【スーパーGT基礎講座】4つのメーカーがしのぎを削る“タイヤ戦争”がスーパーGTを面白くする

2020年5月2日(土)10時31分 AUTOSPORT web

 年々観客動員数も増加し、2020年からドイツのツーリングカーシリーズ、DTMドイツ・ツーリングカー選手権との共通車両規定『Class1(クラス1)』も導入されるなど、世界的にも存在感を増しているスーパーGT。日本国内に目を向ければグランツーリスモSPORTにマシンが収録され、ゲームセンターではシリーズをイメージにしたゲーム機が稼働するなど、さらに認知度、ファン層が広がっている。


 4月6日時点で、2020年シーズンの開幕は7月11〜12日とされている。開幕までのおよそ3カ月の間、これからスーパーGTをチェックしようというかたのために、あらためてシリーズの歴史やレースフォーマットをおさらいしていく。熱心なスーパーGTファンのかたも、スーパーGTの魅力を再確認する機会になれば幸いだ。第8回目は世界でも珍しい争いが起きているタイヤについて解説しよう。


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 スーパーGTはGT500、GT300の両クラスともブリヂストン、ミシュラン、ダンロップ、ヨコハマの4メーカーが各契約チームにタイヤを供給している。F1を筆頭に世界のレースでは運営コストの面からひとつのタイヤメーカーが参戦全車に同じタイヤを供給するワンメイク化が進むなか、4メーカーがタイヤを供給するレースは世界的にもまれであり、スーパーGTが持つ魅力のひとつとなっている。


 参戦するタイヤメーカーにとっては、自社の製品をアピールすることはもちろんだが、スーパーGTという過酷な環境のなか、他社と比較しながらタイヤの研究・技術開発ができる場となる。スーパーGTで培われた技術は市販タイヤにも還元されるため、スーパーGTは“走る実験室”であると言える。


 2020年シーズン、トヨタ、ホンダ、ニッサンの3メーカーが開発したクラス1車両が合計15台エントリーするGT500クラスでは、ブリヂストンが9台、ヨコハマが3台、ミシュランがニッサン勢の2台、ダンロップがModulo NSX-GTの1台にタイヤを供給する。


 15車種30台がエントリーするGT300クラスではヨコハマが20台、ブリヂストンが5台、ダンロップが3台に供給するのに加え、7年ぶりにミシュランがGT300に復帰。PACIFIC NAC D’station Vantage GT3、SYNTIUM LMcorsa RC F GT3の2台にタイヤを供給する。


 特にここ数年、GT300ではブリヂストンがライバルを圧倒するパフォーマンスを発揮することが多く、ここにミシュランが加わることで、さらにタイヤ戦争が激化することが予想される。


■ドライタイヤとウエットタイヤ


 スーパーGTのタイヤはドライコンディションで使用されるドライタイヤ(使用セット数などは後述)と、ウエットコンディションで使用されるウエットタイヤの2種類に分けられる。


 ドライタイヤはタイヤ表面に排水用の溝がないスリックタイヤ。タイヤの表面が路面との摩擦熱で溶け、タイヤ横のサイドウォール部などが荷重の掛かり具合で伸び縮みすることで路面へのグリップ、粘着性を生み出す。


 温まり過ぎるとグリップがすぐに失われ、温まりが不十分だと理想のグリップを得られず、タイヤが適切に加熱された状態でなければパフォーマンスを十分に発揮できないため、内圧、表面温度だけではなくレース中の気温、路面温度に合わせたタイヤ選択とドライバーのタイヤマネジメントがレースを左右する。


 ウエットコンディションで使用されるウエットタイヤは市販車同様の排水用の溝付きだが、各メーカーともに独自のトレッドパターン(表面の溝の模様)を採用するなど市販車よりも過酷な状況での使用を前提とした高い排水性を備えている。


 開幕前のテストでは散水車でサーキットの路面に水を撒き、ウエットタイヤ専用のテストを行うなど、ウエットタイヤの開発にはどのタイヤメーカーも力を入れている。多いシーズンでは年8戦あるレースのうち半数近い大会でウエット宣言が出たこともあり、ウエットタイヤのパフォーマンスがレースの勝敗だけでなく、タイトルにも大きく影響することになる。


