AIで防ぐ、カスハラ最新対策 第4回 カスハラをAIが分析、データを活用した対策方法とは

2025年4月28日(月)17時0分 マイナビニュース


カスタマー・ハラスメント(カスハラ)が、企業経営に深刻な影響を与える社会問題となっています。大手企業を中心にカスハラのガイドラインを公表する動きが広がり、厚生労働省もカスハラ行為の定義や防止対策を企業に義務付ける方針を公表するなど、官民一体での取り組みが進んでいます。
本連載では、カスハラの基礎知識から、最前線のAI技術を活用した対策までを詳しく解説します。前回の記事では、カスハラの未然防止やエスカレートを防ぐために従業員に求められる対応スキルについて紹介しました。
今回は、AIを活用したカスハラ分析の手法や具体的な施策への活かし方について解説します。
○AIによるカスハラ分析とは?
音声解析などのAIを活用したカスハラ分析は、膨大なデータを迅速に解析し、顧客対応のトレンドや潜在的な問題点を可視化できます。この分析結果に基づき、企業はカスハラの定義の策定や、カスハラ対応における改善策を検討し、実行することが可能となります。ここでは、主な分析手法を3つ紹介します。
○1. キーワード分析
通話の書き起こしテキストから、特定のキーワードの出現頻度を確認する方法です。顧客とオペレーター双方にキーワードを設定し、その組み合わせを分析することで、カスハラ判定の精度が高まります。
キーワード設定の例
顧客:「お前」「ふざけるな」など、相手を威圧する可能性のある言葉
オペレーター:「すみません」「申し訳ございません」など、謝罪の意を示す言葉
キーワード分析により、例えばオペレーターがどのタイミングで謝罪のキーワードを発するとカスハラに発展しやすいのかや、問い合わせ種別における謝罪回数の違いなど、複数の観点から分析することでカスハラの傾向を把握できます。
○2. 感情分析
通話中の音量や声のトーンの変化を分析し、顧客の感情変化を検出する方法です。
例えば、当社の音声感情認識機能では、発話音声の音声特徴と、音声認識器により得られる単語と単語信頼度を入力して、DNN(Deep Neural Network)を用いて発話音声の感情を推定します。
感情分析は、単に発された会話の内容だけでなく、声の抑揚や速度、間といった非言語的な要素も捉えられます。これにより、文字起こしされたテキストでは丁寧な表現で話しているように見えても、実際には強い怒りや不満を抱いているといった顧客の感情を読み取ることが可能になります。
○3. AIテキスト分析
AIに特定の発話がカスハラに相当するかを判定させる方法です。
キーワード分析で抽出した通話の書き起こしテキストに対し、「次の文章は顧客の威圧的な行動を表現しますか? 表現する部分を教えてください」といった指示を出すことで、AIが理由や該当箇所を示します。AIテキスト分析を活用することにより、より人間がカスハラを判断しやすくなります。
○AIを活用したカスハラ分析のポイントとは?
AIを活用したカスハラ分析では、以下のポイントを押さえることが重要です。
○1. データの蓄積
通話データの蓄積が十分でない場合、カスハラの判断が担当者の経験や主観に左右されやすく、属人的な判断に依存しがちです。まずはAIの分析に活用できる音声データを収集できる基盤を整えることがポイントです。
○2. 単体のキーワード検知だけでは不十分
単体のキーワードだけを検知する方法では、カスハラを正確に特定することは困難です。
例えば、「すみません」という言葉だけを抽出しても、会話を円滑に進めるためのクッション言葉として使われている場合があり、そのような場合はカスハラには該当しません。
また、「謝罪の回数」のみで判断することも、問い合わせの内容によって状況が異なるため、正確な検知は難しいです。より高い精度を実現するには、以下のような要素を組み合わせて分析する必要があります。
例:複数のキーワードの組み合わせ(「悪口」+「謝罪」など)、問い合わせの種別(クレーム、相談、注文など)、発話者の特性(顧客かオペレーターか)、感情分析
○3. AIの精度に完璧を求めない
上記で記載したように、単体のキーワードでの検知では、カスハラに該当しない通話も抽出されてしまうため、複数の条件を組み合わせる必要があります。
しかし、現時点で把握しているカスハラに該当するものだけを検知するようにしてしまうと、新たなパターンのカスハラが発生した際、検知ができなくなってしまいます。そのため「カスハラの可能性がある」として抽出された通話の中から2割程度はカスハラに該当しない通話も含まれるといった許容範囲を設けた方が良いと考えます。
○分析データをどのように施策へ活かすべきか?
カスハラ分析の結果は、カスハラの定義の策定に活用できます。カスハラ対策の第一歩として、どのようなものがカスハラであるか企業としての方針を定めることが重要です。策定された定義をもとに対応マニュアル、FAQ、研修内容の作成・見直しなどを行う際にも分析データの活用が可能です。管理者と現場のオペレーターで発生している、「カスハラとは何か」という認識のずれをなくせるように、実際の対応データも活用していきましょう。
さらにAIを活用することで、通話中にリアルタイムでカスハラを検知してアラートを出したり、通話内容に紐づいたマニュアルの表示などでオペレーターを支援し、安心して働ける環境を作れます。
次回は、コールセンターにおけるAIの活用についてより具体的に紹介します。
中村 有輝士 なかむら ゆきのり BPOコールセンターに10年間勤務。オペレーター、スーパーバイザー、マネージャー、営業など一通りの業務を経験。その後、外資の証券会社で、日本にある営業部門とシンガポールにあるカスタマー部門をマネジメント。2020年7月よりRevCommに参画し、カスタマーサクセスのマネージャーを経て、コールセンター向けプロダクト「MiiTel Call Centerプロダクトマーケティングマネージャーを担当。福岡県在住。 この著者の記事一覧はこちら

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