子安の硬派な角打ち『美加登屋』と『石川屋酒店』をハシゴしてわかった“昭和角打ち”の魅力 【絶滅寸前!?昭和メシ5】
2025年3月5日(水)12時0分 食楽web
鮭鮫鱈鯉 = 酒が醒めたらまた来いよ
急行が止まらない駅にはなぜか面白い人達がいる。
最近、東京ではおしゃれな角打ち(酒屋の一角で買ったお酒をその場で飲むこと)が増えてきました。一方で、昭和初期のスタイルを貫く昔ながらの角打ちは、時代の流れとともに数を減らしています。
そんな「硬派」な角打ちには、他では決して出会えない、ユニークな人生経験を持つお客様によく出会います。少し勇気を出して隣に立って話してみれば、極上のお酒のつまみになる面白い話が次から次へと飛び出してくるのです。これこそが、角打ちの醍醐味かもしれません。
まず横浜は京急子安駅。駅から徒歩3分のところにある酒屋『美加登屋』の角打ちへ
まず向かったのは、横浜は京急子安駅。駅から徒歩3分のところにある酒屋『美加登屋』の角打ち。時速100kmオーバーの特急が一瞬で通り過ぎていく街。美加登屋さんの店内にある冷蔵庫から好きな飲物とおつまみを選びます。
角打ちらしく、ワンカップと白角水割りで
隣にいたお客様にこのお店について聞いてみます。もう何十年もここに通っているといいますが呑んでいるのは缶コーヒー。
「あれ?お酒じゃないんですか?」ときくと、「いやいや、体大切にしないとダメでしょ」と。
角打ちで缶コーヒーという新しい常識を教えてもらいます。
酒屋の店内にあるカウンターにて店主とお客様
「ここはね、昔は漁師町だったけど、東京湾アクアラインの整備で漁ができなくなってね、国から5千万円ほどもらって廃業にした人が多かったのよ。でも、大金の使い方なんて知らない人に金を渡しちゃったらさ、昼間から酒をあおっちゃってさ、あっという間に無一文。たくさんあったスナックもなくなって、人もいなくなり、街はすっかり寂しくなっちゃった。野良猫ですらどこかに行っちゃったのよ。ガハハハ!」
ここは大都会「横浜駅」から3.1kmの場所。
お酒を題材にしたアートカウンターには常連の画家さんが作ってくれたという、オリジナルで作品が並んでいます(すべて非売品)。これが見ればみるほどよくできています。
ビシュラン?美しく酔いたいとは誰しもが思いますが、、、
コップに描かれた東海道の絵もオリジナル
ついホッピーが飲みたくなる!? 立ち飲み愛に溢れたデザインのステッカー
誰にも信用されない、、泥酔カード!?
お母さんの二階堂の前かけが素敵すぎる
3代目の店主のお母様にお話が聞けました。(もうすぐ100歳だよと言っておられましたがまだ80代らしいです。こーゆうテキトーなところも味わいです)
関東大震災の後に店を構え、息子で3代目。ここの商店街は戦後の復興時に初めて昭和天皇が訪れた街だったと話します。
長いお店と人生の歴史の中で多くの酔っ払いをみてきたというお母さん。
「浜の酔っぱらいは朝から飲むから、お店は朝9:00からやっていてね。シャコと穴子を大量に漁師が持ってきて、これで酒を飲ませろと言うのよ。魚だけはいつもうち大量にあったわ」と笑います。
漁師同士の喧嘩もすごく、気性が荒いので大変だったとのこと。お母さんのお写真の掲載をお願いしたところ、今日はきれいじゃないからダメよと了解はもらえませんでした。
デジタルトランスフォーメーション?
算盤を弾く音が心地よい
3代目の現店主さんに、今後はどのようなお店をしていきたいのかお尋ねしました。
「なにも変わらなくてよいんです。それがうちに求められていること」
お会計も算盤で。世の中せわしくDX化と言われていますが、変わらないということの大切さに気づきます
袖すり合うも多生の縁『いしかわや酒店』
[食楽web]
美加登屋さんから、同じ商店街を歩いて4分ほど。もう1軒、昭和な角打ちがあります。それが『石川屋酒店』です。お店の隣にドア1枚分だけの入口があります。
お店の幅が1mもないので、店の奥からの出入りは一度全員が外に出ないといけません。それがまたお客様同士の距離を縮めていきます。6名が限界の横並びな角打ち。なんと365日営業しているため元日の朝から飲めるとのことです。いまだ、24時間戦えますかを地で行くモーレツ昭和店主!
すごい昭和な価格設定
平均単価200円!? フランク永井? ソーセージ的なヤツですね
驚くのはこのメニューの価格表。世の中どこもかしこも値上げ、値上げの中でこの単価設定。。
ビールの大瓶が450円!?
酒屋さんの直ならではの価格。メニューにはない珍しいお酒も多く揃えてあります。
なす味噌250円。店主夫婦の手作り料理はどれも美味でお酒が進みます
たくあんキムチ 150円
隣にいたお客様にお話を伺います
郷ひろみよりは俺は若いというお客様。意味不明です
隣にいたお父さんがお店中のお客様を巻き込んで、明石家さんまのようにトークで場を回しています。
「おすすめのお酒はなんですか?」と聞いてみると。。
「2杯も飲んだら、甘口も辛口もわからるわけないだろ(笑)ナポリタンかミートソースぐらい違いがなければ、味なんてわからないんだよ」とのことです。
「こーゆう店ではな、袖すり合うも多生の縁でな、たまたま縁あっての隣どうし、仲良くしたらいいんだよ。それで楽しく話ができりゃ人生は幸せじゃねーのかな」とも。
ほとんどどーでもいー話の中で、ちょっと溢れる本音のようなお父さんの言葉が滲みてきちゃいます。
皆様、ぜひご自身でこの急行の停まらない街にいる素敵な人達とのおしゃべりを楽しみにきてください。
*最後にお父さんからの注意事項
「大人数で来るんじゃないぞ!多くても2、3人だな。大人数で来たら常連客が困っちゃうから」
現場からは以上です。
お店の張り紙も沁みます
●SHOP INFO
美加登屋酒店
住:神奈川県横浜市神奈川区七島町117
tel:045-421-4738
営:10:00〜20:00
休:不定休
石川屋酒店
住:神奈川県横浜市神奈川区大口通30
tel:045-421-0135
営:09:00〜19:30
休:無休
●著者プロフィール
鈴木英司
1977年横浜生まれ。
普段はデジタルを追い、土日は未だドアを開けたことのないお店を訪れ昭和へのタイムリープの扉を探す。好きな場所は路地裏。
(編集◎ヨネダ商店)