 スーパーGTではタイヤに関しても細かくレギュレーションが定められており、そのなかから“タイヤ戦争”に注目して観戦するために知っておきたいポイントを紹介しよう。

各チームともレーススタート直前までタイヤのコンディションをチェックしている


■タイヤの持ち込み制限


 スーパーGTではタイヤの硬さや軟らかさ、いわゆるコンパウンドの種類に制限はなく、仕様の違うタイヤを自由に持ち込むことができる。ただし、タイヤメーカーがサーキットに持ち込めるタイヤ本数は、レース距離が300kmまでの場合、1台当たりドライタイヤが7セット(28本)、ウエットタイヤが9セット(36本)まで。なお、レース距離が300kmを超える場合にはその都度GTアソシエイション(GTA)から持ち込み可能なタイヤセット数が発表される。


 コンパウンドに制限がない一方で、レースウイークに持ち込めるタイヤ本数が限られていることから、レースウイークの天候、気温などの予報、過去のレース時のデータ、実施されていれば事前テストのデータなどを基に、どういったタイヤを開発し、持ち込むのかを検討するところから戦いは始まる。


 ちなみに、第2戦以降、タイヤの供給先がシーズン中未勝利のタイヤメーカーは、ドライタイヤの持込み本数を1セット追加できる。わずか1セットと思われるかもしれないが、サーキットで使用できるタイヤの選択肢が増えることは戦略を組み立てる点でも大きなメリットになる。


■レースウィークで使用できるドライタイヤは24本


 サーキットへの持ち込み制限に加え、公式練習から決勝レーススタートまでに1台が使用できるドライタイヤは、6セット(24本)と制限され、この24本には公式練習前にマーキングされ、厳しく管理される。


 各チームの持ち込みコンパウンドの基本的なパターンとしては本命2セット、オプション2セット、保険用エクストラ1セット。または本命3セット、オプション3セットといったところ。


 もちろん、担当レースエンジニアやドライバーの好みやその大会でのウエイトハンデ、狙う順位などの戦略でこの組み合わせは変わってくる。


 公式練習ではマーキングされたドライタイヤ24本の中から自由に組み合わせて使用できるが、公式予選Q1、Q2ではそれぞれで1セットと制限される。そのため予選セッション中にピットに入りタイヤ交換することはできない。しかし、セッション中に雨が降り、競技長から『ウエット宣言』が出された場合にはマーキングされたドライタイヤとウエットタイヤの交換は許される。


 決勝レースでは予選後の抽選で選ばれたQ1、またはQ2予選で履いたタイヤを使ってスタートしなければならないため、Q1予選から決勝レースを見据えたタイヤマネジメントを求められるのもポイントだ。


■タイヤの加熱・保温は原則禁止


スーパーGTに参戦しているヨコハマタイヤ。高温多湿のタイ戦では平置きされていた(写真は2019年大会のもの)

 スーパーGTではタイヤウォーマーやドライヤーなどの機材を使って意図的によってタイヤを温める行為、保温するような行為はレギュレーションで禁止されている。しかし、太陽の日差しが当たって熱が入るような意図しない形のものは制限されていない。そのため、レースウイーク中のパドックではタイヤを並べて“天日干し”しているような場面も見られる。


 タイヤの加工なども原則禁止だが、タイヤかすなどのデブリが付着している場合は、スクレーパーのような器具を使って、デブリを取り除くことは可能。また公式予選後の車両保管が解除された後から、同日の作業禁止時間までは、ドライヤーなどで加熱しながらデブリを除去することが認められている。


 タイヤに関するレギュレーションがこれほどまでに細かく決められているのは、それだけタイヤがレース結果に与える影響が大きいということ。タイヤが重要なのはどのカテゴリーでも同じだが、スーパーGTでは各チームのカスタマイズされたタイヤを使用してタイヤメーカーごとのコンペティションがあるため、よりその重要性は高い。


 ドライバーのテクニックやマシンのパフォーマンスを路面に伝えるタイヤに注目すれば、よりレースを深く楽しめるはずだ。


 次回はGT500クラスにおけるトヨタ、ホンダ、ニッサンの3メーカー対決をご紹介しよう。


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