「子どもがAVで性を学ぶ」という恐ろしい現実…「暴力的な行為を喜ぶ女性」という構図を真に受けてしまう
2025年4月25日(金)8時15分 プレジデント社
※本稿は、斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/tongpatong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tongpatong
■子どもが性を学ぶツールはほぼAVという現実
【櫻井】中高生が性に関する情報をどこから得ているかというと、「ネット」と「友達」が圧倒的多数です。
【斉藤】ああ、例のグラフですね。上が中学3年(男子)のデータです。44.9%がSNS。下の棒グラフは高校1年生(男子)です。
斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)より
【櫻井】子どもによっては、一部に保護者のコレクションDVDやエロゲ(ゲーム)が出てきます。やはり、動画になって音声が入るというメディアが、興奮度を高めるのでしょう。
【斉藤】今の子どものたちの周辺にあるアダルトコンテンツは、嗜癖行動の観点からは、報酬系を効果的に刺激し、中毒性が高まる要素が満載です。
【櫻井】斉藤さんたちと一緒に行っている性犯罪再犯防止プログラムでは、性教育のイメージと性教育の受講歴を必ず聞くのですが、そこでもAVが出てこないことはありません。現在の一般的な性教育ではセックスについて語られないけれど、多くの子が本当に知りたいのはセックスなのだと感じます。隠されれば隠されるほど興味が湧くものです。
【斉藤】例えば、セックスの順番からどうやって終わるかなどを、どこで学習するかというと、AVしかないのが現状でしょう。
【櫻井】しかも、今の子たちはスマホで手軽に、「ショート動画」で一番過激な部分のみを見ます。「出会って4秒で合体」といったタイトルがありますが、そこにコミュニケーションは一切ありません。
セックスはコミュニケーションそのものであるはずなのに、動画で学ぶと、いろいろな問題が引き起こされてしまいます。
■ネット上のアダルトコンテンツにはハマりやすい
【斉藤】そうですね。プログラムに参加している人たちも、「性犯罪をどこで覚えたか」ではなく、「性行為をどこで学んだか」と聞くと、みんなやはりAVだと答えます。もうそれ一択しかないぐらいの割合です。それ以外で学んだという例は、ほとんどありません。
AVと性犯罪との関連性は結構難しい話題で、結局AVが性犯罪行動を直接的に助長しているという研究やエビデンスはありません。私自身も性教育のプログラムをやりながら自分なりの考えをまとめた意見としては、AVがすべて悪いと捉えているわけではありません。子どもたちがアダルトコンテンツに最初に触れる前に、基本的な性教育を受け知識をインプットし、それが前提として情報を自らが選択できる力を身につけたうえでアダルトコンテンツにアクセスするというかたちが理想的です。
でも、現実的には、各自所有しているスマホで、ネット上のあらゆるアダルトコンテンツにいつでもどこでもすぐにアクセスできるという状況があります。自慰行為を始めたばかりの男子が現代の倒錯的なコンテンツを見たら、誰でもハマるリスクあると思うんですよね。はまりやすい要因としては以下に三つあります。
一つは、先ほど述べた「アクセスのしやすさ」です。これは、行為依存を考える上で絶対に外せない条件です。二つ目は、「報酬の即時性」。これは、その行為によってすぐに得られる報酬(メリット)があるということです。自慰行為では、すぐに性的興奮や射精といった生理反応から心理的苦痛の緩和が得られます。三つめは、そのことによる「自己効力感の肯定的な変化」があるということです。スマホでアクセスできるアダルトコンテンツには、この三つの「ハマる要素=行為依存の条件」がすべて揃っています。
■アダルトコンテンツに触れる前に「情報を選択する力」を
【斉藤】話を少し戻しますが、この世の中から、アダルトコンテンツをすべてなくすというのは非現実的な話です。二次元ポルノの表現規制を訴えている人たちには、過激なポルノ、特に暴力的なものなどは一切なくしたほうがよいという意見もあります。しかし、実際には、コンテンツにはグラデーションがあって線引きが非常に難しい。暴力的や倒錯的なものもあれば、動物と性行為するとか、汚物を食べるとか一般的な人にはどこが性的興奮につながるのか理解しがたいものなど、本当にものすごくいろいろなジャンルがある中で、全部に異常と正常のように線引きをするのは基本的に無理だと思います。
何度も言いますが、そうしたアダルトコンテンツに触れる前の段階できちんと包括的性教育を学んで、自分で情報を選択する力を身につけた上で、選択する。こうした形が現実的だと思っています。
■AVの中で女性は「モノ化」されている
【櫻井】本当にそう思います。しかし、今のところ私が中学校や高校などで見る現実としては、性教育は行き届かないまま、セックスに興味をもち、それを知りたいと思ったら、最も身近なスマホの中の情報になるのです。
性犯罪とAVがどの程度結びついているか、私もわかりません。ただ少なくとも、AVが暴力的な性行為を学ぶツールになっているとは感じます。しかもAV制作会社が規約を守って制作しているものではなく、違法の限りを尽くして垂れ流しているネット上の媒体が身近です。
その中では、女性たちは完全に「モノ化」されています。そしてそのモノ化された女性たちも、喜んでいるように演じています。あれがすごく罪をつくっていると考えています。本来ならば、暴力的な行為をされて喜びを得ることはありません。それを、学ぶ前のコミュニケーションも発展途上の子どもたちが見たら、鵜呑みにしてしまう。
それを、プログラムに参加している人たちではなくて、性教育の講演で会う中学生などから感じています。AVの演出に憧れを抱いてしまっている声も耳にします。男子だけでなくて、女子も、ああしなければいけないんだと思い込んでしまっている。それが加害に結び付くかはさて置き、誤解を与えているというのは間違いない事実だと思います。
斉藤さんがさきほどおっしゃったように、その前に性教育が、それも、狭義の性教育じゃなくて人権、多様性、ジェンダー平等を基盤にした「包括的性教育」で学びを得るチャンスがあれば、「こんなふうに人をモノのように扱うのは暴力だ」と気が付けると期待します。
