なぜ、旧統一教会は憎きサタン=朝日新聞・TBSに盛山文科相と教団の"親密ネタ"をリークしたのか

2024年2月21日(水)11時45分 プレジデント社

衆院予算委員会に臨む盛山正仁文部科学相=2024年2月13日、国会内 - 写真=時事通信フォト

写真を拡大

盛山正仁文科相が火だるま状態になっている。旧統一教会との関係で国民から多くの批判が寄せられている。ジャーナリストの多田文明さんは「今回の文科相の報道を最初にしたのが朝日新聞。教団は朝日を以前からサタン(悪魔)的な報道機関とみなしていたが、自分たちを裏切った文科相を攻撃するため、あえてネタを提供した形だ」という——。
写真=時事通信フォト
衆院予算委員会に臨む盛山正仁文部科学相=2024年2月13日、国会内 - 写真=時事通信フォト

■旧統一教会の戦術にハマった盛山正仁文科相が火だるま状態


盛山正仁文部科学大臣が旧統一教会の関連団体の関係者から推薦状を受け取っていた写真が公になり、国会で厳しい質問が相次ぎました。


文科省は旧統一教会の解散命令請求をしています。そのトップである大臣が教団との関係を持ち、選挙の応援を受けていたとすれば、責任を問われることになります。しかし大臣側は、2021年の選挙で「(教団の関連団体に)選挙支援を依頼した事実はない」と否定しました。さらに会見で、旧統一教会の関係者が「揺さぶりをかけてきている」「弄ばれている」ように感じるともコメントしています。


連日の報道を耳にして、元信者である筆者が感じたのは、「この時期」だからこそ教団が政府に刃を向けてきただろうということです。


朝日新聞が最初に報道したのが2月6日。約2週間後の22日には、解散命令請求の裁判の第1回期日が行われる予定ですので、まさにこの時、解散命令請求を行った政府を旧統一教会としては「サタン(悪魔)」とみて、これまで秘してきた情報を暴露することで攻撃をしかけてきたといえます。


■なぜ、サタン(悪魔)である朝日新聞にネタ提供したのか


この動きを通じて、旧統一教会がいかにカルト的思想のなかで信者らが行動しているのかが浮き彫りになります。教団の中では、アベル(教団の上司)という存在はより神様に近い存在であり、その指示は絶対ということになっています。「カラスが白い」といわれれば、現実は黒くても、それを信じて行動しなければなりません。特に今回のような重要事項に関しては、教団側の許可なくてはできない行動です。


それがよくわかるのは、これらを報道してきた先が、過去にサタン(悪魔)の手先機関として名指ししてきた報道機関だということです。


最初に報じた朝日新聞に関しては、筆者も信者時代に、旧統一教会批判の急先鋒に立つ“サタンの手先となる報道機関”として教えられてきました。次に今回、信者らが取材に応じたのはTBSでした。かつて同局は旧統一教会の信者らによる霊感商法や合同結婚式などの報道を積極的に行い、教団は報道機関のなかでもトップ級のサタン的存在とみなしていました。筆者も当時筑紫哲也氏がキャスターを務めた報道番組「NEWS23」(TBS)に対して、アベル(教団の上司)から抗議するよう指示されて、電話を何度もかけたことがあります。


写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

教団が、背後に「共産党や左翼がいて教団を操っている」と教えるサタン側の出先機関としてみてきたところに、信者らが勝手に情報を流すことはあり得ません。しかし、教団の上の指示があれば、それまで「サタン」と罵っていた存在であっても一転、手を結ぶ行動に出るのがこの統一教会なのです。朝日、TBSのような忌まわしき存在でも、目的達成のためにともに敵(今回の盛山文科相)に対しては攻撃を行う。まさにカルト思想の本質を見た思いがしました。


旧統一教会と関係を少しでももった議員は常に暴露リスクにさらされることになります。大臣などの要職にも就きにくくなる。気の毒ですが、それはすべて教団がどのような組織であったのかを見誤ったからに他なりません。自業自得です。


今回もそうですが、議員の側に記憶がなくても、教団側は組織としてあらゆる場面で写真や文書を残しますので、言い逃れできない状況に相手は追い込まれます。


盛山文科相のケースのように教団は選挙前に、推薦確認書を提示し署名をさせようとします。そして教団関係者と共に親密な関係にみえる写真をパチリと撮る。それをもとに、信者らに議員への投票を呼びかけます。


信者時代の筆者は末端の支部に属していましたが、自民党の国会議員や世界各国の要人たちが文鮮明教祖と握手をしている写真やビデオを見せられて「彼らは統一原理を受け入れて、文先生をメシヤとして受け入れている」と言われ、「統一原理による神の国実現は近い」と思い、モチベーションを上げながら布教活動やモノ売りの活動を必死にしました。


政治家など要人と写真を撮り、証拠を残すのは、教団の常套手段の一つといえます。議員や事務所は記憶が曖昧かもしれませんが、教団側はやりとりの証拠を残し、写真も撮るので記憶は鮮明です。それをもとに今回のように、情報を出すのです。だから、「記憶が定かではない」といった言い逃れは、まったく通用せず、自らの足をすくわれることになります。


■海千山千の大物政治家を翻弄する組織の恐怖


海千山千の大物政治家でさえ、こうした状況に追い込まれるのですから、過去にどれだけ多くの人が同じような形で追い詰められ、被害を受けてきたのか想像できません。


今、教団と関係を持ってきた多くの自民党議員のなかには戦々恐々の方も多いでしょうが、すべては自らの脇の甘さが招いたもの。信者一人ひとりは善良そうに見えますが、組織からの指示を受けると、戦闘態勢に一変します。そうした裏に隠されたカルト思想ならではの狡猾さを見抜けないと、大きな代償を払うはめになってしまうのです。


写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

筆者が危惧するのは、盛山文科相の件を踏まえ、教団と関係を持ったことのある議員が今後、教団に対して次のようにこっそり伝える可能性があることです。


「自分があなたがた(教団)と関係があったことは外部に話さないでほしい」


そうやって関係がある(あった)ことを口封じする。しかし、これは完全に逆効果だと断言できます。なぜなら、その口封じの言葉自体を暴露される恐れがあるからです。


韓鶴子総裁などの教団の上層部から「○○をしなさい」と言われれば、必ず実行しなければなりません。ですので、日本の教団幹部らが仮に「暴露しない」と約束したとしても、何かあればすべてリークされることになります。


政治家は当選しなければ、ただの人。どうしても当選したい、と霊感商法で多くの被害を出している教団の関連団体と知りつつも手を組んできた政治家たちは崖っぷちに立っているも同然で、いつ身を滅ぼす事態になってもおかしくありません。


この際、過去に教団と関係を持った議員は、自らの口でしっかりとすべてをさらけ出すべきでしょう。禊を済ませなければ、新しい一歩を踏み出せません。


今回の関連団体の信者からの情報リークは期せずして、政治家たちのこれまでの脇の甘さと、旧統一教会と関係を持つことによる負の側面を改めて多くの人に見せつけた結果になったと言えるでしょう。


----------
多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。
----------


(ルポライター 多田 文明)

プレジデント社

「文科相」をもっと詳しく

「文科相」のニュース

「文科相」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