【角田裕毅を海外F1解説者が斬る】レッドブルでの挑戦の序章。3戦に見えたプラス要素と必要なアプローチ

2025年4月29日(火)8時2分 AUTOSPORT web


 F1での5年目に突入した角田裕毅は、2025年第3戦からレッドブル・レーシングのドライバーとして新たなチャレンジをスタートした。元ドライバーでその後コメンテーターとしても活躍したハービー・ジョンストン氏が、角田の戦いについて考察する。今回は第3戦から第5戦の日本GP、バーレーンGP、サウジアラビアGPを振り返る。



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「いやあ、残念だな」と私はつぶやいた。仲間たちと一緒に我が家で酒と肴を楽しみながら、サウジアラビアGPを観戦していた時のことだ。


 スタート直後、マックスがターン2をカットして、ピアストリの前に戻るという出来事があったが、あれはいつもの彼の得意技なので、あまり気に留めなかった。それよりも、ターン4での角田裕毅とガスリーの接触だ。


 プラクティスと予選で素晴らしいパフォーマンスを見せたガスリーが、本当に気の毒でならなかった。角田にとっても残念な出来事だった。走り続けていれば、メルセデスのアントネッリと戦って、それなりのポイントを持ち帰れたはずだからだ。


 このレーシングインシデントがどうやって起きたのかを振り返ってみる。ガスリーは前にいて、ブレーキングを遅らせたうえで、コーナーをしっかり曲がっていた。裕毅はイン側の路面が汚れたエリアにいて、できるだけポジションを落とさずに回り込もうとした。しかしスペースがなく、接触が起きて、ゲームオーバー。ふたりはチャンスを失ったわけだ。



2025年F1第5戦サウジアラビアGP 角田裕毅(レッドブル)とピエール・ガスリー(アルピーヌ)

 さて、レッドブルドライバーとしての最初の3戦を見て、角田に対する最初の評価を下すべき時が来た。


 まず、今年最初の2戦だけを走ったリアム・ローソンより角田の方がはるかに良い走りをしていると結論づけることができる。鈴鹿では予選Q2で敗退したが、バーレーンとサウジアラビアではQ3に進出し、チームの期待に応えた。


 シミュレーターでレッドブルRB21を試した後には、それほど運転しづらいとは思わないと言っていた角田だったが、実際にコース上で限界までプッシュしてみて初めて、これがほとんど悪魔的なマシンであることを思い知らされた。


 プラクティスでのパフォーマンスを見ると、ほとんどの場面で角田はフェルスタッペンにかなり近づけているのが分かる。しかし予選と決勝になると話は別だった。


 すでに鈴鹿のFP2での予選シミュレーションで両者の間にかなりのギャップが生まれていた。限界までマシンをプッシュした際の挙動にまだ対応しきれていない角田は、Q2で敗退。Q1よりもわずかにラップタイムが遅くなり、対してフェルスタッペンは0.4秒以上タイムを縮めた。


 ただ、レッドブルがQ2の初めに角田にユーズドタイヤを履かせたことは、間違った判断だった。チームは角田はQ3に進めると確信していたのだろう。



2025年F1第3戦日本GP 角田裕毅(レッドブル)

 バーレーンではさらに厳しい状況に陥り、ソフトタイヤでクリーンなラップを記録できないまま臨んだ予選で、Q1突破に苦労した。しかし角田は素晴らしいリカバリーを見せてQ3に進出し、10番手を獲得。レースでは常にポイント圏内を走り、9位でフィニッシュした。


 ジェッダでは、FP2での不必要なクラッシュが自信を揺るがしたかもしれないが、FP3で良いパフォーマンスを発揮した。ラップタイムを着実に向上させ、フェルスタッペンのベストタイムからわずか0.3秒遅れの9番手を獲得したのだ。今後に向けて正しいステップを踏み出したといえよう。


 予選Q1で5番手タイムを記録したことで、期待は一気に高まった。Q2でも7番手という好成績を収め、角田は再びQ3進出を決めた。しかしその後のQ3では、物事は計画どおりに運ばなかった。新品タイヤでの唯一のアタックでミスをしてしまったのだ。


 しかし見逃していた人もいるかもしれないが、角田はフェルスタッペンがポールポジションを獲得するためのサポートをしていた。


 角田は自分のアタックの後、チームメイトにスリップストリームを提供してからピットに戻った。フェルスタッペンは2番手とは0.01秒差でポールを獲得したが、角田のトウがそれ以上のアドバンテージをもたらしていたことは間違いない。



2025年F1第5戦サウジアラビアGP 角田裕毅(レッドブル)

 ここまでレッドブルで3戦を戦って角田は2ポイントを獲得。レーシングブルズでの序盤2戦で稼いだ3ポイントを下回っている。しかし、シーズンは長い。


 角田がすべきことは、小さなステップを積み重ねて着実に進歩し続けることだ。さらに、レッドブルのエンジニアリングチームに、少し譲歩してもらい、彼のためにRB21を限界領域で扱いやすいマシンにするよう説得するのだ。彼らは自分たちのマシンとセットアップを素晴らしいものと考え、変化をなかなか受け入れない集団であるため、それが簡単でないことは分かっているが。


 彼にひと言アドバイスをするなら、「一歩一歩着実に進め」と言いたい。彼のシーズンは、短距離走ではなくマラソンとして見るべきなのだ。



2025年F1第4戦バーレーンGP 角田裕毅とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

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筆者ハービー・ジョンストンについて


 イギリス出身、陽気なハービーは、皆の人気者だ。いつでも冗談を欠かさず、完璧に道化を演じている。彼は自分自身のことも、世の中のことも、あまり深刻に考えない人間なのだ。


 悪名高いイタズラ好きとして恐れられるハービーは、一緒にいる人々を笑顔にする。しかし、モーターレースの世界に長く関わってきた人物であり、長時間をかけて分析することなしに、状況を正しく判断する力を持っている。


 ハービーはかつて、速さに定評があったドライバーで、その後、F1解説者としても活躍した。彼は新たな才能を見抜く鋭い目を持っている。F1には多数の若手育成プログラムがあるが、その担当者が気付くよりもはるかに前に、逸材を見出すこともあるぐらいだ。


 穏やかな口調でありつつも、きっぱりと意見を述べるハービーは、誰かが自分の見解に反論したとしても気にしない。優しい心の持ち主で、決して大げさな発言や厳しい言葉、辛辣な評価を口にせず、対立の気配があれば、冗談やハグで解決することを好む。だが、自分が目にしたことをありのままに語るべきだという信念を持っており、自分の考えをしっかり示す男だ。

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