大相撲戦国時代<次の横綱>と目される力士を藤井康生に聞いてみると…「彼の名を即答。誰も太刀打ちできないほどの最強横綱になる可能性を秘めている」
2025年5月24日(土)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
今年も大相撲五月場所が盛り上がりを見せています。そんななか、「今の十両や幕下以下を見渡すと、のちの横綱や大関を期待したくなるような若い力士が次から次へと出現しています」と話すのは、NHKで1984年から2022年まで、その後ABEMAで今も実況を担当している元NHKアナウンサー・藤井康生さんです。そこで今回は、藤井さんの著書『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』から一部引用、再編集してお届けします。
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次の横綱は誰か
私自身、競馬などでは大穴を予想したい人間なのですが、「次の横綱は誰か」という質問に対しては「大の里」と即答するしかありません。これは、すでにかなりの好角家や大相撲ファンも衆口一致ではないかと思います。
大の里の素質や体は申し分ありません。相撲を取るために生まれてきたと言っても過言ではないでしょう。それほどとびぬけた逸材です。歴史に残るような最強横綱になるのではないか。そうまで思わせる日本人力士が現れました。
相撲でプロとアマの差は何かというと、体の芯から湧き出る力の違いです。大相撲経験者は必ずその部分の差を指摘します。
ですから、過去に鳴り物入りで大相撲界に入ってきた若者でも、その大半が、大相撲で何年も稽古を積んできた力士の圧力にまずは度肝を抜かれてきました。
さらに馬力に磨きがかかる
ところが、大の里は違いました。令和5(2023)年五月場所、幕下10枚目格付出で初土俵を踏みます。力士として最初の一番で石崎(現朝紅龍)に突き落としで敗れましたが、圧力に屈したわけではありません。攻め込みながら詰めを誤り、逆転負けを喫した相撲でした。
その後の闘いを見ても、ほとんどが自ら強く当たって圧力をかける攻めの相撲でした。大相撲経験の豊かな力士を相手にしても、圧力や馬力で劣ることはありません。むしろ、負ける時は、自身の圧力が強く出足が良すぎて、土俵際で逆転される相撲がほとんどでした。
入門から1年半、大の里はさらに馬力に磨きがかかりました。横綱照ノ富士と対戦しても、立ち合いの当たりでは引けを取りません。
あとは、勝負の詰めをしっかりすること。そのためには腰の高さも改善していかなければなりません。そのあたりは本人が一番理解しています。
大の里はまだまだ発展途上
そしてもう一つ、細かい技を磨くことです。対戦相手からのマークも、場所ごとにきつくなっていきます。大の里としては得意の右四つになるためにはどうすればよいのか。不利な体勢になった場合にどう対処すればよいのかを考えなくてはなりません。
対応力を磨くには日々の稽古しかないでしょう。まだまだプロの世界での経験ではほかの力士に勝てないわけですから、経験の浅さを稽古で補わなければなりません。黙々と稽古を積むことも大事ですが、自らの足りない点を集中的に繰り返し繰り返し稽古で補っていく必要があります。
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
あとは、師匠の教えです。大の里の課題は、師匠である二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)が一番よくわかっています。
師匠がどう教えていくのか、課題をどう克服させるのか。これは、大の里という万人が認める大器だけに、師匠の手腕にもかかっています。
場所ごとに強くなっていく大の里の姿を見る楽しみも湧いてきました。ですが、大の里はまだまだ発展途上です。もっと強くなります。すべてがかみ合ってきたときに、それが2年後か3年後か、誰も太刀打ちできないほどの最強横綱になる可能性を秘めています。
大の里の完成した姿を見たい
大の里を独走させないために、同い歳の平戸海をはじめ、後続の有望力士たちが次々に迫ってきます。もちろん、現時点で大の里に先んじている横綱豊昇龍(ほうしょうりゅう)や先輩大関琴櫻も黙ってはいません。他の力士たちが手をこまねいているようでは、大相撲の面白さが半減します。
大の里を簡単に横綱にさせているようでは、大相撲の魅力が薄れていきます。周囲の包囲網をかいくぐって本物の力をつけてこそ「最強の日本出身横綱」の誕生につながります。
双葉山、大鵬、北の湖、千代の富士、貴乃花……。歴史に輝く日本出身の横綱の名は今も語り継がれます。そのすべての横綱が、自分自身の課題を克服しながら頂点に君臨しました。
大の里はこの先10年、大相撲界を引っ張っていかなければならない力士であり、それが可能な逸材です。その完成した姿を見るまでは、私も大相撲への関わりを持っていたいものです。
※本稿は、『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(発行:東京ニュース通信社、発売:講談社)の一部を再編集したものです。
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