Switch2の抽選に外れても「仕方ない」と納得できる…任天堂の転売対策に「ゲームに興味がない人」が激賞したワケ
2025年4月24日(木)7時15分 プレジデント社
任天堂公式ウェブサイト ニュースリリース(2025年4月2日)より
■任天堂の称賛しかない転売対策
「Nintendo Switch 2」(以下Switch2に略)の国内向け第1回抽選販売応募期間が終了し、4月24日午後の当選者発表を経て6月5日に発送される予定だ。(第2回抽選販売は4月28日(月)午後以降より応募受付を行う予定)
はたしてどれほどの応募があり、当選者の数はどれくらいなのか。それらはわからないものの現時点ではっきりしているのは、一連の販売方法が称賛を集めていること。主に「転売屋(転売ヤー)」対策として称える声が多いが、その背景には何があるのか。
称賛を集める最大の理由になったのが下記2つの応募条件。
・2025年2月28日時点で、Nintendo Switchソフトのプレイ時間が50時間以上であること(※体験版ソフト、無料ソフトを除く)
・応募時点でNintendo Switch Onlineに累積1年以上の加入期間があり、応募時にも加入していること
これは「ふだんSwitchで遊んでいる」という人を優先させた応募条件であり、当選者の多くから「本当にほしいから転売はしない」という前提が得られる。
また、転売のためだけに有料のNintendo Switch Onlineに1年以上登録する人は少ないだろう(個人プランで1カ月306円)。つまりゲームを購入するだけでなくオンラインの課金をするレベルのコアなゲーマーに限定しているのだが、一方でプレイ時間は計50時間以上と低めのハードルを設定した配慮も見られる。
■国内YouTube Live配信の日本新記録
応募条件には、「ファミリープランに加入の場合は、利用券の購入者のみが上記条件を満たす対象となります」「ニンテンドーアカウントの『国/地域』設定が『日本』の方のみが応募・購入いただけます」という但し書きがあった。
さらに“注意事項”として、「日本語・国内専用 マリオ カート ワールド セット5万3980円」「日本語・国内専用 4万9980円」「多言語対応 6万9980円」のうち1種類しか応募できないことが提示されている。
これは1人1回のみの応募であり、それどころか家族1回のみの応募に限るということ。「できるだけ多くの世帯に行き届くように」という配慮であり、単身者の不平等感をなくすためのものにも見えた。家族でSwitchを楽しんでいる人には多少の不満はあるかもしれないが、「スタート時に関しては世帯で1つ」という考え方にはそれなりの平等感がある。
4月2日に配信された「Nintendo Direct: Nintendo Switch 2」の国内同時接続数が328万9590人を記録した。これは国内YouTube Live配信の日本記録を100万人超も上回る新記録であり、いかにコアなゲーマーの期待感が高まっているかがうかがえる。前述した応募条件も踏まえても、最も発信力のあるコアなゲーマーを第一に考えた対応だ。
■買えない人があふれる状態は考えにくい
そしてネット上の声を見ていくと面白いのが、ユーザーたちの当落予想。
Switchの時になかなか買えなかったことを思い出して「1回目の抽選販売は無理かな」という不安ばかりではなく、「任天堂は前回の反省を生かして今回は大量生産するから、ほぼ全員買えるのでは」という楽観的な予想も多い。
生産台数などを公表していないため、買えるかどうか予想する楽しみが発生しているのだが、楽観的な予想が目立つのは、「2025年3月期 第3四半期決算説明会(オンライン)」の質疑応答で任天堂・古川俊太郎社長が「なるべく大きな需要を満たせるように、リスクをとって生産を進めている」などと語ったからかもしれない。
写真=iStock.com/Jonathan W. Cohen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jonathan W. Cohen
そもそも任天堂は前述した応募条件を満たすおおよその人数を把握できるため、Switchのように買えない人があふれる状態にはなりにくいと考えるのが自然だろう。さらにまずコアなゲーマーに行き渡ることで高額転売が成立せず、ライト層や新規層も2回目以降に正規価格で購入しやすくなる。
また、家電量販店などでの抽選・販売も4月24日以降にスタートするが、こちらも支持を集めているのが、各社の会員ランクが高い人を優先させるなど、任天堂に同調するような動きを見せていること。転売屋が入るスキを作るフリーの販売はなるべく行わず、自社の会員を大切にするというスタンスはビジネスとして理にかなっている。
写真=iStock.com/winhorse
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■今後は任天堂が基準に
