刺身よりもサクよりも断然お得でおいしい…元水産庁職員直伝「通な人がマグロを買うときにするリクエスト」

2025年4月13日(日)18時15分 プレジデント社

家庭用のまな板からはみ出すぐらい大きなマグロのコロ(カタマリ)。重さ1.7キロ! - 筆者撮影

食卓に魚料理が並ぶ機会が激減している。どうすれば気軽に魚料理の頻度をあげられるか。元水産庁職員の上田勝彦さんは「刺身やサクで買うと割高になる。例えばマグロならコロというカタマリで買うと血合いや皮もついてきて、メニューのバリエーションが増え食べ応えがある」という。ライターの大宮冬洋さんが実践した——。
筆者撮影
家庭用のまな板からはみ出すぐらい大きなマグロのコロ(カタマリ)。重さ1.7キロ! - 筆者撮影

■肉の消費量が魚を逆転してはや14年


日本人は魚と肉のどちらが好きなのか。データでは残念ながら魚が負け続けている。農林水産省の食料需給表によれば、食用魚介類の一人当たりの年間消費量は2023年度で21.4キロ。ピーク時の2001年度は40.2キロだったのでほぼ半減している。一方の肉類の消費量は増加し続けていて、2011年度に魚を逆転。2023年度の消費量は33.9キロに達している。


とはいえ、回転寿司はたいてい盛況だし、デパ地下の刺身や寿司のコーナーにも客足は絶えない。「新鮮な魚はやっぱり旨いよね。魚にもまだ勝機はある!」と思えてくる。外食や中食はどうしても高くつくし食べ飽きるので、我々消費者がいかにお得にかつ美味しく自炊できるかが魚食復活の分かれ目になるだろう。


■マグロの中でもお手頃価格なのは…


お得な買い物に不可欠なのは自分の好みを細かく知ることだ。例えば、マグロ。クロマグロはやたらに珍重されて初競りだと億単位の値がつくけれど、あの濃厚な味がそれほど好きでないのであれば、さっぱりした味わいを楽しめるキハダマグロ(以下、キハダ)を買えばいい。ビンチョウマグロと並び、マグロの中では比較的安価だ。


「さっぱりしているという言い方もあるとは思うけど、噛みゆくほど次第に伝わるクセのない旨味と、飲み込んだ後の余韻が短くてキレがあるのがキハダの特徴だね。だからこそ次のひと切れに箸が出る。濃厚で血の味が強く噛み始めから直球で伝わるクロマグロやメバチの旨味とは別物。キハダはお腹いっぱい食べても飽きない。酒も飲めるが飯も食える」


キハダの魅力を存分に語ってくれるのは、元水産庁職員で「魚の伝道師」の異名を持つ上田勝彦さん。現在は神奈川県鎌倉市にある鮮魚店「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」にアドバイザーとして入っている。前回は小魚のマイワシを教えてもらったので、今回は100倍以上の大きさがあるキハダを「丸ごと」味わう方法を聞きたい。


写真提供=サカナヤマルカマ
これが今回のキハダマグロ。46キロもあり、マルカマの女性スタッフでは持ち上げられなかったようだ - 写真提供=サカナヤマルカマ

■生マグロの特徴はモチモチした歯ごたえ


上田さんによれば、キハダの魅力は味だけではない。生で手に入りやすいマグロなので食感が抜群なのだ。キハダは相模湾などの近海でも豊漁の年があり、首都圏の鮮魚店やスーパーに生で出回ったりする。マグロは冷凍と生鮮の味の違いは大きい、と上田さん。


「特にキハダの冷凍は、口触りが羊羹のように味気ない。対して生は、モチモチと柔軟で、噛み進むと口中に絡みつくように広がり、そこから飲み下すときまで一連の心地良さがあるね。こうした特徴の身は、クロ(マグロ)やメバチのような濃い味ではくどくなる。つまり、キハダの美味さはキハダを以て代え難し、というわけだ」


この日にマルカマにあったのは、3日前に相模湾の定置網にかかって小田原漁港で水揚げされた46キロのキハダ。マルカマで解体されて、大きな塊ごとに脱気したビニール袋の中へ。それを氷水の中で熟成していた。もちろん、生だ。ぜひ買って食べたい。


