「早慶ダブル合格なら早稲田に行く」学生が急増中…慶應の天下が終わり、「早稲田一強」時代が到来した本当の理由
2025年2月28日(金)6時15分 プレジデント社
大隈重信像と大隈記念講堂(東京都新宿区の早稲田大学、2023年11月14日) - 写真=時事通信フォト
写真=時事通信フォト
大隈重信像と大隈記念講堂(東京都新宿区の早稲田大学、2023年11月14日) - 写真=時事通信フォト
■早慶受験に「大変化」が起きている
「早慶」といえば、わが国の難関私立大学TOP2として双璧をなす存在であることは疑いようのない事実だろう。
この2校の対決は野球などのスポーツにおいても「早慶戦」と呼ばれ、白熱の様相を呈しているが、受験における早慶戦もまた目が離せない。
大学野球においては、90年代は慶應優勢、2000年代は早稲田黄金時代、2010年以降は慶應優勢、そして近年は早稲田が盛り返してきている。大変面白いことに、受験においても同じような動きが見られる。
受験においても1980年代〜90年代にかけては早稲田優勢だったが、2000年代以降長らく慶應優勢の時代が続いてきた。しかし、その長く続いた流れはこの数年で大きく変わり、早稲田が急速に盛り返してきている。まさに「早稲田vs.慶應」の受験における大きな潮目を迎えようとしているのだ。
本稿では、2025年現在の両校の実力をさまざまな視点から検証していきたい。
まずは毎年、大学受験予備校の東進ハイスクール(ナガセ)が独自作成している「早慶ダブル合格者」の進学先データを見ていき、近年のトレンドについて検証していく。
■両方に合格したら、どちらに進学?
2010年代後半から最新2024年までの、学部は関係なく早慶両大学を受験して両方受かった場合の進学率は下記の表の通りだ(図表1)。
東進ハイスクールのデータを基にプレジデントオンライン編集部作成
2018年当時は、長らく続いてきた慶應優勢の流れの通り慶應への進学が71.5%、早稲田が28.5%と慶應が早稲田を圧倒していた。
しかし、2024年の最新のデータでは、慶應への進学率51.6%に対して、早稲田が48.4%と、ほぼ互角となっている。
加えて、慶應合格者の中には、早稲田で比較的合格しやすい学部と併願しているケースが多くある。
早稲田には人間科学部やスポーツ科学部といった偏差値から見ると慶應よりも合格しやすい学部が存在する。「どうしても慶應か早稲田に行きたい」と考えている受験生は、学びたい学問は関係なく併願するというケースが多く見られ、「早稲田下位学部vs.慶應」では多くの学生が慶應に進学するため、大学全体で見るとまだ少し慶應が多いという結果になっている。
■長らく続いた「慶應優勢時代」に終止符
次に同系統学部同士の「ダブル合格」の場合にどちらの大学に進学しているのかを示したのが下記のデータだ(図表2)。
東進ハイスクールのデータを基にプレジデントオンライン編集部作成
表を見てわかる通り、2018年当時は早稲田の看板学部である政治経済学部と、慶應の経済学部に「ダブル合格」した場合であっても慶應の圧勝であった。
同様に、両大学の法学部同士、商学部同士、文学部同士は、いずれも慶應に多く進学しており、誰がどう見ても慶應の完勝であった。
しかし、2021年の早稲田大学の「入試改革」以降その流れは大きく変化し、最新2024年のデータでは法学部同士の「ダブル合格」のみ慶應が勝利するも、その他はすべて早稲田の勝利となり、2018年と真逆の早稲田圧勝という結果となっている。
2018年からの6年間で一体なぜここまでの変化があったのだろうか。
その流れを変えたのは早稲田大学の「入試改革」である。
■早稲田「ワンチャン勢」は完全終了
早稲田大学では2021年に看板学部の政治経済学部をはじめとする複数学部で従来の文系3教科受験を廃止し共通テストと総合問題で合否を問うスタイルに舵を切り始めたのだ。
現在では政治経済学部、国際教養学部、スポーツ科学部、社会科学部、人間科学部の5学部(文系学部の半数)が総合問題スタイルを導入し、マークシート方式のいわゆる「ロト6スタイル」に終止符を打った。
2021年当時は志願者数が大幅に減ったこともあり「入試改革は失敗だったのでは」という声も聞かれたが、結果として難関国立の併願先としての需要が増しただけでなく、学部への志望度が高い受験生の割合を増やすことにも成功した。
