「水星の空は真っ黒」という衝撃事実…宇宙物理学者が解説する「小学生にもわかる地球の空が青い理由」

2025年2月28日(金)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sankai

空は青い。それは何故か? 宇宙物理学研究者の武田紘樹さんは「空の色は、大気の成分や厚さ、そして散乱の性質などから決まる。地球の空が青いメカニズムを知れば、行ったこともない惑星の、見たこともない空の色も想像することができる」という——。
写真=iStock.com/sankai
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■なぜ「青」なのか


多くの人は、一度くらい「なぜ空は青いのだろう」と疑問に思ったことがあるのではないでしょうか。ちなみに、私は誰かに問われて初めて「……確かに。なぜだろう」と思った記憶があるので、ぼーっと生きていたのかもしれません。


そのうえで、「空が青く見えるのは、青い光が散乱されるため」という理由もなんとなく聞いたことのある人は少なくないのではないでしょうか。


それでは、緑でもピンクでもなく、なぜ散乱される光は“青”なのでしょう?


科学は、ちょっと引いてしまうほどに「なぜ」を突き詰める学問です。今回は、皆様のお時間を少しだけお借りして、空の色に関する「なぜ」を考えてみましょう。


■色とは何か


そもそも「色」とは、一体何なのでしょうか? 色の正体は、物理的には「光の波長」に由来します。


早速難しくなったと思う方もいると思うので、ひとつずつ説明していきます。


まず「光」は電磁波という「波」の一種です。


そして「波」には「波長」という性質が存在します。


「波長」とは、波の山から山までの距離のことを指します。この距離の長さによって、光は異なる特徴を持ちます。


光には可視光と呼ばれる範囲があり、私たちの目で見ることができるのは、このほんの一部の光の領域だけです。紫外線や赤外線など、見えない波長も含めると電磁波は多種多様なのですが、我々人間は、この可視光の範囲内で捉えられる波長の違いを「色」として認識しています。


可視光は、波長が短ければ青や紫の光として見え、波長が長ければ赤い光として私たちの目に映ります。


太陽の光や蛍光灯の光は白色光と呼ばれますが、このように白く見える光は、さまざまな波長の光が混ざり合ってつくられています。


●私たちが色(波長の違い)を感じるメカニズム
「光」は物体に当たることで特定の波長の光を反射するようになっています。その反射した光が私たちの目に入ることで、私たちは色を感じられるのです。例えば、葉っぱが緑に見えるのは、葉っぱが緑の波長の光を反射し、それ以外の色を吸収しているから。

これをヒントにすれば、空が青く見えるということは、空の光、つまり「太陽光」が何かしらの影響(例えば何かに反射するなど)を受けることによって、我々の目に青色が映っているのだな、ということがわかるはずです。


■地球の空が青いワケ


それでは、いよいよ、地球の空が青い理由に迫っていきます。そのためには太陽光について説明する必要があるでしょう。


写真=iStock.com/sbayram
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sbayram

まず、太陽光が大気中を通過する際には「散乱」という現象が起こります。「散乱」とは、光が空気中の微小な粒子にぶつかり、あらゆる方向に光が拡散する現象のこと。さらに、この光がぶつかる粒子が窒素や酸素など、「光の波長」よりも小さい場合に生じる散乱を「レイリー散乱」といいます。


「レイリー散乱」は、光の波長が短いほど強く、光の波長が長いほど弱くなるという特徴を持っています。そのため、波長が短い光、つまりは青い光が強く散乱され、空全体が青っぽく見えるのです。


ここで、実は青い光よりも「紫の光」の方が、より波長が短いとご存知の方は次のように思うかもしれません。


「じゃあ、空は紫に見えるべきでは?」


実際、紫の光は青い光よりも、強く散乱されています。しかし、実は散乱が強すぎるために地上に届く前に弱まってしまっているのです。さらに、人間の目は青に比べて紫に対する感度が低いため、結果的に、空は青く見えているというわけです。


また、朝や夕方に空が赤く見えるのにも、この「散乱」が関係しています。


太陽が低い位置にあるとき、光は地平線近くの長い大気の層を通過します。その間に、波長の短い青い光などは散乱し尽くされてしまうのです。


そのため、波長の長い赤い光だけが地上に届くようになるのです。その結果、朝焼けや夕焼けの赤みがかった空が見られます。


■火星の空は何色か


地球の空が青い理由の解説は、ここまでになります。空の色を決めるのに、大気の組成や厚さが重要であることが伝わったかと思います。


それでは、地球以外の他の惑星で、空はどのように見えるのでしょうか? 惑星ごとに大気の成分や構造が異なるため、異なる色の空が広がっていると期待ができます。


地球以外で人類が直接降り立った天体は月だけです。


しかし、火星については探査機「マーズ・パスファインダー」などが撮影した画像が多くあり、ある程度空の色がわかっています。


写真=iStock.com/mikolajn
火星のイメージ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mikolajn