何十キロにもなるキハダを一尾丸ごと買うのは現実的ではない。上田さんに相談すると、「コロ(カタマリ)」という概念を教えてくれた。


「マグロの身は、通常の三枚おろしではなく、真ん中から割って背ビレ側の『背』と腹ビレ側の『腹』」に大きく分けられる。背は赤身主体で脂が少なく、腹は多くてトロもとれる。更に頭から尾にかけて、30cmずつ『カミ』『ナカ』『シモ』の3つに分けられて、尾に近づくほど筋肉が強くなりスジも多くなるよ。半身が6つに分かれるので、大きさにもよるが、1尾のマグロから12個のコロがとれることになるね」


コロ入りの袋を手に取ってみると1つずつがずしりと重い。1尾じゃなくても十分に「丸ごと」感がある。


筆者撮影
キハダマグロの巨大なカマ(エラの横にある胴体側の部位)を見せてくれる上田さん。「丁寧な仕事で魚のすべてを無駄なく活かす」がマルカマの基本方針の一つ - 筆者撮影

■生のマグロはコロ(カタマリ)を共同購入するのが正解


筆者がマルカマで買えたのは「背のシモ」。量ってみると1.7キロを超えていた。100グラム900円なのでコロ1つ1万5300円。ちょっと腰が引ける値段だが、趣味と家族サービスを兼ねていると思えば高くはない。鮮魚店に生のマグロがサク(刺身にしやすい形に切り分けた身のこと)で売っていたら、「コロで売ってもらえますか?」と聞いてみればいいのだ。なければ事前に予約できる場合もある。


一般的に、マグロはサクか刺身になってパックで売られている。しかし、コロで買ったほうが美味しくてお得で、いろんな味わいを楽しめるという。


「サクにすると空気に触れる部分が多くなってどんどん酸化してしまう。コロから自分で切り出したサクを食べてみて。断然、味わい深いよ。家族で食べ切れないなら仲間とシェアしよう」


■マグロは捨てるところなし。皮も血合いも美味しい


キハダの共同購入をすすめる上田さん。なぜお得なのかと言えば、コロには皮も血合いも付いているし、サクを切り出していると切れ端も生じるから。店ではそれらを取り除いて見た目がいい部分だけをサクにするので当然高くなるし、職人の加工賃も上乗せされる。


皮、血合い、切れ端もそれぞれ適切に調理すれば絶品。共同購入の仲間さえ確保できれば明らかにコロのほうがお得なのだ。今回のコロは飲食好きのご近所5世帯が喜んで消費を手伝ってくれたので、筆者の負担は1万円ほどに抑えることができた。


筆者撮影
マルカマではすき身(切れ端)もちゃんと商品にしている。こちらは「腹」から取れた中トロのすき身 - 筆者撮影

■透明感がある刺身はきめ細かくてモッチリした食感


マグロのコロからサクを切り出す方法はYouTubeでたくさん公開されているが、実際に自分でやるとけっこう難しい。でも、切れ端がたくさん出てしまっても、漬け丼などに使えるので問題ない。まずは刺身で食べてみよう。上田さんによれば、刺身はとにかく切り方が大事「角度と幅でテクスチャー(食感)が変わり、味も変わるから」だ。


「脂が多いところは薄くしていいけれど、赤身は薄すぎると食っている気がしないよ。切り方で味を最適化することを覚えてほしい」


筆者はサクの右側から包丁を真っすぐ入れて(平造り)、6ミリほどの刺身にして口に入れた。こ、これはすごい! 赤いルビーのように透明感がある刺身はきめ細かくてモッチリした食感。マグロ特有の血の味は少なく、噛んでいると爽やかな旨味が広がる。


上田さんに教えてもらった「キハダの酢締め」も素晴らしかった。サクに塩を当てて10分ほど置き、流水で洗って拭き、30分間ほど酢に漬けるだけ。酢をしっかり拭き取って、ワサビ醤油で食べる。酢の作用なのか、砂糖を入れていないのに刺身と比べて甘みを感じる。うーん、日本酒もいいけれど、白ワインを飲みたくなるぞ。


