関節や腰痛で病院に行っても<異常なし>と診断され、湿布や痛み止めをもらって帰される。その理由を専門医「実はありふれた痛みほど治すのは難しく…」
2025年3月7日(金)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
肩こりや腰痛に悩み、病院に行ってレントゲンを撮っても「原因がわからない」と診断されてしまった……という方もいるのではないでしょうか。オクノクリニック総院長の奥野祐次先生によると、このような<ありふれた痛み>の原因は<血管>にあるとのこと。そこで今回は、東京医科大学准教授・遠藤健司先生との共著『こんなに痛いのにどうして「なんでもない」と医者に言われてしまうのでしょうか』から、奥野先生による解説を一部お届けします。
* * * * * * *
ありふれた痛みは、治すのが難しい?
「関節が痛くて病院を受診したのに、有効な処置をしてもらえなかった」
そのような経験はありませんか? 特に肩や膝などの関節の痛み、肩こり、腰痛など、多くの皆さんが困っている「ありふれた」痛みや症状は、病院で診てもらっても根本的な解決法が提示されないことが少なくありません。
レントゲンを撮ったり、場合によってはMRIまで撮影したのに、「大きな異常が認められない」とか「手術するような場所はないですね」などと言われ、湿布や痛み止めをもらって帰ったことがある人は多いことと思います。「こんなに痛いのに、なぜ?」と疑問に感じた方もいるかもしれません。
2013年に行なわれたアンケート調査では、成人のうち約22%の人が、腰や膝など体のどこかに3カ月以上の痛みを抱えていると回答しています。さらにその人たちに「病院や医療機関で、あなたの痛みは満足に改善しましたか?」と質問したところ、7割の人が「いいえ」、または「十分ではなかった」と答えています。【文献(1)】
実は、肩こりや腰痛、五十肩や膝の痛みなどの「ありふれた」痛みこそ、治すことが難しいということを、皆さんお気づきでしょうか?
【文献(1)】矢吹省司,牛田享宏,竹下克志・他:日本における慢性疼痛保有者の実態調査—Pain in Japan 2010 より。臨床整形外科 47:127 〜 134,2012
肩こり、腰痛、ヘバーデン結節の実情
例えば肩こりを例に挙げましょう。これは症状を抱えている人の数(有訴者数)が女性では1位、男性でも2位という、とても頻度の高い「ありふれた」症状です。
しかし、肩こりで困っている人がこれほど多いにもかかわらず、肩こりの原因はほとんど何もわかっていないと言えるほど、肩こりに対する医療は進んでいません。そして医療機関に行ってもこれまでは有効な治療法が提示できていませんでした。
パソコンの普及とともにデスクワークが増えて、スマートフォンが普及して、これだけ多くの人が肩こりに悩まされているのに、それを治す方法が見つかっていないなんて非常に困ったことだと思いませんか? しかし、実情はそうなのです。
次に腰痛はどうでしょう?
世界で最も権威のある医学雑誌の1つである『ランセット』に掲載された研究によると、今ある腰痛治療のほとんどが根本的な治療ではなく、症状を一時的に緩和するための「対症療法」であり、反対に有害なものも多く行なわれている(それくらいきちんとした医療行為がない)と報告されています。【文献(2)】
私は、2024年の6月21日に、テレビ朝日の『羽鳥慎一 モーニングショー』という番組に出演しました。その際のテーマは「ヘバーデン結節」で、指先に痛みが出る疾患です。
このヘバーデン結節に悩む患者さんは国内に300万人、あるいはそれ以上いるとされていて、レントゲンで見ると、3人に1人は手の第一関節に変形があるとも言われています。ヘバーデン結節になると日常生活で当たり前にできていたことができなくなります。
しかし、このヘバーデン結節も、今まで病院では治らないと言われてきました。現在でも、多くの整形外科では「治らない」と患者さんに伝えています。
【文献(2)】Non-specific low back pain. Maher C, Underwood M,Buchbinder R. Lancet. 2017 Feb 18;389(10070):736-747.
大きな病院に行けば、最善の治療が受けられる?
必ずしも大きな病院に行けば、より良い治療が受けられるというわけではありません。
皆さんご存じのことかもしれませんが、そもそも大学病院や総合病院などの大きな病院は、ありふれた症状を診る場所ではありません。肩こりや五十肩やヘバーデン結節を診療する施設ではないのです。
(写真提供:Photo AC)
では、大きな病院ではどんな病気を診ているのでしょうか? 大きな病院は「重大な病気」を診療することが目的なのです。命に関わってしまうような病気であったり、何かほかの遺伝的な病気を抱えているために簡単には解決できないような患者さんを診ていたりします。
腰や関節でいえば、大きな手術が必要とされる病気、例えば強く脊髄が圧迫されて麻痺が生じてしまった、骨折がある、そういった場合に大きな病院での診療がなされています。
「なんでもない」と言われてしまうワケ
命に関わる「重大な病気」への医療はもちろん大事ですが、そのような病気に多くの人がかかるわけではありません。肩こりや五十肩、ヘバーデン結節に比べれば、患者さんの数は少ないのです。大きな病院というのは、集中した医療が必要な状態の方のみを対象にしています。このため役割がまったく違います。
重大な病気を診ることを使命としている大きな病院の医師が「重大な病気ではないな」と判断した時点で、自分たちの出番ではないとされてしまいます。
皆さんが改善を期待して、せっかく大きな病院を受診したのに、「大したことはないですよ」「レントゲンではそこまで悪くないですね」「手術するほどではありません」「加齢のせいですからあきらめてください」などと言われてしまうのには、そのような背景があるのです。
※本稿は、『こんなに痛いのにどうして「なんでもない」と医者に言われてしまうのでしょうか』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
関連記事(外部サイト)
- 病院に来られても骨に異常がなければ湿布だけ?「対応が間違っているとは言いきれない。問題は…」整形外科医が語る<関節痛>治療のウラ側
- 樋口恵子×下重暁子 歳を重ねたら避けられない<膝の痛み>。樋口「私の場合、なんと20年経ってから古傷が急に…」
- 整形外科医「残念ながら軟骨は一度衰えると…」歩くとひざが痛む、動かすと肩が痛い<関節痛>が起こる2つの原因を解説
- 広告で見かける<関節痛に効くサプリメント>に効果はあるの?「今のところエビデンスは…」自力で痛みを和らげる方法を整形外科医が解説
- <関節痛>を食事で改善?「これが効く!という食べ物はないものの…」整形外科医が炎症を抑える効果が期待される食品を紹介