手権は毎年テレビでも中継され、2018年には国内初のプロリーグ、Tリーグもスタート。多くのスター選手も輩出され、卓球ファンは年々増加している。
そんな卓球の魅力とは何なのか。どこに注目するとより面白く観戦できるのか。世界選手権ベスト8など輝かしい成績を残した元日本代表の加藤美優さんに聞いた。
【動画】張本美和が世界女王を相手に大善戦!孫穎莎とのラリーを制してゲームを奪ったシーンを見る
——ずばり卓球の魅力、面白さと言えばなんでしょうか?
スピーディーなラリーだったり、老若男女楽しめる競技性だったり、魅力はたくさんありますが、卓球ならではの面白さをあげるとしたら、やっぱりボールの「回転」ですね。球技はたくさんありますが卓球ほど回転が重要な競技はないと思っています。
——確かにプレーを見ているとサービスではいろんな回転をかけていますし、ラリーでも強い回転で大きくカーブしながらボールが飛ぶシーンをよく見ますね。
そうなんです。常に何かしらの回転をかけて打ち返す競技が卓球です。そして実はあまり知られてないのですが、卓球は打球する時に相手の回転の影響を大きく受けるので、正しいスイングで打たないと返したい方向とは全然違うところにボールが飛んでいってしまうんです。例えば卓球には「上回転」「下回転」という、いわゆる前進回転と後進回転(バックスピン)のボールがあるのですが、相手の打球が下回転なのに、回転がわからず上回転だと思って打ち返すとボールはネットにも届かず、真下に落ちてしまうんです。
——確かに初級者の人が経験者の回転サービスを返せないシーンってよく見ますよね。
それです。回転がわからないと全然返せないんですよ。トップ選手の試合でも、そこまですごそうに見えないサービスに対して相手が大きく浮かすことがあって、知らない人が見たら「なんで?」って思うかもしれないんですけど、あれは回転を見誤っているんです。決して凡ミスではないってことは知っておいてほしいです(笑)。
——それだけ聞くと難しい競技にも感じてしまいますね。
でも慣れたら大丈夫ですし、逆にそういう回転の違いを使って相手のミスを誘ったりするのが卓球の面白いところですね。そして特に回転が大事になるのがラリーの1球目でもあるサービス。ここでいろんな回転をかけて、相手を崩すことができるかどうかが勝負のポイントになるので、卓球では「サービスが一番大事な技術」とも言われます。
——サービスでは相手との駆け引きも大切ですよね。
そのとおりです。サービスはお互いに2本交代で出すのですが、その2本をどう出すかはすごく考えます。1本目で効いたサービスをもう1回出すのか、相手が待っている可能性があるから違うサービスにするのか。相手の表情も見ながら、できる限り読みを外すようにしています。
あとは試合全体を通してのサービスの組み立てもあります。試合の序盤で効いたサービスをあえて中盤では出さないで最後の最後で使うというのはよくある戦術です。私の場合は、しゃがみ込みサービスが武器なのですが、出足は使わず1ゲーム目の後半とか確実に点が欲しい時に使っていました。強い回転でバウンド後に“伸びる”サービスはかなり効きましたね。
——そうなるとサービスを受ける側の駆け引きもあるわけですね。
卓球ではサービスに対する返球を「レシーブ」と言うのですが、レシーブの駆け引きも重要ですね。ミスなく返すことは当然ですが、かと言ってただ返すだけだと相手に次で攻められてしまいます。あまいサービスに対しては積極的に攻めたいですし、時には「次はこのコースに来るはず」とヤマを張って攻撃的なレシーブを仕掛けることもあります。

現役時代は「ミユータ」というレシーブ技術で相手を苦しめた(C)Getty Images
——加藤さんはご自身の名前がついた「ミユータ」というレシーブ技術があったそうですね。
「逆チキータ」という技なのですが、私が使い始めの頃は使う選手もあまりいなくて、「ミユータ」と呼んでもらった時代がありました(笑)。自分と同じかそれ以上の選手に対しては単調なレシーブでは勝てないので1個1個の工夫が必要になるんです。もちろん相手のサービスも質が高いので工夫するのも難しいのですが、回転をかけたり、他の選手があまりやらないようなことをして少しでもチャンスを作るようにしていました。ミユータもそのひとつです。
——近年は「チキータ」という技術が主流と聞きますが、どんな技術で、なぜ使われるようになったのですか?
主にレシーブで使うバックハンド技術で、少し横回転をかけるので相手としては返球しにくいんです。またボールの横をとらえるので回転の影響を受けにくくて、どんな回転のサービスに対しても使えて、かつ攻撃的に打ち返せるのもメリットです。使い勝手が良くて、威力もあって、相手も取りにくいということで、多くの選手が使うようになりました。私もすごく得意でした。ちなみにさっきのミユータ(逆チキータ)はチキータとは逆方向の横回転をかける技術なんです。
——あと卓球はいろんなプレースタイルがあるのも魅力ですよね。「カットマン」と言う守備専門のスタイルもあります。
これも広い意味で回転の魅力のひとつだと思うのですが、卓球は用具もいろいろな種類があって、それぞれで回転のかかり具合が違って、なんの用具を使うか、どんなプレーをするかでいくつかの戦型に分かれるんです。カットマンは台から離れて相手の攻撃を「カット」という下回転をかける技術で返球する守備的なスタイルですね。先ほどもお話したように下回転は打ち返す時に下に落ちやすいので、強い下回転をかけて相手のミスを誘うのがカットマンの戦い方です。
——そういう各選手のプレーの違いにも注目するとさらに面白く観戦できそうですね。
ちなみに私は「ドライブ」という上回転をかける攻撃技術をメインに戦うドライブ型です。一番オーソドックスなスタイルですが、ドライブ型と言っても早田ひな選手のようにパワーで押すタイプもいますし、私の場合はパワーがなかったので回転の変化や緩急をつけて相手のミスを誘うラリータイプでしたし、いろんなスタイルがあるんです。
「回転」「プレースタイル」の違いが見えてくると卓球の面白さ、奥深さがもっとわかってくるはずなので、ぜひそんなところに注目して見てもらいたいです。
[取材・文:渡辺友]