筆者撮影
自宅でサク取り完了。かなり仕事が粗いが、自分と仲間で消費するならばこの程度でも十分だ - 筆者撮影

■血合いはニンニクレアステーキで、皮はネギポン酢に


圧巻だったのは、普段は手に入れにくい血合いと皮がご馳走に変身したこと。マグロの血合いはサクと同じぐらいの大きさがある。上田さんは「ニンニクレアステーキ」をすすめてくれた。


オリーブオイルをフライパンにひいて中火にし、薄切りのニンニクを焦げない程度に熱して香りを出してから血合いを投入。トングで返しながら表面に焦げ目をつける。中心にまで火が通り切らないタイミングで引き上げて皿に盛り、残った油に醤油とバルサミコ酢を入れてソースを作って回しかけた。


歯ごたえは牛モツに近いようなブリッした弾力を感じる。表面は焦げ目とにんにくの香りがして、中からは旨味がどんどん出てくる。こんなステーキを自宅で食べられるなんて幸せだな……。


次は皮だ。とても固くて、鱗も取りにくい。でも、沸騰したお湯の中に入れると柔らかくなり、縮むので鱗も取れる。上田さんはすかさず注意してくれる。


「茹で過ぎるとトロトロに溶けてしまうよ。身が縮んだら引き上げて冷水にとってから、鱗や汚れをとる。細切りにしてネギポン酢で食べてみな」


マグロのネギ皮ポン酢なんて初めて食べるけれど、すごい歯ごたえ! 酒肴で出してくれる和食店があったら通いたくなるぐらいだ。


筆者撮影
手前が血合いのニンニクレアステーキ。奥がスジの多い赤身のステーキ。バラ色の食卓! - 筆者撮影

■パサつかずに甘みを感じる竜田揚げ


筆者が購入したコロは尾に近い「シモ」なのでスジが多い。太いスジがあるところは刺身で食べると口に残ってしまう。加熱すればスジも柔らかくなるそうなので、竜田揚げにしてみた。


今回、竜田揚げだけは失敗。醤油・酒・みりんの漬けダレの量が多すぎ、さらには揚げる時間が長すぎて少し固くなってしまったのだ。それでもパサつかずに甘みを感じるのだから、生のキハダの実力を感じた。


締めはキハダの漬け丼。集めておいた切れ端をワサビ醤油に10分間ほど浸し、みじん切りのネギと混ぜて熱いご飯にのせるだけ。醤油で脱水された分だけキハダのきめ細かさが際立ち、刺身で感じたモチモチ感を通り越してムッチリ感に。歯に吸い付くような食感だ!


上田さんによると、この丼はお茶漬けにしてもいい。なるほど。血合いやスジが多い切れ端の部分はお茶で加熱したほうが食べやすい。そして、キハダのダシが出たお茶はしみじみと旨い。


刺身、酢締め、ニンニクレアステーキ、竜田揚げ、ネギ皮ポン酢、そして漬け丼。共同購入の仲間は雪山でのソロキャンプでこの海の幸を存分に楽しんだ、と写真を送ってくれた。あのコロは我が家を含めた6世帯の週末を彩ってくれたのだ。良きものを大事に分かち合うと絆が深まる気がする。丸魚は、美味しくてお得で人と人とをつないでくれるのだ。


写真左=筆者撮影/写真右提供=ヨシコさん
写真左=こんなに旨いならば全部ヅケでもいい、と思うほど満足感が高かった漬け丼。半分残してお茶漬けにした。写真右=キハダマグロを分けた仲間のソロキャンプの様子。「刺身はもちろん、ネギ皮ポン酢が日本酒に合い過ぎます!」と興奮気味に報告してくれた - 写真左=筆者撮影/写真右提供=ヨシコさん

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大宮 冬洋(おおみや・とうよう)
フリーライター
1976年埼玉県所沢市生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。著書に『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せの見つけ方〜』(講談社+α新書)などがある。2012年より愛知県蒲郡市に在住。趣味は魚さばきとご近所付き合い。
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(フリーライター 大宮 冬洋)

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