日本で痛打されたのになぜ? 今永昇太の“高めの直球”がMLBで異彩を放つ理由 背景にあったバウアーの「逆説」

2024年5月11日(土)7時0分 ココカラネクスト

カブス入団以降、メジャーの強打者たちを見事に手玉に取っている今永。その投球に称賛の声が相次いでいる。(C)Getty Images

バウアーが見出していた日本での「最適解」

 戦いの場を、至高の舞台であるメジャーリーグに求め、今年1月にポスティングシステムを利用して海を渡った今永昇太(現カブス)の存在感は、日々高まっている。

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 名門カブスのユニフォームに身を包んだ左腕は、デビュー戦でいきなり6回(92球)を投げ、無失点の好投で勝利を記録。この快投で勢いに乗ると、7先発で無傷の5勝。防御率1.08、WHIP0.82とほぼ完璧な内容で、ナショナル・リーグの3、4月の最優秀新人にも選出されるなど、米球界で旋風を巻き起こしている。

 メジャーリーグでの今永のピッチングスタイルを見ていると、ホップ成分の高いフォーシームを高めに投げ込み、スライダーやスプリット、チェンジアップなどの変化球は低めに丁寧に集める特色が見て取れる。

 DeNA時代はフォーシームも低めに集め、高低で勝負するスタイルではなかった。しかし、メジャーでは一転、高めのフォーシームこそが一番の武器となっている印象なのだ。

 この今永のピッチングを見て思い出されるのが、昨年にベイスターズに在籍したトレバー・バウアー(現レッドデビルズ=メキシコ)の「日本では低めのストレートが効果的」の言葉だ。

 日本でバウアーがデビューを飾った際にマスクを被った若手捕手の益子京右は「自分のストレートは、ベルトより上が一番効果的と言われました」と証言。そのままのスタイルで初戦こそ勝利したものの、その後に大物助っ人は2回連続して“炎上”した。

 必然的に修正を強いられた右腕は、「日本で活躍している山本由伸や佐々木朗希のピッチングをビデオで研究した」と自慢の頭脳をフル回転した。そこで得た最適解は「ストレートも低めに投げる」だった。

 そこからの投球は見事と言うほかにない。最終的に19先発で、10勝(4敗)、防御率2.76、WHIP1.15の好成績を収め、チームのクライマックスシリーズ進出のキーマンとなった。一軍の女房役だった伊藤光も「(バウアーは)よく理解してくれた。相手のバッターも低めにストレートが来ると思うと、今度は高めのストレートも活きてきた。それができるピッチャー」と称賛を惜しまなかった。

 このバウアーの経験則の逆説こそ、いまの今永の成功しているスタイルと重なっていく。メジャーのバッターは“フライボール革命”に象徴されるように、長打になりやすいといわれている“バレルゾーン”にどれだけアジャストできるかに重きをおいている。

 打者はややアッパー気味のスイングを徹底し、低めのストレートはすくわれる傾向が高く、逆に高めにキレの良いストレートを投げ込めば、バットはボールの下を通過していくか、当たっても飛距離の出ないフライとなる確率が高くなるのだ。

日本では投球スタイルを変化させ、順応していったバウアー。この大物助っ人の姿勢は今永に小さくない影響を与えた。(C)KentaHARADA/CoCoKARAnext

今永の直球がメジャーの打者を幻惑させるワケ

 日本でもバレルゾーンを意識する選手は以前よりも増えてはきている。だが、いまだレベルスイングでコンタクト率の高さを重視したバッティングをする傾向は強く、高めのストレートを長打にされるケースは目立つ。

 ゆえにメジャースタイルで挑んだバウアーの高めのストレートは、いとも簡単に弾き返され、今永も被ホームラン率は決して低くなく、高めのストレートで被弾することも散見された。

 自らの経験はもちろん、チームメイトだったバウアーの両極端な姿を目の当たりにした今永の脳裏には、しっかりとこれらの事象がインプットされていたと考えられよう。

 また、昨季途中から肘のアングルを下げたフォームも、メジャーでは効果的となっていそうだ。昨年は「スライダーを曲げるため」や「ストライクを取りやすくするため」とフォーム変更の理由を説明していた。この時点で今永がメジャー挑戦に向けた試みとして取り組んでいたかは不明だが、結果的に功を奏していることは明白だ。

 178センチと米球界においての今永は小柄な部類に入る。彼が日本よりも傾斜のついたマウンドに馴染む意味でも、角度を付けるのではなく、より水平に体重移動をする現フォームは効果的になっている。さらに肘を下げ気味に振ることで、低い位置から高めに吹け上がるような“ライジングボール”が打者を幻惑させている。

 結果的に、全投球の6割近くを占める自慢のフォーシームで、屈強な大男たちのバットを次々と空を切らせている。メジャーでは決して速くない最速153キロ、平均148キロの直球を武器に、奪三振率9.29と、昨年の日本での10.58に迫る数字にも繫がっていると見る。

 この点も、メジャーでは決して恵まれた体躯ではなく、完全なオーバースロー投手でもなかったバウアーとの共通点と考えられる。「いろんなアドバイスもいただけましたし、マインドもスキルも間近で見られた。僕自身のキャリアをしてものすごくいい一年間をバウアーとともに過ごさせていただいた」と感謝を口にし、変化球や投球術について常に情報交換をしていた2人だっただけに、フォームを含めあらゆる面で参考にしていたとしても決して不思議ではない。

 2009年の冬。横須賀にある球団施設「DOCK」で初遭遇し、昨年はともに戦う仲間となった“投げる哲学者”と“ベースボール・サイエンティスト”。運命の目に見えない糸でつながったサイ・ヤング賞投手のエキスも力に、今永はハマのスターからシカゴのエースへと昇り詰めていく。

[取材・文/萩原孝弘]

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