【中野信治のF1分析/第15戦】新体制を進めるメルセデスと決断難しいレッドブル。FIA F2で期待される次世代F1ドライバー

2023年9月9日(土)12時0分 AUTOSPORT web

 モンツァ・サーキットを舞台に行われた2023年第15戦イタリアGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が史上初の10連勝で今季12勝目を飾りました。今回はレース内容からちょっと話を変えて、イタリアGP直前に発表されて話題となったメルセデスのルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルの2年契約延長や、将来へ向けて厳しい状況が続くセルジオ・ペレス(レッドブル)、そしてF1昇格を前に全日本スーパーフォーミュラ選手権で見てみたいFIA F2ドライバーについて、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。


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 イタリアGPは予選こそ地元フェラーリが1-3でティフォシ(熱狂的なフェラーリファン)を歓喜させましたけど、決勝はやはりレッドブルがスピードを見せつけ、フェルスタッペンが独走で史上初の10連勝を飾り、F1の個人連勝記録を塗り替えました。


 そんなイタリアGP直前にはメルセデスがハミルトン、そしてラッセルとの2年契約延長を発表し、現在のコンビで2025年シーズンまで戦うと明らかにしました。今回のニュースを目にし、私はやはりメルセデスはしっかりと世代交代を考えているチームだと感じました。


 ハミルトンはベテランの域に達しつつも闘争心は衰えていません。そのハミルトンをチームメイトに走るラッセルは日々レベルを上げてきています。ラッセルはまだまだハミルトンから学ぶところも多いのですけど、メルセデスはラッセルを次のエースに据えようとしています。ラッセルを育てるという意味で最高のチームメイトになりうるのはやはりハミルトン以外にはいませんし、そこがハミルトンとの契約2年延長の一番大きなポイントになったと思います。


 2026年にF1はレギュレーションの大幅な変更実施を予定しています。その2026年までにラッセルを、ハミルトンを超えるドライバーにまで育て上げ、2026年のラッセルのチームメイトにはまた新たな才能を呼び込む。そんな絵を描いているのかなと感じましたね。

2023年F1第12戦ハンガリーGP ルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセル(メルセデス)


 また、メルセデスに関してはチーム代表トト・ウォルフが不在のグランプリでは、ドライバー育成ディレクターという肩書きでチームに加入したジェローム・ダンブロジオがチーム代表代理を務めるという報道もありました。これも次の世代にバトンを繋いでいく流れです。


 ビジネスマンとしても非常に優れているウォルフですから考え方も論理的で、チームが後退せず、常に前進し続けるためには、同じ人物が長くチーム代表に居続けることはあまり良くないということも、わかっているのでしょう。一連の流れを見るに、メルセデスはこれからのF1をはじめとするモータースポーツチームの、ドライバーやチーム幹部の世代交代プロセスのロールモデル(模範)になっていくでしょうし、同様のプロセスを踏むチームはF1を中心に増えてくるのではないかとも思います。


 技術進化も著しい今は、組織も人も変化を率先して受け入れるべき時代です。その変化を素早く受け入れるチームが最後まで生き残り、そして勝ち続けることができます。メルセデスは、チームをレースをするだけの集団としてではなくひとつの会社組織として、どのように組織を育てれば将来も競争力を維持し続けられるか、そして進化させられるかをしっかりと考えているのだと感じました。

2023年F1第1戦バーレーンGP ジェローム・ダンブロジオ&トト・ウォルフ代表(メルセデス)


■ペレス復調に向けた鍵


 一方、レッドブルと2024年末までの契約を結んでいるペレスに関しては、海外メディアが今季の報酬減額を報じたり(編注:報酬減はヘルムート・マルコが否定)、2025年のマックス・フェルスタッペンのチームメイトについて、チーム代表のクリスチャン・ホーナーが「2025年のドライバー候補は大勢いる」とコメントするなど、厳しい状況が依然として続いています。


 ペレスはいい走りを見せよう、アピールしようと試みてあまりいい結果が生まれないという印象です。ペレスにはペレスの戦い方がもともとあったはずです。そこに原点回帰する方が成績の向上と安定には重要なのかもしれません。


 2023年シーズン序盤はペレスが得意なストリートコース連戦が続きましたが、そこからロードコースの多いシーズン中盤を迎え、その頃にはフェルスタッペンが今季のマシンを完全に乗りこなせる領域にまで達したので、以降ふたりの成績には大きな差が生まれてしまいました。これはペレスがどうというよりも、フェルスタッペンにかなりの伸び代があったということだと思いますし、ここがフェルスタッペンの凄さですね。


 その伸び代の差を埋めようとして、ペレスはミスをしてしまう。また雨絡みの予選が多く、その度ミスを出してしまったことでトラウマのようなものを抱いているのかなとも。このトラウマと、先述したフェルスタッペンとの伸び代の差を埋めよう、いいパフォーマンスを見せようと焦ってさらにミスを誘発してしまう。こういった悪循環がペレスの現状の評価に繋がっていると思います。

