日本一安い「田んぼの中のポツンとタワマン」の資産価値とは?

2025年5月27日(火)7時0分 文春オンライン

 2024年末で、日本全国には1561棟、41万102戸のタワマンが存在する(東京カンテイ調べ)。タワマンは資産価値が高く、大人気の住まいとなっているが、すべてのタワマンに資産価値があって値上がりが続いているわけではない。


 山形県上山市は山形市の南にあって、蔵王連峰を東に見る温泉地として有名な街であるが、ここの田園地帯にタワマンがあることをご存じだろうか。国道13号線上山バイパスを山形市方面に北上すると、左手前方に巨大な建造物が忽然と姿を現す。


最寄り駅から徒歩25分のタワマン


 タワマンの名は「スカイタワー41(よんじゅういち)」。建物が竣工したのは26年前の1999年6月だから昨今のタワマンブームとは一線を画す。事業化した会社は中堅デベロッパー山万の子会社である山万アーバンフロント社だ。総戸数389戸。住戸面積70㎡から105㎡、間取りは2LDKから4LDK。最寄り駅はJR奥羽本線「かみのやま温泉」駅から徒歩25分。当初の販売価格は2000万円台から4000万円台だった。販売は当初から苦戦。販売価格どおりには売れず、半値程度にまで値下げして販売開始6年後の2005年になんとか完売にこぎつけたとされる。


 山万アーバンフロント社がなぜこの地でタワマンを計画したのかについては謎が多い。第一勧業銀行系の会社で、役員の多くが銀行からの出向者で占められていたが、役員と上山市とに特別なつながりがあったかは定かではない。同社はこのタワマン販売の失敗が尾を引いたのか、業績悪化で2014年1月には破産している。


 実際に現地に出かけてみた。都市部では通勤するために最寄り駅からの徒歩時間が重要だが、駅からは25分は十分にかかる。しかも山形駅にアクセスできる電車は平日朝7時台の2本以外は1時間1本。とても通勤の用はなさない。いっぽう車を使えばバイパス利用で山形市内まで20分程度でアクセスできる。マンション内駐車場は充実していて、すべてが平面駐車場で各住戸に1台以上のスペースが確保されている。実際、住民の多くは山形市内に通勤をする人と高齢者で占められているという。


「雪かき不要」で、住民の満足度が高い一方…


 中古価格を調べてみた。意外なことに売却希望住戸は少ない。70㎡住戸の中古成約価格は850万円から1000万円程度。坪単価で40万円から47万円だ。安い! おそらく日本で一番安いタワマンと言ってよいだろう。


 だが販売当初から人気がなく築26年も経過しているのだから、さぞや廃墟化しているかと思いきや、予想に反して意外と住戸は埋まっている様子だった。実際このタワマンの紹介サイトによれば、住民の満足度は高そうだ。タワマンに住むある高齢者はインタビューに対し、タワマンを評価する理由に「雪かきをせずに済む」こと「断熱性が高く、光熱費が安い」ことを真っ先に挙げ、タワマンならではの「眺望の良さ」も加えて、満足度の高さを語っていた。


 だがタワマンが建つ上山市の現状は厳しい。1954年に市制が施行され70年がたつが、1955年に4万1848人だった人口は、現在(2025年4月)で2万7270人と35%も減少している。


 市は手をこまねいていたわけではない。市は上山市振興計画を掲げ、2024年には第8次計画を発表している。その奮闘ぶりは第3次計画以降で掲げるスローガンを見ると明らかだ。



1966年 第2次計画発表



1974年 第3次計画 基本目標 「調和ある豊かな住みよいまち」



1986年 第4次エコー計画 将来像 「幸せのうたがこだまする都市かみのやま」



1996年 第5次エコー計画21 将来像 「人・自然、共に生きる快適創造交流都市かみのやま」



2006年 第6次計画 将来像 「健やかな交流都市かみのやま」



2016年 第7次計画 将来都市像 「また来たくなるまちずっと居たいまち〜クアオルトかみのやま〜」



2024年 第8次計画 将来都市像 「つながりつなげるいろどりのまちかみのやま」



 調和、豊か、幸せ、自然、快適、健やか、クアオルト(療養地)、つながり、多くの標語を並べてきた市の努力と想いはむなしく、1960年代後半以降は計画を刷新しても人口減少に歯止めがかからない状況は続き、2020年の国勢調査においてはついに過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法に基づく過疎地域(全部過疎)に指定されている。


 残念ながら1999年に竣工したタワマンも市の人口減少を止めることに貢献できなかったのである。


廃墟化のリスクは高くないように見えるワケ


 だが見方を変えてみると、中古価格の安さは別として、このタワマンで暮らす住民たちの生活満足度は意外と高そうに見える。雪国では不可避のはずだった「雪かき」や「高い光熱費」を避けられ、自動車さえあれば基本的に生活には困らない。周辺からは絶対に妨害されずに蔵王連峰や山形盆地を一望できる景観。これから確実に必要となる大規模修繕に十分対応できるかの問題はあるにせよ、廃墟化のリスクは高くないように見えるのだ。



写真はイメージ ©sakai000/イメージマート


 いっぽうで市の窮状は今後も深刻化するばかりであることも窺える。ならばいっそのこといささか暴論ではあるが、過疎地域に指定された上山市は、タワマンの街を目指してみてはどうだろうか。スカイタワーには700人ほどが居住しているとされるが、たとえば10棟のタワマンがあれば、約7000人、市の人口の4分の1が集住できる。これから老朽化する上下水道、ガス、電気などの社会インフラの維持にかかるコストを考えれば、コンパクト化の効果は極めて高いはずだ。


高齢化社会で暮らす効用価値を


 タワマンの低層部には商業施設のみならず、公共施設、役所機能を設ければタワマン街の中だけで日々の生活が完結する。特に気候の厳しい冬場などは快適そのものの生活を営めるのではないか。雪国の高齢者にとってタワマン住まいは、かなり快適度の高い住まいであるから、福祉的な観点からもおすすめできる。高齢者の住まいのモデル都市として振興計画に盛り込んでみてはどうだろう。


 国や県などの支援を得て、さてデベロッパーに声掛けしよう。だがこの途方もないタワマンを建設してくれた山万アーバンフロント社はもはや存在しない。はたして手を挙げてくれる奇特なデベロッパーはいるだろうか。カネだけの価値では測れない、高齢化社会で暮らす効用価値を期待できる新たなタワマンをぜひ実現してもらいたいものだ。


(牧野 知弘)

文春オンライン

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