ファーストガンダムは例外的だが…「決戦主義」の日本アニメが軽視してきた“戦争のリアル”とは?〈小泉悠氏らが激論〉

2025年5月6日(火)7時0分 文春オンライン


日本のアニメには、「戦争」を考える上で決定的に欠けているものがある——。東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏、防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏、朝日新聞記者の太田啓之氏の対談「 ガンダムが描いた戦争の『虚と実』 」から一部紹介します。



◆◆◆


アニオタと軍事オタクは重なる


 太田 ところでお二人は、子供の頃からアニメや特撮がお好きだったわけですよね。それと現在のお仕事とに、結びつきはあるんですか?


 高橋 全くないです。頭の中で違う領域を使っていますから(笑)。


 小泉 今の仕事じゃなかったら、何をやってました?



大阪万博で展示された実物大のガンダム ©CFoto/時事通信フォト


 高橋 新聞記者かな。


 太田 そうなんですか。同業だ。


 小泉 僕はミリタリーオタクとして“中二病”が治らないまま、軍事評論家になってしまったところがあるんです。僕はまっすぐ今の仕事に結びついているかもしれない。


 太田 面白いですね。僕はずっとアニメ好きと軍事オタクは重なる部分があるなと思っていたんです。


 高橋 それは間違いない。


 小泉 ミリタリーとアニメの中のメカって、われわれ日本人からすると、両方とも現実からは遠い世界のように感じるじゃないですか。少なくとも子供時代の僕にはあまり区別がついてなかった。現実の兵器をどこか遠い世界にあるスーパーメカのように感じていた気がします。


 僕が軍艦のプラモデルを作り始めたのは小学4年生でした。初めて作ったのは、重巡「那智」。プラモデル屋で一番カッコよかったヤツでした。だから僕、軍事オタクになった瞬間がハッキリしているんですよ。


 太田 平賀譲造船中将設計の!


 高橋 条約の制限内で性能を極限まで追求した「条約型重巡」の機能美に惹かれた瞬間ですね。


 小泉 そうしたら、最終的にあの人が総長をやった大学の教員になっちゃった(笑)。


 太田 僕は1964年生まれで、僕よりちょっと上の世代の人は漫画雑誌で戦艦「大和」とか、零戦の特集に親しんでいたと思います。


 小泉 昔の少年誌ですね。


 太田 そう。戦記ブームの時代というのがあったんです。その後に松本零士の「戦場まんがシリーズ」が流行って、僕ももろに影響を受けました。小泉さんと同じくミリタリーのプラモデルの影響も大きくて、アニメからこの世界に入ったわけじゃないんです(笑)。


 だからガンダムを最初に観た頃、「なぜ試作型のガンダムが、量産型のジムより性能が上なんだ?」という疑問がありました。現実の兵器開発では試作型に生じがちな初期トラブルをつぶしていくのに苦労するものなんですよ。実用にこぎつけてから性能を向上させるのが兵器開発・製造の現実でしょう。


 小泉 零戦だって、試作段階ではかなり落っこちていますからね。


 高橋 デチューン(あえて性能を落とす処理)して量産する連邦軍と、改良を重ねて性能を上げていくジオン。その違いだということで、私は理解していますけどね(笑)。


日本アニメは補給軽視で決戦主義


 太田 そもそも、そういう意味でアニメでは開発者やメカニックなどの“戦争の裏方”が描かれることが少ないですよね。


 小泉 たしかに。整備士が主人公のアニメとか、観てみたいですね。整備士がいなければ、メカは動かないわけですから。


 高橋 パトレイバーでいえば、整備班主任のシゲさんが主役になるわけだ。ガンダムシリーズだと、メカニックのアストナージですか。


 小泉 宇宙戦艦ヤマトに、整備士は出てくるんでしたっけ?


 太田 真田技師長はメインキャラですが、整備士は出てきませんね。


 高橋 ファーストガンダムでは、主人公アムロの憧れの女性、マチルダ中尉は補給士官ですね。ホワイトベースが攻撃を受けてエンジンの圧力が下がってしまったとき、整備士官とマチルダの、「原因はわかりました、3分待ってください」「2分ですませてください」というやり取りは印象的でした。補給部隊があれほど爪痕を残すというのは珍しい。


 太田 やはり日本のアニメは、日本陸軍のエピソードの影響を受けているのでしょう。補給軽視で、決戦主義なんです。


 小泉 本当は、巨砲一発では戦争は終わりませんからね。ウクライナ戦争の解説でも「ゲームチェンジャーは何ですか」という質問を何度も受けたんです。しかし現実には“超兵器”など存在しません。



※本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「 文藝春秋PLUS 」と「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています(小泉悠×高橋杉雄×太田啓之「 ガンダムが描いた戦争の「虚と実」 」)。


■全文では下記の内容をお読みいただけます。
・平和ボケへの苛立ち
・「避難とは生活を捨てさせること」
・ジオンは日本?
・兵器のロマン性が役立つことも



(小泉 悠,高橋 杉雄,太田 啓之/文藝春秋 2025年5月号)

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