お立ち台で「僕は大丈夫、今日はみんなで勝ったんで」質問2つで切り上げた巨人・甲斐拓也が胸に刻むノムさんの言葉
2025年4月30日(水)5時30分 スポーツ報知
ヒーローインタビューを受けるサヨナラ中犠飛の甲斐拓也(カメラ・今成 良輔)
◆JERA セ・リーグ 巨人4×—3広島=延長12回=(29日・東京ドーム)
ヒーローはどこまでも謙虚だった。ウォーターシャワーで髪をぬらした甲斐拓也捕手(32)は「本当に最後までみんなで戦った結果かなと。僕は大丈夫です、今日はもうみんなで勝ったんで。これで締めさせてください!」とお立ち台をわずか2問で切り上げた。故・野村克也さんから贈られた「功は人に譲れ」という捕手の心得を胸に刻む背番号10は、仲間とファンへの感謝を45秒に詰め込んだ。
控えめな言葉とは裏腹に、大仕事をやってのけた。吉川、岡本の連打と門脇のスリーバントでお膳立てされた3—3の延長12回1死二、三塁の絶好機。カウント1—2と追い込まれると「もう事を起こせばいいと思っていった」と左足の上げ幅を抑え、ノーステップに近い形で高め147キロ直球を軽振した。コンパクトに捉えた打球は飛距離十分の中犠飛。勝利への執念が、白球に最後のひと伸びを生み出した。
プロ15年目で初のサヨナラ打。余韻に浸ったのは一瞬だった。ヒーローインタビューを終えると、帽子を後ろかぶりにして再びスイッチを入れ、ユニホーム姿のまま一塁側ベンチ裏のブルペンへ直行。約15分間で50球以上、ティー打撃で汗を流した。
調整を一任されるS班だった春季キャンプも午後は連日の居残り特打。「選手として真価が問われる」とひたすら汗を流してきた。トレーニングを手伝ってくれた裏方には必ず「遅くまですみません。ありがとうございます」と声をかける。昨オフの「甲斐組」大分合同自主トレを手伝った藤岡打撃投手は「拓が打てばうれしいし、打たなかったら悔しい。そういう気持ちになれる選手です」。育成選手から球界NO1捕手に駆け上がった男の野球への姿勢が、周囲の心を動かしている。
開幕から2、5、6、7番と4つの打順をこなしながら打率3割1分6厘。扇の要としてはもちろん、吉川、岡本の中軸の周りを固める打者としても存在感は抜群だ。「いい形で来てると思います。まだ始まったばかりでこれからいろいろあると思いますけど、準備するに越したことはないと思ってます」。百戦錬磨の男は最後に、頼もしく笑った。(内田 拓希)
◆宮本和知氏のPoint「交流戦ではさらに輝く」
追い込まれながら、おっつけてセンターへのサヨナラ犠飛。バットの調子もとてもいい甲斐だけど、彼のコミュニケーション能力には驚く。どの球場でも試合中にブルペンまで行って投手と会話を交わしている。いくら新しくチームに加入したからといっても、こんなキャッチャーは、今までにいなかった。リード面で投手陣の信頼を受けるのも当然。これから交流戦になれば、パの打者を熟知しているだけに、もっともっと彼の存在が大きくなるよ。