【内田雅也の追球】 「なぞ」のチョーキング
2025年5月2日(金)8時0分 スポーツニッポン
◇セ・リーグ 阪神2-3中日(2025年5月1日 バンテリンD)
阪神・近本光司がどこかおかしい。敗戦後に会った、左の強打者だったOBが「近本が心配やね」と漏らしていた。
5打数無安打で打率3割を割った。とにかくチャンスで打てないのだ。
3回表1死二、三塁、4回表2死満塁、6回表1死二、三塁と3度好機で打席が巡り、二ゴロ、遊ゴロ、三振と1人の走者も還せなかった。
今季得点圏成績は27打数2安打(2打点)で打率は1割にも満たない7分4厘。リーグ規定打席到達者で最下位である。
近本はもともとチャンスに強いと定評があった。プロ2年目2020年から昨年まで5年連続で得点圏打率3割台。リーグ優勝を果たした一昨年は99打数37安打で自己最高の3割7分4厘、43打点を記録していた。
大リーグでは長年「なぜ好機に強い打者と弱い打者が存在するのか?」という研究が行われているが、いまだに答えは出ていない。得点圏打率が低かった打者が翌年は高打率を残したり、傾向がつかめないのだ。心理学者マイク・スタドラーは『一球の心理学』(ダイヤモンド社)でデータを並べたうえで「なぞ」としている。
好機に強い打者は「クラッチ」と呼ぶのはよく知られている。好機に弱い打者は「チョーク」で、食べ物などがのどに詰まって窒息している状態を言う。走者を還せず、息苦しい状態なわけだ。
スタドラーは<また失敗するのではないかと考えてしまうと、プレッシャーとなってチョーキングを引き起こしてしまう>と記している。近本もこの悪循環に陥っているのだろうか。
ただし、この夜の敗戦の責任は近本ばかりにあるのではない。チームとして得点圏でのべ12人が打席に立ち、9打数2安打3四球で打点0。安打は投手・大竹耕太郎の左前打と代打・渡辺諒の投ゴロ内野安打で走者は還せなかった。
「長いペナントレース、今がそういう時期かな」と監督・藤川球児は言った。そう近本もシーズンが終わってみれば、得点圏打率3割を打っているかもしれない。打線低調の辛抱の時期なのだ。
冒頭のOBも「いや、甲子園に帰ったらまた打ちだすかもねえ」と笑い、心配を打ち消した。
新緑の季節。屋根付きドームで息が詰まった。きょう2日からは光と風に包まれる甲子園が待っている。 =敬称略=
(編集委員)