火星の空は、昼間には赤みがかった色に見え、夕方には青くなることがわかっています。まるで地球の逆のように、空の色が変化するというのには驚かれるかと思います。


この現象も、火星の大気の性質によって説明することができます。


■「ミー散乱」という現象


火星の大気は非常に薄く、主成分は二酸化炭素です。さらに、火星の表面は赤い砂で覆われており、重力が弱いために、この砂塵が風に舞って大気中に浮遊しています。


この細かい砂塵が太陽光を散乱する際、「ミー散乱」という現象が主に働きます。ミー散乱は、光の波長と同程度、またはそれ以上の大きさの粒子によって起こる散乱です。


ミー散乱では、ぶつかる粒子の大きさ等によって、主に散乱される波長は異なっていきます。ぶつかる粒子が小さければ青くなりますが、ぶつかる粒子が大きくなるにつれて赤くなります。やがてすべての波長の光がほぼ均等に散乱することで、太陽光のような白い光として散乱されます。


火星の大気中に浮遊する砂塵の粒子は、可視光の波長に近いサイズで、青い光よりも赤い光を強く散乱します。そのため、昼間の火星の空は赤みがかっているのです。一方、夕方には、地球の同じく光が長い大気の層を通過することになるので、赤い光が散乱され尽くし、空が青く見えるのです。


■水星の空は真っ黒


他の惑星についても、探査機や観測データから空の色を予測できます。


写真=iStock.com/buradaki
金星のイメージ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/buradaki

例えば、金星の大気は厚い二酸化炭素と硫酸の雲で覆われており、光がほとんど透過しません。このような構造のため、金星の空は非常に薄暗くなっています。


ソ連のベネラ探査機によって撮影された画像から、金星の空はオレンジがかった薄暗い色であることが示唆されています。


オレンジがかっているのは、分厚い大気によって青や緑などの光が散乱され尽くしてしまうためだと考えられます。


写真=iStock.com/FlashMyPixel
水星のイメージ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/FlashMyPixel

また、水星には非常に薄い大気しかないため、光がぶつかる粒子がありません。散乱が生じないので空に色が生じず、空は黒く見えます。


■そもそも「空が存在するか曖昧」な惑星も


一方、木星や土星といったガス惑星では、そもそも空と呼べるものが存在するかどうか曖昧です。これらの惑星には明確な「地表」がなく、水素やヘリウム、少量のメタンやアンモニアの厚いガスが層状に広がっています。


(左)写真=iStock.com/inhauscreative、(右)写真=iStock.com/da-kuk
(左)木星のイメージ、(右)土星のイメージ(※写真はイメージです) - (左)写真=iStock.com/inhauscreative、(右)写真=iStock.com/da-kuk

地球に比べて到達する太陽光は少ないですが、木星の大気は地球と同様に青っぽくなると考えられています。


土星は木星と似たような構造を持ちますが、淡い黄色味がかった色合いになると考えられています。


これは、土星の上層大気に存在するアンモニアの結晶が、黄色い光を空全体に散乱させると考えられるからです。


■行ったことのない「惑星の空の色」を想像する


行ったこともない惑星の、見たこともない空の色を想像することができる。


このことから、科学の魅力と強力さを感じていただけるのではないでしょうか。


最後に、改めて整理すると、惑星ごとに異なる空の色が広がっているのは、大気の成分や厚さ、そして散乱の性質がそれぞれ異なるためです。地球の空が青く見えるのは、私たちの大気の組成が、ちょうど波長の短い青い光を強く散乱する性質を持っているからに他なりません。


青い空を見上げると清々しい気持ちになりますが、もし空が別の色だったら、私たちはどのように感じるのでしょうか。青という色が持つイメージが、青空を見たときの感情を引き立てているのかもしれませんし、そのイメージ自体も、青空の日に感じる心地よい経験から形作られている部分が大きいのかもしれません。


その環境が、その場にいる人にとって心地よいものであれば、私たちはどんな色の空でも、それを眺めるひとときに安らぎを感じるのかもしれませんね。


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武田 紘樹(たけだ・ひろき)
宇宙物理学研究者
京都大学 白眉センター 特定助教、京都大学 大学院理学研究科 連携助教。専門は宇宙物理学、特に量子測定による重力理論の検証。近著は『広大すぎる宇宙の謎を解き明かす 14歳からの宇宙物理学』(KADOKAWA)。YouTubeチャンネル「たけださんの4コマ宇宙」を運営。
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(宇宙物理学研究者 武田 紘樹)

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