1990年代の慶應SFCによる日本初のAO入試の導入など積極的な入試改革を行うことで優位性を保ってきた慶應は、早稲田の「痛みを伴う改革」に機先を制されたということになるだろう。
早稲田大学は2025年より、どうしても早稲田に入りたい「ワンチャン勢」の受け皿であった社会科学部と人間科学部においても同様の改革を行っており、この流れは文系学部を中心に加速していくかもしれない。
しかし、慶應もこのまま黙ってはいない。
慶應の看板学部である経済学部において、2027年度入試より小論文を廃止すると発表したのだ。
これにより慶應に特化した小論文対策が必要なくなること、数学が必要なA方式においては従来よりも数学の点数比率が増加することから上位国立受験生の志願者が増え、慶應経済の人気回復の可能性も予想される。
今後の早稲田政治経済vs.慶應経済の「看板対決」に目が離せない。
■早慶の就職先でも「コンサル人気」が続く
熾烈な争いを続ける早慶だが、すでに高い知名度を誇り母集団形成においてはまったく苦労しない両校が入試改革行うのはひとえに優秀な人材を輩出するため、と言っていいだろう。
入試の「ダブル合格」においては現在、早稲田優勢であることはここまで述べてきた通りだが、その熾烈な受験競争を潜り抜けた学生たちがどのような就職先に進む傾向があるのかを下記にまとめてみた(図表3、4)。
早稲田大学「2023年度 早稲田大学進路状況」を基にプレジデントオンライン編集部作成
慶應義塾大学「2023年度 上位就職先企業」を基にプレジデントオンライン編集部作成
上記を見て分かるようにコンサルをはじめとする文系総合職への就職が目立ち、一見して親御さんも喜び友達にも自慢できる就職先が並ぶ。
しかし、これからの時代、一流企業に就職した人でも「ノースキル文系」は淘汰されていくかもしれない。
■なぜ「暗記偏重・ペーパーテストスタイル」をやめるのか
「ノースキル文系」とは私がよく使う造語だ。新卒で一流と呼ばれる企業に就職しても日本の伝統企業特有の社内ルールや身の処し方などに対応することに明け暮れ、何のスキルも身につけずにいると、20代を終える頃には転職が難しくなる。そうして企業にしがみつくしかなくなってしまった人材のことを「ノースキル文系」と呼んでいる。
このような人材は一昔前の終身雇用の時代であれば問題なかったが、これから先の未来においてはどのように身を振っていくかが課題となるだろう。早慶両校が入試において暗記偏重・ペーパーテストスタイルからの脱却を試みているのは、この流れに影響を受けているように見える。
早慶だけでなく私立大学全般に言えることだが、過去10年間で入試のあり方は様変わりしてきた。先述した早稲田の入試改革とは別に、以前から両校ではAO(総合型選抜)入試による入学者数も増加傾向にある。AO(総合型選抜)入試とは、志望理由書や小論文、面接などを課す選抜方式のことだ。
さらに、推薦入試の台頭や附属校の内部進学により、現在は5割前後の入学者がペーパーテスト(一般入試)を経ずに入学している現状がある。入試スタイルは大きく3つに分かれ、伝統的な3教科受験は淘汰されつつあるのだ。近い将来、過半数の入学者が中高時代の「取り組み」や「経験」によって進路を切り拓く時代となっていけば、ノースキル文系の苗代となっている暗記偏重の「私文職人」は絶滅するかもしれない。
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伊藤 滉一郎(いとう・こういちろう)
受験・学歴研究家、じゅそうけん代表
1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。2022年じゅそうけん合同会社を立ち上げ、X(旧Twitter)、InstagramなどのSNSコンサルティングサービスを展開する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、XやYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。
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(受験・学歴研究家、じゅそうけん代表 伊藤 滉一郎)