<片づけに問題を抱えている人>20人に1人。家族を失ったり、社会とつながりが希薄になったりする高齢者は「喪失感」からモノを手放すのがより困難に…
2025年5月21日(水)12時30分 婦人公論.jp
(イラスト:ナカミサコ)
片づいた空間は安全で暮らしやすく、気持ちのいい場所とわかっていても、なぜそれを実践できないのか。その原因を心理学の専門家が解き明します(構成:島田ゆかり)
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救急隊が中まで入れないという事例も
モノやごみが屋内や屋外に積まれることにより、悪臭や害虫の発生、崩落や火災等の危険が生じる「ごみ屋敷」。環境省の「令和4年度『ごみ屋敷』に関する調査報告書」によると、過去5年間のごみ屋敷事案は5000件を超えています。
ごみ屋敷とまでいかなくとも、部屋にモノが多すぎて救急隊が中まで入れないという事例もありました。これでは快適に暮らせないどころか、安全な場所ですらありません。
今や、片づけに関して問題を抱えている人は20人に1人と言われています。実はそのなかには、「ためこみ症」という心の病気が原因のケースも。これはうつ病や強迫症、ADHDなどと並ぶ精神疾患のひとつで、2013年にアメリカ精神医学会の診断基準に新しく加えられ、19年にはWHOの国際疾病分類にも加えられました。
ためこみ症の特徴は、日常生活に支障をきたすほど、モノをためこんでしまうこと。たとえば、浴室にモノが積み上げられていたり、ダイニングテーブルに食料品やチラシ、書類などが積まれて食事ができなかったり、ベッドの上がモノに占領されていて寝られなかったり。
モノに対して強い思い入れがあり、処分すると自分の一部を失うような感覚に襲われることもあるのです。
コレクターと異なるのは、ためこんでいるモノに一貫性がないこと。着ない洋服や使わない食器、食べない食品、お菓子の箱……。
決して価値が高いモノというわけではありません。なかには宅配弁当の空き容器を「何かに使えるかも」と、いくつも保管している人もいます。
ただし、モノが多い、あるいは片づけが苦手な人=ためこみ症というわけではありません。多くの人は、生活空間はある程度片づいていても、押し入れや納戸には大量のモノをしまい込んでいるのではないでしょうか。
これは現代社会における必然で、誰にでも起こる一般的なことと理解していただいて大丈夫です。世の中はモノにあふれ、手に入れるのも簡単ですし、テレビやネットから購買意欲をそそる誘惑がひっきりなしに飛びこんできます。
加えて、ストレス過多の社会では、買い物がストレス解消になっている場合もあるのです。
とはいえ、冒頭にもお話ししたとおり、緊急事態の際に、大量のモノのせいで安全がおびやかされることになるのは問題。ですから、モノの適量を見極める方法を知っておきたいものです。
手に入れたい、手放せない理由は
ではそもそも、私たちはなぜモノを手に入れたい衝動に駆られるのでしょうか。あるいは、使わないと理解していても手放せないのはなぜでしょうか。
まず、モノを手に入れたいという意識のなかには、動物がエサの不足する時期や冬眠に備え、エサを隠す「貯食行動」と同じ心理が働いていると考えられます。人間でいうと貯金のようなもので、その背景には「リスクへの備え」があるのです。
近年多発する自然災害の影響で、日本では非常時の備えに対する意識が浸透してきました。非常食や水、簡易トイレなどをある程度まとめて保管しているご家庭も多いのではないでしょうか。
老後のための貯金も然り。これは当然ながら、リスク回避のためであり、ためこみ行為ではありません。
ただし「モノがあると安心できる」という心理は、モノを手に入れるという行動と密接につながっているのも事実。必要な時にないと困る、だから買ってためておくという行動が、時として過剰になることもあるのです。
そのほか、「私はこれを持っている」という満足感や高揚感を得たいがために、モノを手に入れるということもあるでしょう。ブランド品や流行りのモノを手に入れたいと思うのはこれに当たります。
そして、「このチャンスを逃すと手に入れられない」という強迫観念も要因になりがち。旅先でお土産や限定品などを目にすると買わずにいられない、という人は少なくありません。セール品など得した気持ちになるモノはその最たるもの。必要ないのに買ってしまうというケースが多々あります。
ある高齢者のお宅では、押し入れから大量のトイレットペーパーが出てきたことがありました。聞くと安売りしていたから買っておいたと言います。
しかし、長い間使わずしまわれていたため、紙がパサパサに劣化し使えなくなっていました。安く買えたどころか、結果はお金が無駄になったわけです。皆さんも、思い当たることがあるのではないでしょうか。
では、手放せない理由は何なのか。これもいくつか要因があります。
まず、手に入れる時と同様に、「リスク回避」が挙げられるでしょう。これを捨ててしまったらあとで困るかもしれない。いざという時のためにとっておいたほうがいい、という心理です。
そのほか、「まだ使えるのにもったいない」と考えるケース。新しいタオルがたくさんあるのに、使い古されたタオルばかり使っているお宅をよく見かけます。「もったいない」がいきすぎたり、長年使っているほうが使い勝手がよかったりするのが理由のようです。使っていない食器や洋服も同じような理由が考えられるでしょう。
そして、思い出にひもづいたモノへの愛着も手放せない理由のひとつ。さらに、「ミスをしたくない」という心理も理由になります。たとえば、書類などを「処分して困ったらどうしよう」というものです。
これらの心理は、高齢者になるほど、より強くなる傾向があります。家族を失ったり、自身の健康を損ねたり、社会とつながりが希薄になったりという経験を重ねると喪失感を覚えるようになり、モノを失うことにも抵抗が出てくるのです。
そうなるとモノを手放すのがどんどん困難に。けれど、体力・気力・行動力などが衰える高齢者ほど、安全感のためにも、スッキリ片づいていたほうが望ましいのです。
<後編につづく>
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