■はじめて見たAVの衝撃で人生が変わってしまった
【斉藤】性加害を繰り返す人の中には、「AVを模倣してやりました」という人が一定数います。
私が講演会で時々出すスライドがあります。最初に見たAVが、セーラー服を着た女子中学生を追いかける。追いついて、スカートの上から射精すると、女子が観念して嬉しそうな顔をしている。
彼は今も時々、プログラムに来ていますが、その動画がすごい衝撃だったと話します。「こんなマニアックなプレーがあるんだ!」と。しかも、それをされて女性が喜ぶというのは強烈に記憶に残って、自分もやってみたいと思い、彼は実際にやり始めてしまいました。結局その加害行為を繰り返し続け、刑務所にも計4回入りました。彼とは、そのAVに出合わなかったら、どういう人生になっていたかという話によくなります。
■日本のAVは「イヤよイヤよも好きのうち」に偏っている
【斉藤】もちろん動画を見たすべての男性が、同じような経過をたどるわけではありません。彼の家族関係、育った地域の状況、貧困の問題、小児期逆境体験など、いろんな要因も複雑に絡んでいます。しかし、少なくとも彼は最初に出合ったAVを模倣したのが、最初の加害のきっかけとなりました。やってはいけないと思いながらも加害行為を繰り返し、最後はある地方で捕まりました。射精の代理行為で別のものを女性のスカートにかけたこともあります。それが特異な犯行内容だったので、報道もされました。
私はクリニックで、彼とその一連の犯行サイクルを振り返っていたのですが、加害行為の前提にあった価値観は「最後は被害者も喜んでた」というものです。日本のAVの構造は、つくりの基本形が似ているんですね。「イヤよイヤも好きのうち」という一方的な男性目線のパターンです。
海外のAVについては、詳しくは知りませんが、女性が主導権を握るケースも多く積極的など、対等性を背景にしたつくり方をしているものが多いというふうに、海外の女性がインタビューで答えているのを見たことがあります。もちろん海外にも倒錯的なコンテンツはあるとは思いますが。
【櫻井】女性向けのAVもありますね。従来の映像とはコンセプトが違い、セックスの前のコミュニケーションに重きが置かれていることが多いと受け取れます。こうしたものから知れることもあるのではないかと思います。
■ポルノを見る前に男の子に伝えたいこと
【斉藤】やはり男性が主体でつくるAVは一方的な視線になっていると思います。AVの影響を受けて行動化する人がどれくらいいるのかのエビデンスはクリニックにはありませんが、少なくとも加害者臨床の現場ではよく耳にする話です。一方で、警視庁のデータでは、警察庁科学警察研究所が1997~98年、強姦(ごうかん)や強制わいせつの容疑で逮捕された553人に行った調査では、33.5%が「AVを見て自分も同じことをしてみたかった」と回答しています。
斉藤章佳・櫻井裕子『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)
少年に限れば、その割合は5割近くに跳ね上がっています。ポルノ問題に詳しい中里見博大阪電気通信大教授(憲法)は「女性や子どもを『モノ扱い』する過激なAVは、性暴力を容認する価値観を、見る者に植え付けかねない」と指摘しています。それらを簡単に見られるインターネットの爆発的な普及で、危険性は高まっていると警鐘を鳴らしています。
性加害(レイプ)の最後に、女性の顔に向けて射精をして終わるといったパターンを当たり前だと信じている加害者もいました。
【櫻井】何年か前に、アベマTVの『Wの悲喜劇』に出演したときに、「素人童貞」を名乗る方がいました。彼は女性の顔に射精する、いわゆる「顔射」がセオリーだと思いこんでいて、風俗の人に顔射して、「それっきり出入り禁止になりました」と話していました。大人もAVによって誤学習しているのですよね。
AVについて子どもたちと面と向かって家庭で話すのは、相当難しいです。ある程度の年齢のお子さんなら、見てることを知っていても、スルーしている保護者もいるでしょう。でも、完全に放置していて大丈夫か心配になることもあります。
スマホで、子どもたちは危険なコンテンツを見せられています。「ネットなどには、過激なポルノがあるけど、つくりもの。安易にマネするのは危険なこともある」とどこかしらで伝えたいものです。
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斉藤 章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、長年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで2500名以上の性犯罪者の治療に関わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(ともに幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)がある。
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櫻井 裕子(さくらい・ゆうこ)
助産師/さくらい助産院開業
自身の妊娠・出産を機に助産師を目指す。大学病院産科や産婦人科医院などでキャリアを積み、現在、地域母子保健事業、看護専門学校非常勤講師を務めると共に、小中高大学生&保護者に性に関する講演を年間100回以上行っている。また、思春期の子どもたちからの対面、電話、DM相談も多数受けている。著書に『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社)、共著に『性的同意は世界を救う 子どもの育ちに関わる人が考えたい6つのこと』(時事通信社)がある。
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(精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳、助産師/さくらい助産院開業 櫻井 裕子)
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