鎌田實×荻原博子 70歳以上は<ちょい太>が正解?鎌田「高齢者のコレステロール値は標準値より高くても寿命に影響がないけれど、低いと死亡率が高まる」
2025年3月6日(木)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表する「令和3年度 医療保険に関する基礎資料」によると、1人が生涯にかかる総医療費は約2800万円(自己負担は最大3割)だったそうです。お金の不安がなく、健康なシニアライフを送るにはどうすればよいのでしょうか?今回は<健康のプロ>医師・鎌田實さんと<お金のプロ>経済ジャーナリスト・荻原博子さんによる共著『お金が貯まる健康習慣』から一部を、お二人の対談形式でお届けします。
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70代以上になったら「ちょっと太め」が安心なわけ
荻原 私は68歳で少しやせたんですけど、それ以上はなかなかやせられないんです。
鎌田 荻原さんは、いまおいくつ?
荻原 ちょうど70歳です。
鎌田 じゃあ、いまくらいでちょうどいいですよ。70歳を過ぎたら、ちょっと太っているくらいの人のほうが、やせている人よりも長生きだってご存じですか?
荻原 そうなんですか! 知りませんでした。
鎌田 「肥満パラドックス」っていわれているんです。中年期には、体重が増えると病気も増えるので「やせなさい」といわれますが、高齢になると、やせている人のほうが死亡率は高くなるんです。「肥満は厳禁」とされている糖尿病でさえ、軽い肥満の人とやせている人を比較すると、軽い肥満の人のほうが長生きだというデータもあるんです。
荻原 不思議ですね。どうしてですか?
鎌田 70歳以上になると、問題はメタボよりも「フレイル(虚弱)」です。フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間に位置する段階で、運動機能の低下や精神面の衰えが目立つ状態です。とくに筋肉が減ってフレイルになるケースが多いので、下手なダイエットなどしたら命取りです。70歳を過ぎたら「ちょい太」がいいって、ぼくはずっと言っているんです。
荻原 「ちょい太」ってどれくらいまで?
鎌田 BMIの標準値は「25」までですが、「27」くらいまでがちょうどいい範囲だと、ぼくは思っているんです。
荻原 そうですか。目からウロコです。
コレステロールの“パラドックス”
鎌田 もうひとつ「パラドックス(逆説)」があって、それがコレステロールなんです。高齢になるとコレステロール値が少し高めのほうが長生きになるんですよ。80代になったらとくに、コレステロールを減らさないことも大事です。標準値より高くても寿命に影響はないけれど、低いと死亡率が高まるんです。
荻原 70代はどうですか?
『お金が貯まる健康習慣』(著:鎌田實、荻原博子/主婦の友社)
鎌田 ぼくは65歳以上の患者さんには、コレステロールを減らす薬は出していません。薬をやめても多くの患者さんは、悪玉コレステロール値も善玉もさほど大きな変化はないことを確認しています。厚生労働省も2015年には食事の摂取基準からコレステロールの上限を撤廃しているんです。
荻原 「卵は1日1個まで」という制限も、なくなりましたもんね。
鎌田 卵を勝手に悪者にしていたんだよね。でも、卵は優秀なたんぱく源。たんぱく質が少ないと、筋肉が減って歩けなくなるし、エネルギーもわいてこない。血管だってもろくなります。
荻原 70代以降は「ちょい太」が正解って、なんだかうれしい言葉ですね。
鎌田 荻原さんはちょうどいいですよ。自信をもって!
荻原 あははは、ありがとうございます。
むやみにやせる必要はない
荻原 でも、これ以上は太りたくないです。腰やひざにも負担がかかりそうだから。
鎌田 そうですね。体重を維持していくには、筋肉をつけることと、食事の内容を見直すことがとても大切だと思います。食事制限ダイエットでやせることは、あまりおすすめしません。
荻原 どうしてですか?
鎌田 食べないでやせようとすると、即効で体重は減ります。でも多くの場合は筋肉まで落ちてしまうので、基礎代謝も落ちる。そのせいでますます脂肪が燃えにくくなって、肥満が進んでしまうこともあるんです。
荻原 リバウンドしちゃうのは、筋肉が落ちてしまうせいもあるんですね。
鎌田 高齢者の場合、もっと怖いです。食事制限をすることで筋肉量が低下したり、骨粗しょう症を発症したりする可能性があります。加齢による筋肉量の低下を「サルコペニア」といいます。サルコペニアになると、どうしても活動量が減りますし、行動範囲も狭くなる。動かなくなることで筋肉がますますやせて、フレイル(虚弱)の状態になるんです。
荻原 それは怖いですね。
大切なのは運動&筋肉
鎌田 だから、「食べない」でやせるんじゃなくて、必要な栄養をしっかりとったうえで、運動をして筋肉を増やすことが大事。その過程で、脂肪はゆっくりと自然に減っていくと思います。70代以降になったら、多少太っていても内側にしっかりとした筋肉があれば、それでいいんです。やせている人でも「隠れメタボ」といって、内臓脂肪がため込まれている人もいるから要注意です。
荻原 やせることだけが大事なのではなくて、何を食べるか、そしていかに運動するかが大事ってことですね。
鎌田 そのとおりです!
※本稿は、『お金が貯まる健康習慣』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
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