「キレる高齢者」は脳機能が低下している 50代以上に多いカスハラ加害者、 社会から孤立しストレス暴発
2025年5月11日(日)16時0分 J-CASTニュース
従業員が客からの暴言や暴力、理不尽な要求を受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)の対策が、加速している。政府が2025年3月、カスハラ対策を雇用主に義務付ける法案を今国会に提出したのを皮切りに、東京、北海道、群馬の3都道県が4月にカスハラ防止条例を施行するなど、まさに2025年はカスハラ防止元年といえる。そのカスハラ行為、実は加害者の多くを占めるのがシニアを含む中高年世代というのが実態だ。分別があるべきはずの中高年が、カスハラ行為に走るのはなぜか。
「加害男性の年齢」60代以上が47.2%と最多
大阪・関西万博の会場で4月、警備員が来場者に土下座する動画が拡散し、「カスハラではないか」との騒動が起きた。これを受け、日本国際博覧会協会はカスハラに当たる言動があれば、入場拒否や退場などの対応を取るといった基本方針を公表した。
カスタマー(顧客)とハラスメント(嫌がらせ)を組み合わせた造語、それを略した「カスハラ」は今や、大きな社会問題の一つとなっている。私鉄やJRなど全国の鉄道37社が集計した2023年度の駅係員や乗務員に対する暴力行為件数は517件。発生の時間帯は夜や深夜が多く、加害者の過半数(53.9%)が酒気を帯びていた。もう一つの特徴が加害者の年齢構成だ。60代以上が22.8%と最多で、これに続く50代19.9%を含めると、50代以上が42.7%と全体の4割を超えた。
パーソル総合研究所が2024年に実施したカスハラに関する定量調査(インターネット)は、その傾向がさらに顕著となる。被害者に加害男性の年齢を複数回答で尋ねたところ、60代以上が47.2%と最多を占め、50代39.3%、40代31.7%、30代16.8%、20代未満10.1%と続く。加害者は高年齢層ほど増えていくという際立った傾向は女性でも変わらない。
大脳の一部「前頭前野」加齢による衰えで「感情の老化」
「年をとると怒りっぽくなる」というのは、よく耳にする話である。「世界一の超高齢化社会ニッポンにおいては『キレる高齢者』」は避けられない社会問題」と指摘したのは、東北大加齢医学研究所の川島隆太教授だ。川島教授によると、大脳の一部「前頭前野」は思考や判断力、創造力などの働きのほか、「感情の抑制」も担う。前頭前野の働きは20歳をピークに、加齢による衰えで「感情の老化」が起き、怒りっぽくなったりする。アクサ生命保険が提供する「脳トレ」の開発を監修した川島教授は、同社サイトのコラムで、「今まで穏やかだった人が、急にカッとなって家族や職場の人をどなりつけるようになったら、前頭前野が衰えてきた可能性がある」との見解を示すのだ。
年寄りの話は聞いてあげてください
また、「キレる老人」の実態を考察した著作『暴走老人!』(2007年)がある作家の藤原智美さんが、「キレる」理由の第一に挙げたのが「言語力の老化」だ。新聞社の取材に対し、藤原さんは「人は体だけでなく思考や会話する力も老化する。定年などで引退した男性は夫婦2人暮らしか、単身生活者が多い。会話が格段に減り、言語力が衰えるため、地域などで新たに人間関係を築けない」と指摘し、「孤立し自暴自棄になった中高年の男性が、積年のストレスを電車などで暴発させてしまうのでは」と見方を示した。
老人ホーム検索サイト「みんなの介護」も特集「怒りやすい高齢者 原因と対応方法」で、高齢者が怒りやすい背景に「孤独感や不安」を挙げた。対応策として(1)人間関係を広げる(会社以外で友人をつくる機会を増やす)(2)家族が主体的に関わる(話をすることで気持ちが落ち着く)(3)丁寧に傾聴する(「意見を尊重する」姿勢を心がける。同じ話を繰り返す、言葉を間違えても、否定したり怒ったりせずに、傾聴する)——が重要と説く。
孤立しがちなシニア世代を家庭や地域など、社会全体が、いかに受け入れていくかが、カスハラを減らす大きなカギとなる。
(フリーライター 倉井建太)