【インディ500現地詳報】まさかの冷涼コンディション。パロウの無敵ぶりと、トラブルで首位を去った戦士たち
2025年5月26日(月)16時10分 AUTOSPORT web

2025年は開幕戦から5戦4勝の快進撃を見せてきていたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)が、その勢いのままに第109回インディアナポリス500マイルレース(インディ500)までも制覇した。
これが彼にとってはオーバルでの初勝利で、今シーズン6戦での5勝目。そのうち勝てなかった1戦も2位で、手のつけられない圧倒的な強さだ。インディカーにデビューして6シーズンのスペイン人ドライバーは、4回目のチャンピオンシップを3年連続で獲得する可能性を、また高めたということだ。
■初ハイブリッドかつ低い気温のなかで見せた随一の走り
今年のインディ500では、『昨年のように、少なくともトップグループの先頭2台では半周毎か1周毎にポジションが入れ替わるようなレースになる……』というドライバーたちの予測が完全に外れた。コース上でのトップ交代は数えるほどしかなく、その後方でもパスはなかなか難しくなっていた。
それは、ハイブリッドシステムの導入で重量増&バランスが変わったマシンのハンドリング・キャラクターによるのか、それとも非常に低くなった気温(17度)と路面温度のせいだったのか、低温度の影響を受けたタイヤのパフォーマンスによるものだったのか、コンディションに合ったセッティングをほとんどのチームが施せていなかったからなのか……。
今年は数多の要因が絡む複雑なバトルとなったが、そんななかでも終盤の上位バトルでポジションを上げるパスを複数回実現したのがパロウだった。今季すでに4度の勝利と2位を得ている彼の10号車については、プラクティス開始時から“前を行くマシンに近づけているのはあのマシンぐらいでは?”という声が聞かれていた。
プラクティスの段階でも、トラフィック内部での走りで彼に続いていたのはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)とジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)、スコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)くらいで、パロウのパック(集団)での速さはレースで充分に発揮された。
25周ほどを残すレース終盤、いまだ4〜5台のパック内で勝機を探っていた彼は、初優勝へ邁進していたしたデイビッド・マルーカス(A.J.フォイト・エンタープライゼス)を最終スティント序盤で抜き去り、さらに目の前にピットアウトしてきたオーバーカット組のマーカス・エリクソン(アンドレッティ・グローバル)も早々に攻略。動きの良さは目に見えて明らかだった。
パロウが首位に立ったのは、187周目のときのことだ。まだラストスパートのバトルが残る段階ではあったが、以降2番手以下に隙を見せることはなく、13周を残しながらもエリクソンを抜いたパスが、パロウのインディ500初優勝を決定づけるトップ交代劇となった。
「マーカスをパスできるかは100パーセントの自信はなかった」とレース後にパロウは吐露し、「それでも、そのパスを実現できた。信じられないほど素晴らしい1日になった」と笑顔を見せた。2位フィニッシュのエリクソンは、「またしても……の2位(2023年大会以来2度目)。大きな痛みを感じざるを得ない。勝者総取りみたいなものだから、インディ500は」と話していた。
■先頭を走りながらもトラブル。パロウの後塵を拝したドライバーら
3連覇を目指したジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)は、ペナルティで最後列センターのグリッドからスタートしながらも、チームのピット作業の速さを武器にポジションを大幅アップ。しかし、終盤に入ってからメカニカルトラブルが起きてリタイアとなった。
またルーキー・ポールシッターのロバート・シュワルツマン(プレマ・レーシング)と、51周をリードした佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、どちらも3度目のピットストップ時のミスで勝利から遠ざかった。琢磨は所定の位置に止まり切れず、大幅にタイムロスして後退。シュワルツマンもボックス直前でマシンを滑らせて4人のクルーに激突し、マシンも壊してレースを終えた。
中盤以降48周をリードしていたライアン・ハンター-レイは、自身のインディ500での2勝目、ドレイヤー&レインボールド・レーシング・キュージック・モータースポーツにとっては悲願の初優勝に大きく近づいた。そのパフォーマンスは大きな賞賛に値する。
メインのマシンがプラクティス中に火災を起こし、決勝はバックアップカーでの出場だったが、マシンの仕上がりは驚くほど良く、ピットタイミングも的確で、燃費セーブも効果的に行ったことで、ラストピットまでには大きく優勝に近づいた。しかし、最終のひとつ手前のスティントを1周長く走ってしまったか、ピットに向かうターン4で燃料切れが起き、さらにピット作業後にエンジンがストール。すんなりとコースに戻れず、勝機を逃した。
パロウと直接バトルを繰り広げたなかでは、コナー・デイリー(フンコス・ホーリンガー・レーシング)も大健闘していたが、最後に失速。パト・オワード(アロウ・マクラーレン)は「3回の2位フィニッシュをバネに今回こそ優勝を!」と最後にチャージを見せたが、パロウのパフォーマンスにはまるで叶わず、今回は4位で終えた。
ペンスキーとの提携以降速さを増しているA.J.フォイト・エンタープライゼスの2台もパロウとバトル。一歩及ばなかったものの、マルーカスとサンティノ・フェルッチは素晴らしい活躍を見せ、マルーカスは3位で初のポディウムポジション、フェルッチは5位でデビュー以来続くトップ10フィニッシュを7回に伸ばした。
エンジンサプライヤーとしては、優勝がパロウ、2位がエリクソンでホンダが2022年以来となるワン・ツー・フィニッシュを達成。パロウの所属するチップ・ガナッシ・レーシングにとっては、2022年のエリクソン以来となる、6回目のインディ500優勝となった。
(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)