【内田雅也の追球】一丸が見えたけん制球
2025年5月28日(水)8時0分 スポーツニッポン
◇セ・リーグ 阪神1—0DeNA(2025年5月27日 倉敷)
阪神の投手陣はよく投げた。特に救援5投手は1人の走者も許さなかった。文字通りパーフェクトな投球で流れを引き寄せたのだった。
7回表1死一、二塁で登板した及川雅貴は自身の暴投で二、三塁とピンチを広げたが、3、4番を連続三振に切った。
苦しい投球だった先発・才木浩人はそれでも無失点で踏ん張った。5回まで毎回の6安打を浴びていた。そして6回表は1死から連続四球を与えて一、二塁。捕手・梅野隆太郎がタイムを取り、内野陣がマウンドに集まった。ひと呼吸入れ、才木を励ましたのだろう。
蝦名達夫を三振に取り2死。迎えた京田陽太の初球は外角低め直球のボール球。捕球した梅野はすかさず二塁に投げた。木浪聖也がベースカバーに入っていた。捕手からの二塁けん制だった。二塁走者・松尾汐恩はあわてて戻りセーフだった。
さらに1ボール—1ストライクから今度は木浪がベースに入り、才木からけん制球をもらった。
この2度のけん制球に野村克也の言葉を思いだした。阪神監督当時に語っていた。ピンチの際の心情や姿勢について語った。「投手というのは良くも悪くも、自分が打者を打ち取ることしか考えていない」いわゆる投手族の性格をあげた上で次のように話した。
「だが、他に守っている野手は違う。特に捕手や内野手は、打者への投球以外で何とかアウトを取れないか、投手を助けられないか……と考えるもんや。それがけん制球という形になって表れる。一つの全員野球の姿と言えるんやないか」
まさに、この時の2つのけん制球ではないだろうか。アウトは取れなかったが、才木自身も野手の協力姿勢を感じ取ったのではないだろうか。
けん制後、速球で京田を二ゴロに打ち取り、ピンチを切り抜けた。
さらに7回表、投手のトレバー・バウアーから連続四球で無死一、二塁のピンチを招いた。牧秀悟の大飛球を近本光司が好捕して1死。才木は降板となった。後続は先に書いたように及川がしのいだ。才木は降板後の談話で「野手のみんなにいい守備で助けてもらいました。しんどい場面をしのいでくれた及川にも感謝です」とあった。
苦しい誰かを誰かが助けようとする。全員野球、あるいは一丸姿勢が垣間見えた勝利だった。 =敬称略=
(編集委員)