ラーメン官僚も注目する気鋭のラーメン店『鯨人』(三鷹)の絶品「豚骨醤油ラーメン」とは?

2023年7月3日(月)10時50分 食楽web


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 2023年も、早いものでもう6月。一年の折り返し地点にさしかかっても、都内のラーメンシーンは、いまだ全力疾走状態。空前絶後の新店オープンラッシュが続いているところです。

 コロナ禍に伴う行動制限要請がなくなってから1年以上が経過し、そろそろ、出店ペースが落ち着き始めても良さそうな頃合いではないか、と個人的には思うのですが、今のところ、そんな気配はまったく感じません。まるで間断なくクライマックスが訪れる映画を鑑賞しているような気分です。

 そんな都内全域を覆い尽くす新店開店ラッシュの波に乗って今般、店名(屋号)から提供するラーメンの内容に至るまで完全リニューアルを果たしたのが、今回ご紹介する『鯨人(げいにん)』です。

 より具体的に説明すると、東小金井を代表する実力店のひとつである『くじら食堂nonowa』(東小金井)の2ndブランド『くじら食堂bazar』(三鷹)(※)が、2021年12月からの長期休業を経て、本年6月1日、装いも新たに、『鯨人』としてリニューアルオープンを遂げたという経緯ですね。

(※)『くじら食堂bazar』は、下村浩介店主が率いる、『くじら食堂』グループの2ndブランド。2020年2月、岡山県笠岡市のご当地麺「笠岡ラーメン」を提供する店舗として東京・三鷹にオープン。2021年3月、ラーメンの内容を「笠岡ラーメン」から、ネオ・クラシック系の「支那そば」へと切り替え、2021年12月、完全リニューアルのための長期休業へと突入。今後の展開が注視されていたところ。

 ちなみに『くじら食堂』は、日本を代表するラーメン雑誌のひとつ『ラーメンWalker』が開催するグランプリ(ランキング)において殿堂入りの栄冠に輝いた、バリバリの実力店。そんな実力店を統率する名手・下村氏が、1年6ヶ月にわたる沈黙を経て、満を持して開業した新店。それが、この『鯨人』なのです。

「新店では、一体どんなラーメンを繰り出してくるのか?」。今年の春先頃から巷間で囁かれ始めた2号店完全リニューアルの情報に接し、そんな期待に胸を膨らませ、浮足立ったラーメンマニアは少なくなかったと思います。もちろん、この私も再開を待ち侘びていたラーメンマニアのひとり。

 加えて、私がその舌の確かさに絶大な信頼を置くラヲタ(ラーメンオタク)の知人が、『鯨人』のオープン初日に店に足を運び、「これはウマい! 確実に行列店になるので、今のうちに食べておくべき!」との感想を共有してくれたことが決め手となって、さっそく、開業初週の週末である2023年6月4日に訪問してきました。

猛々しさと繊細さを併せ持つ唯一無二の一杯とは?


JR三鷹駅北口から3分程度(約350m)。三鷹通り沿いの交差点のたもと付近。『くじら食堂bazar』のリニューアルになるので場所は同じ。店舗外観は、白地に青文字で『鯨』と『人』の漢字が大書された看板が迫力満点

 駅北口のロータリーから、まっすぐに北へと伸びる中央大通り。その通りの進行方向左側をひたすら直進し、三鷹通りと合流する地点のかたわらに佇むのが、今回の主役である『鯨人』です。

 看板に描かれた文字は、『鯨』、『人』の2文字のみ。これ以上ないほど簡潔にして明瞭です。『麺屋』、『ラーメン』、『麺処』といった、ラーメン店であることを示す「冠」もないので、予備知識がなければ、このお店がどんな料理を出す店かさえ、判別できないかも知れません。

 さらに看板を凝視すると、『人』の字の一部が、クジラの姿形を模した形状になっていることが分かります。こういうちょっとした遊び心も、好感度アップの絶妙なトリガーとしての役割を果たしているように感じます。ひとしきり店舗外観のファザードを観察し瞼に焼き付けた後、店内へと入店します。


店舗内観。席数はカウンターのみ9席

 扉をくぐったすぐ左脇に券売機が鎮座。2023年6月24日現在、『鯨人』が提供する麺メニューは、「ラーメン(黒)」、「ラーメン(白)」(※白は私が訪問した6/4の時点では開発中でした)、そのバリエーションのみ。さらに券売機を観察すると、黒ボタンが並ぶ列の一段下に白ボタン、もう一段下に赤ボタンが並んでいますが、赤のボタンには、「×印」が点灯中。

 店を切り盛りする下村浩介店主によれば、「現在、『ラーメン(黒)』と『ラーメン(白)』を販売していますが、最終的には、これらに『ラーメン(赤)』を加えた3商品をレギュラーメニューとして提供する予定です。今は『赤』を開発しているところ。また、商品として最も望ましい麺量はどの程度か、とか、トッピングをどのようにすれば面白いラーメンになりそうかなど、様々な課題に、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら開発に取り組んでいるところです」とのこと。

