GWなどの長期休暇後、調子が悪そうな同僚のへの声かけは「共感」「傾聴」「ねぎらい」。変化が多い季節のうつ病に注意
2025年5月7日(水)12時30分 婦人公論.jp
イメージ(写真提供:Photo AC)
身近な人に看護・介護が必要になったとき、みなさんはどこに相談しますか?
総合的な相談先として、主治医の所属機関を問わず、活用できるのが「訪問看護ステーション」です。
その地域に開かれた独立した事業所である「訪問看護ステーション」に、黎明期から関わり、自ら起ち上げた「桂乃貴メンタルヘルスケア・ハートフル訪問看護ステーション中目黒」で、自分自身も看護に当たるのが渡部貴子さん。
自らの経験を元に、介護や看護で困っている方への質問・疑問に答えてもらうのがこの連載です。第12回目は、「長期休暇後、調子が悪そうな同僚への声かけ」についてです。
(構成:野辺五月)
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前回「介護や看護に困ったら【おとなの相談室】11」はこちら
鬱のシーズンが到来
Q:最近同じチームの同僚が心配です。ぼーっとしていることが目に見えて増えており、疲れているように感じるのですが、声をかけていいものでしょうか。もし精神的においつめられているようだったら、「大丈夫?」と言ってはいけない、と聞いたこともあります。
何かできることはあるでしょうか。アドバイスお願いします。
A:声をかけてあげることは、とても良いことだと思います。難しい場合は誰か他の人からでも構いませんが、本人が思いのたけを吐き出せる場所になれそうならば、「聴く」努力によって救われる場合もあります。
実は、春は一番うつ病になりやすい季節と言われています。
特に3、4月から環境が急に変わることが原因とされていますが、侮れないのは5月です。五月病とは、就職や入学など新年度の始まりと長期休暇明けの、心身の不調を指す言葉で、実際の病名ではありません。よくあがる症状としては、何となく気分が乗らない、無気力が続く、もやもやするなどメンタルの部分や、疲労感や倦怠感、食欲不振や不眠、胃腸の不調など多岐にわたります。
「うつ病は心の風邪」と言われるときもありますが、長引けば自殺のリスクがあがるなど簡単ではない一面もあります。一方で、日本におけるうつ病患者数は過去数年で大幅に増加しており、その数は約4倍に達している事実も……。すぐそばにある病気でもありますが、正しく知って、正しく関われば、備えられる病気でもあるのです。そこで今回は大型連休明けに向けてどうしていくべきかをお送りします。
どこからうつ病を疑った方がいいのか? 自分も周りも注意出来る範囲とは?
詳しく知りたい方は専門機関を利用していただきたいところではありますが、まず一般的な目安を見ていきましょう。
注意したい症状とは?
自分の症状や周囲にこんな人がいたらご注意を……という部分をまとめてみました。チェックするときの参考にしてください。
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・食べられない、食べられる量が極端に少なくなっている
・眠れない、眠りが浅い日々が続いている、眠そうにしている
・表情が無表情になる、喜怒哀楽が薄い(「何をやっても楽しくない」と言うなど)
・敏感になり、泣くことが多い、笑わない、不安そうにしている
・人に会いたくない、1人になりがたる(「放っておいて」、「誰とも会いたくない」と言う人がいたら要注意です)
・集中力の低下(周りからわかるミスの多さ)
・離席が多くなる
・当日欠勤や遅刻が増える
・整理整頓が出来なくなる(デスク周りが急に汚くなる。※元々ではなく急に)
・被害者的発言が増える(どうせ私なんか……と認知が歪んでくる)
・電話の応対が苦手になる
自分で気づければいいのですが、周囲からでもかまいません。
これらの項目にチェックが多く見られるようならば……危険なサインです。(なおそれが2週間以上続くようなら通院を勧めたいところです)
特に、外側から顕著なのが表情と集中力の低下です。また本人も自覚がしやすい部分で、大きく問題化していくのが「食べられない」「眠れない」というフィジカルな部分です。
そんな、症状は理解したけれど、どうすればいいのか? 周りから声をかけたいところではありますが、具体的にどうすればいいのか? どんな声を投げかけるべきなのか?を見ていきましょう。
出来ることは大きく分けて二つあります。
一つは「心の中にあるものを外に出す」よう促すこと。もう一つは「環境の維持」です。
「話す」は「手放す」に繋がる
心の中にあるものを外に出す=「話す」ことは(重い気持ちを)「手放す」ことに通じます。
思考を整理し、SOSを出しやすくするために非常に重要です。辛さを理解し、共感してあげたいところですが、デリケートな状況に対して何がNGなのか分からず、困るという方も多いでしょう。
「うつ病=励ましてはいけない」とはよくよく言われることですが、声のかけ方を正しく理解すればよいのです。
どんな言葉なら届くのか?話を聞くとは何なのか?