2023年F1第7戦モナコGP 予選Q1でクラッシュしたセルジオ・ペレス(レッドブル)


 そのため、ペレスはパフォーマンスを引き出すためにも自分の本来に走りに原点回帰することが、一番の方法なのかもしれません。今より速くならなくてはということではなく、自分らしさを取り戻すことでイタリアGPでフェルスタッペンから6秒差の2位に入ったような、良いパフォーマンスでフェルスタッペンに挑み続けることができるのではないかなと。ずば抜けたフェルスタッペンの能力は置いておいて、レッドブルのマシンの能力を見ても、ペレスの2番手争いの走りは妥当ですし、ペレスは決して遅いドライバーではないと思います。


 来季を含めペレスが今後どうなるかは、フェルスタッペンにとってペレスという存在がどうか、という点で変わるでしょう。フェルスタッペンにとってはペレスがチームメイトだと戦いやすいですから。ただ、チームにとっては2台目のマシンがフェルスタッペンの次のポジションには居続けてほしいという点も、決断の大きなポイントになります。これ以上ペレスがフェルスタッペンから離されてしまうと困るので、チームが他のドライバーを検討する意図もわかります。


 ただ、一方でペレスの代わりとなるドライバーがいるか否かということも大切です。ランド・ノリスも候補者として海外報道で名前が上がりましたが、マクラーレンが安易手放すことはありません。レッドブル系ではリアム・ローソンもいますが、流石にいきなりローソンのレッドブル昇格はないでしょう。そうなるとペレス残留の一択なのかなとは思いますね。

ヘルムート・マルコ(レッドブルのモータースポーツコンサルタント)とセルジオ・ペレス


■F1の前にスーパーフォーミュラで見てみたいFIA F2ドライバー


 さて、F1イタリアGP併催のFIA F2第13戦では、予選でトラフィックの影響を受け15番手スタートという逆境のなか(岩佐)歩夢がフィーチャーレースでランキング首位のテオ・プルシェール(ARTグランプリ/ザウバー育成)をオーバーテイクするなど、素晴らしい走りをみせ2位表彰台を獲得しました。


 FIA F2も残すは最終戦ヤス・マリーナを残すのみとなりましたが、そんななかオートスポーツweb編集部から「中野さんがF1で見てみたいFIA F2ドライバーを教えてください(岩佐選手は当然なのであえて岩佐選手以外で!)」と聞かれました。当然、一番F1で見てみたいのは歩夢です。


 歩夢以外のドライバーで、となると難しいですね。プルシェールも、ランキング2位につけるフレデリック・ベスティ(プレマ・レーシング/メルセデス育成)もいいドライバーです。プルシェールもベスティも実力派ですし、ふたりともFIA F2フル参戦1年目から優勝を経験するなど速さを見せていました。ただ、このふたりに関してはF1よりも、どちらかと言えばスーパーフォーミュラ(SF)に来てほしいと私は思います。

2023全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦もてぎ 決勝レーススタートの様子


 FIA F2で速さを見せているふたりですし、将来F1へステップアップする可能性はゼロではありません。ただ、F1に行く前にぜひSFに来て、SFのタイトルを引き下げてF1へ行くという姿を見てみたいです。もちろん、プルシェールはザウバー育成、ベスティはメルセデス育成なので、可能性は少ないでしょう。


 ただ、来季メルセデスF1のシートは空きませんし、ザウバーが運営するアルファロメオF1の残る1シートについてもプルシェールは周冠宇と争うことから、ベスティもプルシェールも来季F1昇格の可能性は低いでしょう。そこで、FIA F2卒業後の1年間、F1ではリザーブドライバーとしてチームに帯同しつつ、F1に近いコーナリングスピードを誇るSFに乗り、実戦で強さを見せながらF1への昇格を狙うという、今季のローソンのようなスタイルをとってくれたら面白いですね。


 SFに来て成績を残せない場合のリスクもありますけど、ファクトリーでのシミュレーター作業や、ごく稀にFP1に出走するよりは断然トレーニングになりますし、レース感覚を保つ手助けにもなります。当然、SFで強いチームのシートが空くかもわかりませんし、彼らもSFに参戦するのであればどのシートで乗らなければいけないかは十分に把握しています。そういった点も含め簡単ではないとは思いますけど、我々日本のレース界にとっては、FIA F2、SFを経てF1という流れができるとありがたいなと思います。

アルファロメオF1チーム・ステークの周冠宇、テオ・プルシェール、バルテリ・ボッタス
メルセデスF1の育成ドライバー、フレデリック・ベスティ


【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。2023年はドライバーとしてスーパー耐久シリーズST-TCRクラスへ参戦。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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