徳島ラーメンと横浜家系ラーメンをミックスしたような「ラーメン(黒)」


「ラーメン(黒)」880円

 ということで、私は「ラーメン(黒)」と印字された漆黒のボタンを押下。食券をスタッフに提出してから、商品が提供されるまでに要する時間は3分強。リニューアルオープンから1ヶ月未満しか経っていないとは思えないほど、無駄がなく堂々としたオペレーションに見惚れているうちに「ラーメン(黒)」が完成。恭しく眼前に供されました。

 提供された「ラーメン(黒)」は、ビジュアル的にも付け入る隙がまったくなく、口をつける前からクオリティが新店離れしていることが推察できます。カエシは、徳島県三好市が誇る名門老舗醸造所『テンシン醤油』(大正12年創業)のたまり醤油を使用。丼から立ち上る芳しい香りに、ご当地ラーメン「徳島ラーメン」の息吹を感じます。

「『ラーメン(黒)』の開発に当たっては、実際に徳島県にまで足を運び、『徳島ラーメン』の名店・実力店と呼ばれる店舗を、片っ端から食べ歩きました」。

 スープが舌先に接触した刹那、茫洋と広がるたまり醤油の奥深い味わい。『テンシン醤油』特有のラグジュアリーな甘みに味蕾が敏感に反応し、思わず頬が落ちそうになります。


ラーメンの命といえるスープ(食楽web)

 そんなスープを土台から支え抜くのが、豚頭・豚ゲンコツ・鶏ガラ等の動物系素材。「スープの味は、徳島県のラーメン店の中でも最高峰と謳われる『支那そば王王軒』(吉成)をオマージュしたものです。他方、スープ濃度や粘度は、現地のラーメンをそのまま採り入れるとやや物足りないと感じたので、東京多摩エリアのエース級店舗である『井の庄』を参考にしました」(下村浩介店主・以下同)

 強烈な訴求力を有する濃密なカエシを、食べ始めから食べ終わりまで真正面から受け止め続ける動物系素材。カエシと出汁とが一体化することで生まれる豊潤なコクと骨太で猛々しい味わいに、ひと口目から忘我の境地に陥ってしまいました。


動物系スープの力強さにキレのある醤油の味が見事に調和している

「出汁は、寸胴に豚頭を3個投入し、ゲンコツと鶏ガラを合わせて、丸2日かけてじっくりと炊き上げています。一気に炊き上げず、定期的に寝かせながら丁寧にスープを創り込む。寝かせることで、コクが格段に増すのです」

 スープを寝かせるひと手間を加えることで、どちらかと言えば単調な味わいに陥りがちな豚骨醤油スープが、見違えるほど深みを持ち合わせたものとなっています。まるで、「徳島ラーメン」と「横浜家系ラーメン」とをマリアージュさせたかのような、唯一無二の味わい。喉音を立てながら飲み干したくなる、珠玉のスープに仕上がっていました。


スープに負けないもちもち食感の麺

 このスープに合わせるのが、都内の名門製麺所『三河屋製麺』の太ストレート麺。「食べ応えが感じられる1杯となるよう、麺量は一般的なラーメンよりもやや多い170gに設定しています」

 スープを過不足なく絡め捕り、着実に口元へと運び込む心強さは、他に比類なし。モチっとした麺肌と重厚なすすり心地とを合わせ持つ、食べ手が安心して寄り掛かれる逸品です。


「ごはん+生卵」150円

 また、麺をすすり終えた後の残りのスープにごはんを投入し、生卵と合わせていただくのも、この1杯のお楽しみのひとつです。『テンシン醤油』の甘辛いうま味が、米ひと粒ひと粒に遍く浸透。生卵のふくよかな甘みも相まって、お代わりが不可避なほど際限なくご飯が進みます。

 スープの一滴さえ残さず飲み干した後、下村店主に、「ラーメン(白)」についても尋ねてみました。

「『ラーメン(白)』は、徳島ラーメンではなく博多ラーメン、それも草創期の『一風堂』をオマージュした味を目指しました。いずれにせよ、『黒』とはまた違った方向性で、お客さんがワクワクするような1杯になっていますよ」

下村浩介店主のプロフィール

・食肉卸会社に勤めるサラリーマンから、都内の名店『麺や七彩』での修業を経て、2013年9月、JR東小金井駅から徒歩1分強の場所に『くじら食堂』を開業。(2018年9月、『くじら食堂nonowa東小金井店』として、東小金井駅の駅ビルへと移転。)

・その類まれな発想力と創造力で、瞬く間に同店をスターダムへと押し上げる。

・ラーメン職人であると同時に、全国のラーメンを食べ歩く生粋のラーメンマニアの顔も持ち合わせ、マニアが求める感覚を巧みに反映したラーメンの創作を得意とする。

●SHOP INFO

店名:鯨人(げいにん)

住:東京都武蔵野市西久保1-5-8
TEL:0422-27-7330
営:11:00〜15:00、18:00〜21:00
休:日曜夜、月曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

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