フォーム改造の先にあった“落とし穴” 1軍登板なき阪神・湯浅京己の今「遠心力で投げるようになっておかしくなった」

2024年6月23日(日)7時0分 ココカラネクスト

2軍で試行錯誤を繰り返しながら手ごたえを掴み始めた湯浅。苦闘続きだった若武者は虎視眈々1軍のマウンドを見据える。(C)産経新聞社

強烈な追い風となるはずだった指揮官の言葉

 指揮官から“新戦力”に指名された若き剛腕は今、焦燥と、回復した自信を胸に2軍で汗を流している。

「やっとですね……。6月に入ってまっすぐの感覚が良くなってきてるんで」

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 6月中旬、現状を語る湯浅京己(阪神)の表情は明るかった。いや「ようやくそうなった」と付け加えた方が正しいのかもしれない。6年目の今季はいまだ1軍登板はなし。もどかしい日々を過ごしているのは間違いなかったからだ。

 背番号65にかかる期待を岡田彰布監督が独特の表現で口にしたのは、昨年11月。オリックスとの日本シリーズを制し、球団史上初の連覇を目指す24年シーズンへ目を向けるなか、「来年の“新戦力”は湯浅やで。(今年は)ほとんど戦力になってないわけやんか。湯浅で3つ、4つ負けてるで」とキーマンに指名した。

 22年に彗星のごとく台頭し、59登板で防御率1.09、45ホールドをマーク。初の個人タイトルも獲得した右腕だったが、守護神として迎えた昨季は6月に右前腕、7月には脇腹と度重なる故障もあって、15登板と不完全燃焼。チームの18年ぶりとなるリーグ優勝に貢献することはほとんどできなかった。

 そんな不本意な1年で、一瞬の輝きを放ったのが日本シリーズ第4戦だった。

 6月15日を最後に1軍登板がなかった湯浅はシリーズ途中に1軍合流を果たす。そして第4戦の同点で迎えた8回2死一、三塁で登板すると中川圭太をわずか1球で二飛に仕留め、チームのサヨナラ勝ちを呼び込んだ。

 この「湯浅の1球」は、サプライズ起用と合わせて日本一達成へのハイライトになった。その後の秋季キャンプでもブルペン投球を見た岡田監督は「(湯浅が別格なのは)他の投手と並んで投げてたら、誰が見てもそうやんか。力的にもドラフト1位より凄い戦力やで」とあらためて、完全復活が大きな“補強”になると明言。湯浅本人にとっても指揮官の言葉は復活をかける今季への強烈な追い風となるはずだった。

 シーズンオフには2度に渡って米国での自主トレを敢行し最新鋭のトレーニング施設で投球フォームの改造に着手。2度目の渡米では故障で離脱した昨年の反省を胸にアトランタ、ロサンゼルスの動作解析の施設を拠点に「ケガをしづらいフォーム」を追求した。

 ただ、今年1月に着手した新フォームは2月の沖縄キャンプの段階ではまだ試行錯誤する段階。若手投手にとってアピールの場となる実戦で思うような結果を出せず、終盤に2軍キャンプへ降格した。

「キャンプ中はまだいろいろ試している段階で打者に投げてみないと分からなかった。まだキャンプ中だし、と。2軍キャンプに行ってもいろいろフォームも変えながらやって」

 開幕を2軍で迎えた湯浅。フォームさえ固まれば勝負できる——。予期せぬ落とし穴にはまったのは、そう意気込んでいた矢先だった。

2度目の“キャンプイン”のような感覚で下した決断

 3月上旬に体調不良で離脱した湯浅は、数日で戦列に復帰を果たしたものの、打ち込まれる試合が続き、固まりつつあった新フォームの感覚も失った。

「試合で140キロ後半のスピードが出ていてもリリースの感覚がなくて抜けていくような……。力に頼って遠心力で投げるようなフォームになっておかしくなった」

 このままでは厳しい。現状打開のために大きな決断を下した。オフシーズンに取り組むような基礎的なトレーニングメニューから着手。「基本に戻ってやって、ちょっとずつ(メニューも)難しくしていって。本当に自主トレみたいな感じでやり直した」。今年2度目の“キャンプイン”のような感覚で地道に土台作りから始めたのである。

 自身の感覚とボールの威力にズレを感じなくなったのは5月下旬。球速も150キロ台まで戻り、打者の反応も明らかに変わってきた。「5月末から6月に入ってから感覚がよくなってきてるんで。まっすぐで押せるようになってるから、変化球もいきてくる。やっと試合でちゃんと投げられてる」。この「ちゃんと投げられてる」というフレーズに数か月間の苦闘がにじむ。

 やっと2024年のスタートラインに立った。ここからは結果を積み上げるのみである。レギュラーシーズンでは昨年6月以来となる1軍マウンドへの視線は力強さを増してきた。

「やっぱり1軍で投げないと意味がないと思うので。昨年からチームに貢献できていないと感じてる部分ももちろんあるし、やり返したい気持ちもある。今年も悔しい気持ちでいっぱいですけど、感覚が悪いまま根拠もなく抑えていて、もし1軍に呼ばれても絶対に無理だと思っていた。今は2軍でしっかり抑えていかないといけないし、ここからが勝負だと思っています」

 1軍では「Wストッパー」として開幕を迎えたハビー・ゲラが今月5日に2軍降格(同20日に1軍合流)。さらに近年のブルペンを心身で支えてきた岩崎優も本調子とは言えない状態だ。そうしたなかで、湯浅は昇格争いを勝ち抜いて投手陣の救世主となれるか。この平坦でなかった道が甲子園のマウンドにつながると信じて、腕を振っていく。

[取材・文:遠藤礼]

ココカラネクスト

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