ネットの発達で個人売買が簡易化し、性善説が通用しなくなった今、これくらいの条件設定は当然であり、「やっとやってくれたか」という感覚の人が多いのではないか。いずれにしてもこれによって転売屋が手を出しにくくなったことは確かだ。
ゲームに限らず物販で特定企業がこれほど称賛を集めることは珍しいが、その裏には、国内外の転売屋に対する蓄積された怒りがある。さらに、これまで転売対策に及び腰の企業が多かったことへの不満もありそうだ。
逆に今回もし任天堂が応募条件などの転売対策を控え、Switch2がフリマサイトなどに高額出品されていたら、転売屋だけでなく同社も猛烈な批判にさらされたのではないか。その意味で今回の転売対策は「企業努力というよりデフォルトの仕事」という認識の人が多いのかもしれない。今後は「どの会社も任天堂くらいやってくれなければ困る」という基準で見られていくのではないか。
とはいえ、「本当にほしい人にできるだけ行き渡るようにする」「それでも買えなかった人に納得してもらう」という販売スタンスは簡単そうに見えて難しい。応募や販売の条件設定が難しく、さじ加減を間違えると批判にさらされてしまう。
買えなかった人が「こんなに好きでたくさん買ってきたのに、そうではない人が先に買えてしまうのは納得できない」ではなく、「残念だけど、買えたのがコアなゲーマーばかりなら納得できる」と思わせられるか。この点でSwitch2における任天堂のバランス感覚は抜群だった。
■お得なマリカーセットを出した理由
そしてもう1つ称賛につながっているのが、「日本語・国内専用 マリオカート ワールド セット」を5万3980円で販売していること。「日本語・国内専用」が4万9980円(税込、以下同)で、「マリオカート ワールド ダウンロード版」は8980円のため、通常は5万8960円なのだが、「セット」なら4980円も安く買うことができる。
Switchにおいて「マリオカート8 デラックス」は最も売れたゲームであり(6735万本)、その最新作は言わば「放っておいても売れる」はずであり、それをあえてこれだけ割引するというユーザーファーストの姿勢も支持の一因だろう。
これは裏を返せば、「最も売れるであろうマリオカートの最新版をSwitch2とセットにすることで初動の販売実績を高め、それを今後のPRに生かそう」という戦略でもある。
それを踏まえても「マリオカートの最新版セット」は大半のユーザーにとってメリットでしかなく、「まずは様子見しようかな」と思っていた人を購入に踏み切らせるだけの理由になるかもしれない。
写真=iStock.com/Armando Oliveira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Armando Oliveira
■ゲーマー以外からの好反応
そして最後にもう1つ、任天堂が称賛を集めた背景としてあげておきたいのが最近の物価高騰。食品や生活必需品などの物価高騰に悩まされている人は多く、それ以外のエンタメでも、たとえば音楽ライブのチケットが高騰したことで、「まだまだ空席があります」と窮状を訴えるアーティストが続出している。
そんなエンタメにとっては厳しい状況下で、さらなる価格高騰を招く転売を防いでいるのだから称賛されて当然かもしれない。趣味嗜好の幅は広がる一方で国民的なコンテンツが減る中、Switchはそれに該当するものと言っていいのではないか。
しかもその称賛はコアなゲーマーだけでなく、逆にゲームをやらない人々からも見受けられる。それは転売対策や無用な価格上昇を防いだことへの純粋な評価であり、ゲームをやらない人がわざわざ首を突っ込んで称えたくなるほどのことなのだろう。
任天堂は現在、世界各都市で「Nintendo Switch 2 体験会」を開催していて日本では4月26日・27日に幕張メッセでの開催が予定されている。そこでは6.2インチから7.9インチに大きくなり解像度が上がった液晶画面、立体感の増したサウンド、ゲームチャット機能、マグネット接続になったJoy-Conなどの進化が参加者を喜ばせるのではないか。
さらに参加者が好意的な発信をすることで、今回の転売対策が再び称賛され、6月5日の発売日に向けてますます盛り上がりそうなムードを感じさせられる。
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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。
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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)
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