川崎Fが見せた戦術アップデート。山東泰山との再戦を制した要因は【ACL現地取材】
2024年12月7日(土)11時30分 FOOTBALL TRIBE
AFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)2024/25のリーグステージ第6節が、12月2日から4日に各地で行われた。川崎フロンターレは4日、本拠地の等々力陸上競技場にて山東泰山(中国)と対戦。最終スコア4-0で勝利している。
今年2月に行われたACL2023/24のラウンド16で、山東と相見えた川崎。等々力陸上競技場にて行われた同ラウンド第2戦を2-4で落としたうえ、第1戦との合計スコアも5-6に。これにより川崎のラウンド16敗退が決まり、クラブ史上初のアジア制覇の夢が潰えた。
2月に涙を呑んだ本拠地でまたも山東と対戦した川崎は、今回の大勝で見事に雪辱を果たしている。2月の対戦から川崎は何をアップデートしたのか。ここではこの点を中心に論評するとともに、現地取材で得た川崎の鬼木達監督の試合後コメントも紹介したい。
今年2月からの成長とは
今年2月の山東との対戦で、ビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)を試みた際の各選手の立ち位置に問題があった川崎。2月20日のACLラウンド16第2戦の前半8分には、基本布陣[4-1-2-3]のセンターバックを務めたDF大南拓磨が自陣ペナルティエリア付近でボールを受けたものの、DF佐々木旭の攻め上がり開始が早すぎたため大南との距離が延びてしまっている。右サイドバック佐々木へパスを出せなくなった大南は体の向きを変えようとしたが、この動きを山東のMFリー・ユェンイーに読まれボールを奪われると、ここからの速攻をアウェイチームに物にされた。
[4-4-2]の基本布陣で臨んだ今回の対戦ではこの攻撃配置の悪さが改善されており、川崎はマイボールになると3バックへ隊形変化。右からジェジエウ、丸山祐市、三浦颯太の3DFが並ぶ形になっていた。
ボール運搬力が高いジェジエウと三浦を丸山の両脇に並べたことで、川崎は左右どちらからでもビルドアップを円滑に行えるように。特にこの試合では、左サイドバックとして先発した三浦の推進力が際立っており、山東は同選手のボール運搬を止めるための対策を持ち合わせていなかった。
「彼の推進力は抜群」
鬼木監督は試合後の会見で、筆者の質問に回答。幾度となく自陣からボールを運び、攻撃の起点となっていた三浦のプレーぶりを称えている。
ー三浦選手のパフォーマンスについてお伺いします。彼がビルドアップの時にタッチライン際ではなく、その内側にポジションをとっており、そこからの攻め上がりが効果的だったように見えました。三浦選手をあの位置でビルドアップに関わらせることに、どんな狙いがあったのか。また、監督から三浦選手への評価もお伺いしたいです。
「ビルドアップの安定感を持たせるために、(三浦に)あそこのポジションをとらせています。これはチームのやり方としてそういう形にしています。彼の推進力というのは抜群です。後ろからでもオーバーラップをかけられたりとか、今日の(ボールの)持ち出しとか非常に良いプレーも多かったですし、クロスに行く回数も増えていたので、低い位置からでも何回もやることを今後をやっていけば、彼のストロング(特長)がどんどん出てくるのかなと思います」
2024シーズン序盤はビルドアップ時の三浦の立ち位置が定まらず、それゆえ川崎のパスワークが淀む場面が散見されたものの、同選手がタッチライン際だけでなくその内側でも存在感を示せるようになったことで、同クラブの攻撃のバリエーションが広がっている。これはクラブ史上初のアジア制覇を狙う川崎にとってポジティブな要素だ。
GKチョンの好セーブで難局乗り越え
基本布陣[4-1-4-1]の山東が前半2分に最終ラインからロングパスを繰り出したことで、川崎は最前線からの守備(ハイプレス)を掻い潜られそうになったが、自陣でボールを回収し逆に速攻を仕掛ける。FWエリソンが敵陣ペナルティエリア右隅でドリブルを仕掛け、この直後にMF瀬川祐輔がシュートを放つと、山東のGKワン・ダーレイが弾いたボールをFWマルシーニョがゴールに押し込んだ(得点は前半3分)。
幸先良く先制した川崎は、その後も山東のロングボールを跳ね返し、エリソンとマルシーニョの快足FWを中心に速攻を仕掛ける。相手の守備隊形が整う前に攻めきる姿勢が窺えた。
山東のロングパスを回収しきれず2次攻撃を浴びる場面もあり、前半12分にMFシエ・ウェンノン、同36分にはFWゼカとリーによるシュートを浴びたが、GKチョン・ソンリョンが好セーブを連発。長きにわたり川崎のゴールに鍵をかけている39歳の守護神が、この日も自軍を救ってみせた。
際立った山本と河原の存在感
この日三浦とともに川崎の遅攻を支えたのが、山本悠樹と河原創の両MF(2ボランチ)。ビルドアップ時にこの2人が味方センターバックの隣などに降りたことで、山東はボールの奪いどころを定めきれず。山本と河原には山東の2インサイドハーフ、リーとシエの両MFがマークに付いていたが、川崎の2ボランチが最終ラインへ降りたときの守備の段取りまでは整備されていなかった。
三浦、山本、河原、チョンの活躍で川崎に落ち着きがもたらされると、前半41分に山本が相手GKワンのニアサイドを射抜くフリーキックを放ち、ゴールゲット。この追加点で川崎は優位に立った。
後半20分には山本のコーナーキックにジェジエウがヘディングで合わせ加点すると、同45分にも精巧なパスワークで山東を自陣へ釘付けに。途中出場の18歳FW神田奏真のクロスにFW山田新が合わせ、大勝劇に華を添えている。2017年のクラブ史上初のJ1リーグ制覇をはじめ、川崎に多くのタイトルをもたらしてきた鬼木監督の今年限りでの退任が決まっているが、この試合で証明された確かな戦術基盤が新体制下でも継承されることを願うばかりだ。