此処での軸が「共感」「傾聴(耳を傾ける)」「ねぎらう」の三つです。
スタンダードな声のかけ方としては、まずは「どうしたの?」「疲れているのかな」「心配ごとある?」「不安な部分があれば教えてほしいな」などがあります。
具体的な「焦り」「苛立ち」の大元を一緒に見つけていく方向です。
お節介は良くないといわれますが、声をあげるのは非常に重要です。では、その上で普段のコミュニケーションと違う部分を挙げるとすると、「否定の禁止」です。
「違うじゃん」「それって……では?」と思ってしまう気持ちもわかるのですが、こういうときは、まず聞く側に回りましょう。否定を排除した「特殊なコミュニケーション」だと思って、否定はせずひたすら話を聞く側に回ります。具体的に悩んでる部分がないか、気にかかる部分がないか……紐解くことで人間は楽になるものなのです。
次いで効果的なのは「ねぎらい」です。「頑張っているもんね」「頑張ったんだね」「大変だったね」「おつかれちゃん」などなど……ねぎらう言葉を普段から沢山ストックし、使えるようにしておきましょう。
心に不調が出る方には、一生懸命で真面目な人が多いのも特徴です。しんどさを理解して、ねぎらう……相手も自分を否定しないことは非常に重要になっていきます。
反対にNGワードもあります。「違う」「だめ」という分かりやすい言葉以外にも、例えば「忙しい状況なんだから当たり前でしょ」「甘えないで頑張って」などの言葉も要注意。現状が悪くなることはあっても、よくなることはありません。たとえ、優しい声をかけるのは厳しい状況でも、一旦叱咤の言葉は避けて、まず状況を把握するように努めること……何がひっかかっているのか、厳しいのか、具体的に話ができる姿勢に持っていくことが大切です。
周囲も助けやすい?!環境の維持
さて、もう一つ「環境の維持」についてです。
職場でうつ病になる一番の問題は、業務上のタスクが多すぎることです。もし仕事のタスクの中に、コントロールできない部分があれば、そこをテコ入れしていく必要があります。
細かなチェックが必要な業務が原因であればダブルチェックや、フォローの体制を相談することもできるはずです。
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休み明けの五月病に関して言えば、ここでも周りが解決に向けて動けることは多くあります。部署替えによる不慣れもそうですが、休み明けはどうしても止まっていたものが一気に動いたり、暫くぶりで思い出せないタスクがあったり……と物理的に作業量ややりとりが増えることが多いからです。中でもただただ量が増えるだけならいいのですが、相手あってのことについては、注意が必要です。引き受けられるタスクがあれば、上司や周囲と相談して、引き受けながら持ちつ持たれつで動いたほうが結果的に効果的です。
なお、部署や配置換えによって起こる春先の人間関係のトラブルに関しては、何とかなりそうならば、原因に触れずに済むようにならないかを相談する手もあります。人事やコンプライアンス課など然るべき部署があるならば、頼ってみても構わないでしょう。
(自分ごとではなく、誰かを助けたい場合)会社のルール上、当人が動かないと解決しない場合もあるでしょう。だとしても、「何が問題になっているか」の要因を知っておくことで、解決の糸口になる場合もあります。
また環境の一つに、眠る・食べるの問題もあります。
眠る部分は難しいにしても、例えば職場でのランチは「環境の一つ」です。症状が酷くなったら勿論医者にかかることを勧めるのが先決ではありますが、「ちょっとおかしいな」という段階では、「食べられていない」ことが上がるケースは非常に多いです。食べられていない状況は比較的周囲が気づきやすい部分でもあります。あれ?と思ったら、一声かけることは悪いことではありません。無理に聞きだす必要はありませんが、「どうしたの?」は決して悪いことではないので、誤解しないようにしてください。
どのタイミングでどこを尋ねればいいのかについては、また別途お知らせしたいと思います。長期休暇明け、調子が悪そうだな?何かおかしいなと思ったときは、まず「声かけ」「話を聞く」から始めてみましょう。
次回はいざというとき、どこに行くかの話についてお届けできればと思います。